・2/14「魔法乱舞」
第20話「到着」
──2月14日。クバール国内、港町ミリバル。
時刻は夜のはじめ頃──
縁もゆかりもない何処とも分からぬ商会の、おそらくは関係者以外立入禁止だろう
魔術師、と断言できるのはその
表も裏も黒一色の
……実際のところ、彼が手にしている古めかしい
全体に施された彫刻に、
角材より一から削り出され、職人の手間こそかかっているがそれだけでしかなく、実体は紳士が普段使いするような単なる
だが、彼は臆面も無く魔術師が振るう魔法の
*
……商会の整備倉庫内では
屋内には幾つもの
屋内を見回せば天井は平屋に比べて高く、中の広さも馬車が5~6台は並べられるほどの余裕はあるだろうか? ……もっとも倉庫の奥、二台分くらいの空間は色々な物を雑多に置いて潰してしまっているが。
──倉庫内に運び込まれている幌付き馬車は三台あった。
そのうちの二台は待機状態だが、一台が車輪と軸を外されて整備されている。
どうやら摩耗して
……魔術師は幌付き馬車の
そうやって倉庫に出現してから
しかし、段々と手持ち無沙汰になってきたのか、左手で握っていた杖を
(──魔術師は魔術がなければ、ただの人)
彼の存在は明らかに仕事の邪魔な
まるでそこにいないかのように、誰もかれも気にも留めない。
彼を無視している、というよりはまったく気付いていないようだ。
……やがて観察にも飽きたのか、単に出ていく機会を見計らっていただけなのか?
魔術師は出口に向かって、
幸いにして彼の前を横切る人はいなかったが、いたとしても彼は道を譲らなかっただろう。
ほどなく、倉庫の出口に差し掛かる。背後では未だに数人が働いている。
この時間、繁華街は既に賑わっていることだろう。
「──魔術は
結局、登場から退場まで倉庫内にいる人間は彼が外へ出ていくまで──
いや、出て行った後も。誰一人として、気付くものはいなかった。
*
路地裏から現れた人影は
だが、すぐにそれは錯覚だったと目撃者は思い直すだろう。よく見れば黒い
……その男の名はジュリアス。
現在、スフリンクという国で冒険者に身をやつしている。
普段、見慣れぬ存在とはいえ、人々は魔術師がどんなものかを
注目はすれど
──彼が進む先には港があった。
そして、港唯一の
(運び込まれた船の中には彼女以外の商品もあるはずだ)
商品がどのようなものかまでは分からない。だが、どうせろくでもないものなのは確かだろう。それを証拠として確保して、
(とりあえず、港までは徒歩で行くとして……どの辺から姿を隠すとするかね……)
姿を隠す魔法──分類上は付与魔法に属する、いわゆる
不可視の力によって自身をすっぽりと覆い隠し、姿と気配を消して防護する。要は直接的か変則的かの違いだが、どちらも身を
基本的に誰かに見破られるまで不可視は継続するが、時間経過によって魔法障壁は
日中の屋外、不特定多数の視線がある場所など特に最悪で、高等な術者であっても10秒も
……その他、魔術師や魔法使いなら視力だけでなく魔力の異常を感知することでも見破れる。例え目に
「……さて」
ジュリアスは行き交う人々の邪魔にならないよう、街路から一旦外れ、建物に壁に寄りかかりながら目を
精神を集中し、現在も有効な魔法の力で
(緊張感がまるで無いな……)
(あの様子なら大桟橋を渡り始めてからでも十分かな? 必要最低限の魔法で済みそうなのはいいことなんだが、な……)
──遠見に暗視、不可視に転移、潜入の為の手札は色々とある。
だが、それらをふんだんに使うことなく終わりそうなのは少し残念だった。
*****
<続く>
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