第9話「蟹 ーKaniー」☆
ディディーは脇目も振らず、全速力で逃げていた!
その後ろから急速に迫ってくる数匹の犬の影……!
──
その名の通り、
全速力で逃げるも見る見るうちに距離は縮んで背後に迫り、
「ギャゥ──!」
泥犬が短い悲鳴をあげて、もんどりうって倒れる! ジュリアスの掌から放たれた魔法の
事実、魔法を食らった
ディディーはその間も足を止めず必死に走り続け、ジュリアス達もまた彼と合流を果たそうと動きだしていた。
二匹、三匹とその背に迫る魔物どもはジュリアスが魔術で速攻排除する。
「うおっ! ……っと、ゴメン!」
「いや、大丈夫……!」
あまりに必死だった為、減速し損なって危うくぶつかりそうになる二人だったが、その直前にゴートが手を伸ばし、受け流すようにしてディディーと体を入れ替えて、なんとか衝突は回避する。
(これが全部って訳じゃないだろうが、それでも本戦前に数を減らせるなら
……繰り返すが、この世界の人類は
──風が
ジュリアスは不可視の
敵の数は多くない。強さも連携が取れれば、そこまででもない。
──ゴートは襲い掛かる一匹を長剣で打ち払い、ディディーは噛み付きにきた魔物の顎下を
両腰の
……ディディーは落ち着いていた。
突進してくる
彼の横を通り過ぎた魔物は勢いのまま転倒し、そのまま動かなくなった。
魔物の顎から上を斬り飛ばしたのだ!
そうして──
「……よくやったな! ご苦労さん!」
ジュリアスが二人に労いの言葉をかける。結局、抜けて迫ってきたのは三匹。
うち二匹をゴートが、一匹をディディーが仕留めた。他にも数匹いたが、それらは近付く前にジュリアスが魔法で撃ち倒している。
「さ、いよいよ
*
……道の端が見えている。
手前は断崖のように削れ──奥側を見るに、すり鉢状に穴が開いている。
縦も横も高さも、人間十人くらいを単純に並べたような幅だろうか。
そういう広さ、深さの大穴である。
そして、その底から野焼きの如き白煙がもくもくと
そこにいる彼らには、そのように見えていた。
「──魔孔の周囲には、
「ここが最後の休息って事ですね」
「……そうだ。お前の回復待ちだよ」
冗談めかして、ジュリアスが言う。
ディディーはその言葉に何度か頷きながら自分の水袋を最後の一滴まで飲み干し、また腰の
ゴートは剣を抜いて泥というか土を、持参した
そしてエルナは、一歩離れたところから彼らの様子を見守っていた。
「……じゃあ、行きますか?」
ディディーがジュリアスに
後ろのゴートが、遅れてエルナが前に進み出す。
ディディーが前を向き、横に並んでいたジュリアスもそれに
「あちらが動き出したら戦闘開始だ……
「何が出てくるかなぁ……」
「どうせ、ろくなもんじゃねぇさ。楽に倒せるやつが出てくるのを祈ろう」
四人がある程度まで近寄ると、それまで魔孔の周囲のあちこちで棒立ちしていた
黒い
「さぁて、あとひと踏ん張りだ!」
ディディーは両腕を交差させるように腰の
ゴートも無言で手にした長剣を握り直す。
ジュリアスの視線は近付こうとする動きを見せる
(前衛の二人は鈍重な
前衛に二人、中衛に一人。彼女の立ち位置はそのさらに後ろである。
雑魚には目もくれず、意識を魔孔の方に向けていた。彼の予想通りなら、
手持ちの魔法で弱点を突ければ、最良──
(来る……!)
土が波しぶきのように穴の外へ散ってきた!
──振りかぶった腕がちらりと見え、再び叩きつけられて先程よりも多くの土砂が道や土手などに降り注ぐ!
「「
そう、巨大な蟹だった。腕──いや、左右非対称の蟹の鋏が斜面を乗り越え、道の
つぶらな瞳は形だけで黒く伽藍洞、見つめ合うと生理的な嫌悪感を
甲羅は
馬の脚を甲殻で包み隠したような。それが八本。
川に生息する
それが、この魔孔の
「……こいつは"
──この大陸の南方、<
長生きした個体はまさに今、これくらいの大きさまで成長すると言われているが、それはあくまで伝説に過ぎず実際の目撃例は半分以下の
(あの脚の色からして西の大陸の森林奥地、川辺に棲むであろう"
……この大陸から見て西方にある<
その奥地には巨大な怪物や強大な魔獣が
噂や憶測の域を出ない話も多いが、その中でも"
(相手は蟹……
「其は想念と意志の力、奇跡を顕現する根源──」
「……おっと」(仕掛ける気か?)
魔力を感知し、そちらを
ジュリアスは
(
既に前脚は道にかかり、上り切る寸前だ。
「耳を
「……電撃か!」
「
──選択としては悪くない。堅い甲殻も電撃には無力だ。
まともに浴びれば体内も傷つき、全身は痺れて感覚を失う。しかし──
(嘘!?)「はや……!」
エルナの電撃魔法は確かに効果はあった。
それだけに
──殴り飛ばせなかった!? 砕けた
「まるで見掛け倒しだな。身がスカスカだから、簡単に割れちまうのさ……!」
間一髪のところで割って入ったジュリアスが、
*****
<続く>
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