第7話:対面

神歴1817年皇歴213年1月29日皇都バカン辺境伯家上屋敷

ロジャー皇子視点


(アンチドート)


 目の前に置かれたティーカップに解毒の魔術を放つ。

 中に入っているお茶だけでなく、カップにも毒が塗られている。


(ピュアリフィケイション)


 解毒だけでは心配なので、浄化の魔術も放つ。

 本来は俺が飲む前に毒見役が飲むのだが、ここは俺が飲んで見せる。

 叔父上たちには、俺が何をやっても黙って見ているように言ってある。


「ゴックン」


 同席した10家の当主や跡継ぎが喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。

 そんなに緊張するなら最初から毒など盛らなければいい。

 俺の毒見役を殺して好き勝ってさせないと警告する気だったのか?


(ヒール)


 俺はとても慎重なのだ、事前に毒を消しただけで安心しない。

 回復の魔術を自分にかけて万が一に備える。

 その上で重臣10家の連中をじっと見てやる。


(キュア)


 小心で頭の悪い連中だから、理解できるか分からないが、全て知っているぞと見てやれば、この件に関係して連中は、全員動揺して態度がおかしくなる。

 誰よりもバカン辺境伯が気がつくだろう。

 

(デトックス)


 じっと見てやると、10家の連中、露骨に態度がおかしくなってきた。

 辺境伯も俺の態度に気がついたのか表情が険しくなってきた。


「ロジャー殿下は天才だとお聞きしていたのですが、単に天才という言葉では片付けられない胆力と覚悟がおありのようですね。

 今直ぐにでも辺境伯をお譲りした方が家の為だと分かりました」


 今直ぐ隠居するから毒を盛ったのは許してくれと言っているのか?

 返事は王侯貴族らしく遠回しに言うべきなのだろうが、それでは俺らしくない。

 それに、愚かな10家の連中では、遠回しな表現を理解できないかもしれない。


「養子縁組が決まったので養父上と言わせていただきますが、親になってくださったのなら、父親らしく守っていただきたい。

 家臣に好き勝手されて、お茶に毒を入れられるようでは、名門バカン辺境伯家の当主として失格ではありませんか?」


「本当に毒が入っていたのですね。

 黙って飲んでくださったのは、表沙汰にせずに私を隠居させたいからではなかったのですか?

 ここでそれを口にされたら、養子に入られたバカン辺境伯家が取り潰しになってしまうのではありませんか?」


「毒は魔術で消しましたから、証拠は残っていません。

 皇国の重臣連中が騒いだとしても、証拠がなければ何もできません。

 養父上が辺境伯家の当主として家臣を処分しただけなら、何の問題もありません」


「私が処分すると言って素直に従ってくれればいいですが、この者たちは辺境伯領内にそれぞれの領地を持っています。

 そこに籠城されたら、家中取り締まり不行届きで処罰されてしまう。

 皇国はこれまでも何十何百もの貴族家をそう言って潰して来た」


「私が皇帝陛下を説得するから何があっても大丈夫と言っても信じられませんか?」


「私にも目もあれば耳もある。

 ロジャー皇子が皇帝陛下を説得すると言われても信じられない。

 家臣の処分は時間をかけて行わせていただきたい。

 家中の取り締まりが終わるまでは、拝領屋敷で自由に過ごしてください」


「私はそれで構いませんが、養父上はそれで良いのですか?

 ミオリネ嬢が不自由な身体になられたのは、自分の娘に養父上の子供を産ませて辺境伯家を乗っ取りたい家臣が、毒を盛ったからではありませんか?」


「……ロジャー皇子の言われた事が本当なら、私も黙ってはおられない。

 辺境伯家を潰してでも娘の仇を討つ。

 ですが、皇子の言われている事が本当か確かめないと私も動けない」


「確かめられるのは良いですが、後が無くなった家臣が養父上を殺すかもしれない。

 何かあった時のために、これを身に付けていてください」


 俺はそう言って、ストレージから魔宝石ネックレスを取り出した。

 他人にはポケットの中から取り出したように見せかけている。


 そのネックレスをスレッガー叔父上が手に取って、養父上の近臣に渡してくれる。

 いちいち面倒だが、常に暗殺の危険がある貴族ならしかたがない。


「そう言われるのなら、何かの守りが付与された魔道具ですか?」


「完全防御魔術と報復魔術を封じた魔宝石です。

 蓄えられている魔力が尽きるまで持ち主を守り続けてくれます。

 攻撃を仕掛けた相手を自動的に殺してくれる優れ物です」


 俺がそう言うと、バカン辺境伯は表情を厳しくした。

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