第8話:愚かな忠臣

神歴1817年皇歴213年1月29日皇都バカン辺境伯家上屋敷

ロジャー皇子視点


「ロジャー殿下、これは毒を盛った相手にも効くのかな?

 そうでなければミオリネの事を持ち出した意味がないが?」


「はい、直接毒を盛った者だけでなく、命じた者も探し出して殺してくれます。

 復讐神に祈りをささげた術式も組み込んでありますので、多くの魔力が必要になりますが、それは魔宝石を使う事で問題が無くなっています」


「そのように便利な物があるのなら、先ほどの毒茶を飲んでしまった方が、簡単に済んだのではありませんか?」


「それでは皇国の選帝侯たちに口を挟む隙を与えてしまいます。

 バカン辺境伯家に婿入りした以上、私にも家臣領民を守る義務があります」


「先ほどからの閣下に対する無礼の数々許し難い!

 口先だけなら何とでも言える、本当に辺境伯家の事を思うのなら死ね!」


 警備のために広い対面室の壁際に立っていた騎士の1人が、怒りの言葉を吠えながら剣を振るってきた!


 護衛騎士たちが斬り殺してしまうと色々と面倒なので、誰よりも早く移動して、絶対防御魔術を封じたネックレスを反応させる。

 

「ギャッ!」


 凄まじい勢いで俺の方に突っ込んで来た騎士が、巨人に殴られたように元の方向に吹き飛び、壁に激突して周囲に血をまき散らした。


(ヒール)


 誰にも分からないように回復魔術を使う。

 何か役に立つかもしれないから、死なさずに捕らえておく。


「これで分かって頂けましたか?

 ネックレスをつけている者を守るだけでなく、攻撃してきた者に報復します。

 養父上とミオリネ嬢には、肌身離さず身に付けておいていただきたい」


「目の前でこれほど見事に証明して頂けたら、安心して身に付けられます。

 私とミオリネの分しかないのですか?」


「フレイヤ嬢には立派な婚約者がおられる。

 身を守る魔道具とは言っても、私が勝手に宝飾品を贈る訳にはいきません。

 それは養父上の側妃である養母上も同じです」


「とても貴重で高価な物なのは分かっていますが、ミオリネを大切に思ってくれているなら、余分があるのなら、3つ目を貸して頂けないでしょうか?」


「養父上がそれで宜しいのでしたら、これを使ってください」


 俺はそう言って3つ目のネックレスをポケットから取り出しように見せかけて、ストレージから出した。


 これもスレッガー叔父上が養父上の近臣に渡してくれた。

 重臣の半数が苦々しい表情をしているが、残る半数は恐怖に顔をゆがませている。


「代わりというほどではありませんが、私に剣を向けたこの者はいただきます。

 もう死んでいますが、皇室の皇子に斬りかかったのです。

 遺体であろうと、罰を与えないと、辺境伯家が皇国にとがめられます」


「ロジャー殿下に剣を向けたのだ、もう死んでいるからといって許される訳がない。

 殿下の好きしていただいて結構です」


 皇室の皇子で婿養子、辺境伯家の当主で養父、互いに言葉遣いが難しい。

 本来ならこのまま夕食を共にする予定だったが、毒茶と襲撃まであったのだ、何事もなかったように食事はできない。


「叔父上、養父上との話し合いも終わったので、拝領屋敷に帰りましょう」


「さようでございますな、食事くらい安心して食べたいですからな」


 叔父上らしい嫌味だが、この程度の嫌味を気にする重臣たちではないだろう。

 1番力のある者は陪臣士族の準男爵だが、領地の人数は皇国男爵に匹敵する。


 それだけの経済力と武力を持っているから油断できない。

 そんな家臣が10人も手を組んでしまったら、主人であるはずの辺境伯も気を使わないといけなくなる。


「確かにロジャー殿下の申される通りです。

 殿下に毒を盛った黒幕と笑顔で食事はできないでしょう。

 ですが食事の席で殿下が直々に報復されるなら、無礼をとがめた事にできます」


 やれやれ、養父上は、自分の手を汚さずに、俺に辺境伯家に巣食う悪臣を退治させる気のようだ。 

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