第15話:閑話・食事
神歴1817年皇歴213年1月29日皇都拝領屋敷:ガラリア視点
「ロジャー殿下に仕えるならよく覚えておいてください。
殿下は食べ物に関してとても厳しい面を持っておられます。
どれほど高い物を食べても贅沢だとは言われませんが、食べ残す事は絶対に許されません、食べ切れない分まで取らないように!」
ロジャー皇子殿下の叔母で護衛侍女でもあるマーベル様が厳しく言われます。
食べ物を大切にするのは当たり前の事です。
特に莫大な借金を背負わされた我が家は質素な食事が続いていました。
お爺様や兄たちが肉ダンジョンで手に入れてきた高価な肉は、5割を皇国が直接管理するダンジョンドロップ売買所に納めます。
普通は、残る5割は好きにできるのですが、ハンターの息の掛かった役人が、利息の一部だと言って全部取り上げてしまうのです。
取り上げられるからといってダンジョンに行かないと、手下を屋敷の周りに集めて聞くに堪えない悪口雑言を言い立てるのです。
それに、父上も全く言い成りになっている訳ではありません。
利息の一部だと言って取り上げる分の金額は、証明書を出してもらっていました。
「皇国貴族や士族には身分に応じたマナーがあるが、ここで身分は関係ない。
士族であろうと卒族平民であろうと、殿下に仕える同じ家臣使用人だ。
自分がマナーを守るのは自由だが、他人に強制するな」
そういう事ですか、平民出身の使用人がマナー違反しても、とがめるなと言う事なのですね、分かりました。
「テーブルにある、パン、スープ、コンビーフ、シュマルツは好きに食べて良い。
メインディッシュはモアのソテーオレンジソースだが、今日はお代わりがない。
さっさと座って食べろ!」
えっ、何を言っているのでしょうか?
モアなんて超高級品で、使用人どころか騎士でも特別な日にしかたべられません。
少なくとも私は生まれてから1度も食べた事がありません。
マーベル様は普通の騎士らしく使用人が食事の世話をしています。
最初に言っておられたように、ご自身はマナーを守られるのでしょう。
本当に食べて良いのか聞き難いです。
「マーベル様がああ言ってくださったのです、自由に食べさせていただきましょう。
私たちには世話をしてくれる使用人がいないのですよ」
お婆様がそう言って目の前にある肉料理、モアのソテーオレンジソースにナイフを入れられました。
こんな高級料理、本当に食べてもいいのでしょうか?
「おいしい、とても美味しいです!」
末弟のナックルが無邪気にモア肉を頬張っています。
私も同じように食べられたらいいのですが、なかなか食べる決断がつきません。
あ、テーブルの端にいる、護衛侍女様に仕える平民の家族が平気で食べています。
護衛侍女様に仕える練習に来ているそうですが……信じられません。
あ、別の子が白パンを取ってコンビーフを山のように乗せています。
「ガラリア姉上は食べられないのですか?」
長弟のショタンが心配そうな表情で聞いてくれます。
「ガラリア、今は何も考えずにしっかりといただきなさい。
それぞれの家によってやり方が違うのです。
1日でもはやく殿下のやり方を覚えるのが、今の私たちがするべき事です。
それに、こんな美味しい料理を食べられる機会は2度とないかもしれません。
私もモアのような高級品は結婚前に1度食べただけですよ」
殿下のやり方に慣れなければいけないのは確かです、しっかりと頂きましょう。
美味しい、これまで食べた料理で1番美味しい!
オレンジの甘みと酸味がモア肉を引き立てています!
なんて、大ウソです、モアを食べた事などないので、普通にソテーしたモアと比べようがありません。
噛みしめるように食べさせていただきましたが、本当に美味しかった。
お婆様の申されていたように、一生の思い出になる美味しさです。
最近の食事とは比べ物にならない美味しさです。
最近の食生活を考えれば、十分満足できる量なのですが、生まれてから数えるほどしか食べていない、白パンを食べてみたいです。
これまでは全粒の褐色パンやライ麦パンしか食べていませんでした。
いえ、借金を背負う前でも大麦粥が普通でした。
あまい、とてつもなく甘い、モアよりも美味しい!
「信じられない、ウソでしょ、何で、何でモアよりもコンビーフの方が美味しいの?
このコンビーフはベッカリー豚やエミューじゃないの?」
こんなに美味しい白パンにコンビーフを乗せるなんて、信じられない愚かな事をされていたお母様が、驚愕の表情を浮かべておられます。
ですがそれも当然です、肉の美味しさはダンジョンの深さで決まるのです。
現れるダンジョンモンスターの強さで決まるのです。
モアより美味しいコンビーフなら、その肉と脂はもっと深い階層のドロップなので、普通なら保存食にしたりしません、できるだけ新鮮なうちにソテーします。
ここの常識はどうなっているのですか?!
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