第69話:人質
神歴1818年皇歴214年3月26日交易湊沖合の敵艦:ロジャー皇子視点
俺の全力を込めた睡眠魔術と麻痺魔術を受けて動ける者はいない!
そう思っているが、油断する気はない。
何十もの索敵魔術と防御魔術を展開して不意討ちされないようにする。
数千の魔力弾も展開して、敵の攻撃を相殺しつつ反撃もできるようにする。
敵艦の隅から隅まで調べると、案の定、人質が艦底に押し込められていた。
体の芯まで凍える寒さと、汚水が溜まり病原菌が蔓延する空間が艦底だ。
ほぼ全員が死にかけている状況に、再度怒りで我を忘れそうになる!
「全ての病を治し身体を回復させろ!
その為に必要な魔力と生命力は、艦底以外にいる連中から奪い取れ!
テイク・アウェイ・マジック・パワー。
テイク・アウェイ・バイタリティー。
パーフェクト・トゥリートゥメント。
パーフェクト・ヒール」
俺は呪文を唱えながら最速で敵艦まで駆けた。
海はまだ完全に凍結しているので、敵艦までの足場には困らない。
索敵魔術は展開したままだから、死んだふりしているモノがいても直ぐに分かる。
そんな危険な奴は、人質にするよりは殺してしまった方が良い。
敵艦の階段を駆け下りて艦底にいる人質を助ける。
女性は金を稼がせられるからだろう、男しかいない。
「うっ、うううううう」
「もう大丈夫だ、助けに来たぞ、もうお前達は自由だ」
一人一人艦底から連れだすのは時間がかかる。
自分の脚で艦底から甲板にまで出てもらいたい。
そのために敵の生命力と魔力を奪って与えたのだ。
「貴男は誰です?!」
「余はハミルトン皇国第14皇子ロジャーである。
お前達を助けるために来た。
今は余計な事を考えず、ここから逃げる事だけ考えよ」
俺はそう言って100人前後の人質を艦底から追い立てた。
長い間閉じ込められていたせいで足腰が弱っている。
生命力と魔力は他人から奪えても、衰えた筋力は直ぐに戻らない。
倒れそうになる者、階段から落ちそうになる者を助けながら甲板に向かう。
その間も無力化した者が復活しないか、隠れている者がいないか、常に索敵魔術を使って警戒する。
フラグと言うのか、警戒し心配していている時に、その通りに敵が復活したり新たな敵が現われたりするのが物語だが……
幸い順調に人質を甲板まで逃がす事ができた。
問題はここからだ、人質を交易都市、交易湊まで移動させたいのだが、艦底から甲板まで移動させるのも大変なのに、とても無理だ。
俺が交易湊まで行くのは簡単だし直ぐなのだが、交易湊から流氷の上を歩いて船まで来るのは、普通の人には凄く危険だし時間がかかる。
その間に無力化したはずの敵が目を覚ましたら、せっかく助けた人質をまた敵に奪われる事になる。
実際には索敵魔術も防御魔術も攻撃魔術も展開しておくから、何の問題もないのだが、それを打ち破れる敵が急に現れたらどうしよう不安になってしまう。
自分の事なら不安になったりしないのだが、運よく助けられた人質の命がかかっているとなると、余計な心配をしてしまう。
人質個人の命と人間としての尊厳もとても大切だが、それに加えて、故郷で待っているだろう家族の事も考えてしまう。
助けたの、国に戻って来たのに、俺の油断で死んでしまったとなれば、彼らの恨みは敵国や奴隷商人ではなく俺に向く。
そう思うとつい余計な心配をしてしまうのだ。
人質たちに最低限の体力と筋力があるなら、無力化した敵を艦底に押し込んで、人質たちを比較的環境の良い船室で休ませる事ができる。
だが今の人質にそのような体力や筋力はない。
「ろくなものを食べていなかっただろう。
急に肉などの固形物を食べると、胃が受け付けずに吐いてしまう。
身体が元通りになるまでは麦粥でがまんしろ。
1日6回食べさせてやるから、絶対に食べ過ぎるな、吐くぞ」
俺はそう言ってストレージやアイテムボックスから冷めた麦粥をだした。
元気な人用の、肉や魚介がたっぷり入った熱々の麦粥もあるが、それでは駄目だ。
非常用に作りしてある、病人用の身体に優しい麦粥をだしてやる。
「お前達の周りには防御結界と反撃用の魔力塊を展開しておく。
何が起きても大丈夫だから安心して食べておけ。
余は交易湊まで行って味方を連れて来る」
俺はそう言い置いて敵の魔海航行艦を去った。
不安な表情を浮かべる者が極少数いたが、大半は俺が出した麦粥に夢中だ。
餓鬼に食事を与えたように群がり食べている。
まず間違いなく食べ過ぎるに違いない。
大半の者が、胃腸が受け付けらないのに食べ過ぎて吐く事になる。
だが吐きながらも多少は胃腸に残り、良いリハビリになるだろう。
などと考えながら一瞬で交易湊の交易所と代官所にまで駆ける。
6カ月前は汚職のはびこる腐敗した場所だった。
だが俺が悪事に加担していた連中を捕らえ処罰したので、普通になっている。
まあ、ちゃんと管理しておかないと、また直ぐに腐敗するが、今はまだ大丈夫だ。
「余はハミルトン皇国第14皇子ロジャーである、貴様たちに命じる!
クラーケンは斃し、ザラタンを使い魔にし、敵艦は拿捕した。
捕らわれていた人質は救い出し、敵は無力化してある。
敵を見張るための人員を今直ぐ用意しろ!
用意した人員は、時間がかかっても良いから流氷を渡らせて敵艦まで来させろ。
来させないと主命不服従で処刑する、分かったな?!」
俺は交易所で命令して直ぐに敵艦に戻った。
展開させてある索敵魔術で大丈夫だと分かっているが、どうにも不安だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます