第6話「試すもの、試されるもの」
……ジュリアスと名乗る、この魔術師。
父が話してくれた噂によれば、彼は
そういう魔術師が国を出て、しかも冒険者をやっているのだ。
話題にならない訳がない。
表向きは
彼とはここまで短いやり取りしかしていないが、とりあえず無駄骨にはなりそうにないと分かったのは収穫だ。
本来なら私だけでなく他の冒険者も雇って彼を吟味する予定だったが、いない者は仕方がない。私一人でもやり遂げるだけだ──
*
ジュリアスは自分が値踏みされてるような視線を感じながら、彼女も含めて二人に対し、最後の説明をしていた。
「……魔物は瘴気の中でしか活動出来ない。或いは、魔孔から離れる事が出来ない。裏を返せば、瘴気の外まで逃げおおせれば命の危険はない。危なくなったら、逃げていいから。ああ、君もな」
「──逃げる、ですか?」
ジュリアスは頷いて肯定する。
「我々は騎士ではない。冒険者だ。時には背中を見せて逃げる事も
「つまり、私もあなた方と組む以上、冒険者の流儀に従え、と?」
「そういうこと。物分かりが良くて助かるな」
エルナは何か言いたげな様子だったが……しかし、飲み込んで了承した。
「……それじゃあ、行こうか。いきなり襲い掛かられるとは思わないが、油断せずについて来いよ」
ジュリアスが白い瘴気の壁に先陣を切って進んでいく。
続いて、ゴートとディディーが瘴気の中へ。
エルナが最後に、瘴気を吸い込まないように息を止めてその背中を追った。
*
エルナはてっきり瘴気の中では霧か煙の中を手探りで進んでいくようなもの──
──と、思っていたが違っていた。
彼女の視界には先に突入した三人がしっかり見えている。
……というより、入る前も入った後も、景色は特に変わっていない。
どういうことかと思案していると──
「……なんていうか、特に変化ないっすね」
「そりゃそうだ。さっき説明しただろ? 瘴気は神の奇跡によって可視化されていると。必要が無ければ、このように見えなくなるのさ」
「ああ、そういうことですか」
「ああ。そういう事だ」
さりげなくエルナが後ろを振り向くと突入前に見えた白い
ディディーとジュリアスが会話している間、ゴートは警戒しながら周囲を見回していた。
「──流石に入口付近に魔物はいないようだね」
「ま、進んでりゃそのうち出てくるだろ」
「……というか、既に一匹出てこようとしてますね」
ディディーが前方を指差しながら、呟いた。
少し先の雑木林から、のそのそと道に出てこようとしてくる人影がある。
「
「勿論」
「へへっ、腕が鳴るぜ……!」
ゴートもディディーも戦意は十分だ。二人共歩きながら抜剣して姿を見せた魔物に近付いていく。
ジュリアスは彼らの後ろ姿を眺めながら、悠長に構えている。
「──よろしいのですか?」
「……何が?」
「援護しなくても、よろしいのですか?」
エルナとしては実力を不安視している二人のお手並みを拝見出来る良い機会だが、ジュリアスにとってこの静観は何を意味しているのか、真意を
「……別に
「そうですね。しかし、貴方が
「その時はその時だ。それに俺は、その前に逃げろとも助言している」
「確かに。
「理屈による思い付きじゃないよ。俺はただ気分屋なだけだ。それにどういう意図であれ、人を試すような人間は嫌われるぞ? そんなんじゃ
ジュリアスは
「……出過ぎた事を言って申し訳ありませんでした」
「分かってくれればいいさ。俺も少し言い過ぎた。ぼちぼち、俺達も加勢に行こう」
ジュリアスはいつもの調子に戻って、エルナを促す。
戦闘中の彼らの方へ歩き出していった。
(……朱に交われば赤くなる、か。留学しているうちに、私も知らず知らず毒されていったのかもしれない。
──反省は後でも出来る。
気を取り直して、エルナは手にした
*****
<続く>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます