第4話

 数日後、家にまたあのワゴン車がやって来た。


「こんにちわ」


 僕が玄関に出ると、三人の先頭にいたドスの効いた声の人が僕にお辞儀をした。


 僕は慌ててペコっと会釈をした。


「お婆さんは?」

「あっ……」


 三人は僕の返事を聞く間もなく、靴を脱いで「お邪魔します」と中へと上がって来た。

 三人は仏間で寝ているお婆さんの周りを囲んで、話しを始めた。

 僕はずっと、ギリギリその声が聞こえない玄関の場所から、居間越しに見える四人のやり取りを眺めていた。

 声は聞こえないけど、何か相談をしている様子だった。


「とりあえず病院に行きましょう」


 三人の内、さっき僕に挨拶した人が立ち上がりながらそう言った。確か僕と同い年だ。

 他の二人はそれを合図に家の中へ散り、準備を始めた。


 リーダー格の人は僕の元へ戻って来た。


「お婆さん、病院に連れて行きます」

「え」

「着いて来ますか?」


 僕も入れた五人は、僕をここへ連れて来たワゴンに乗り込んだ。

 一番後ろの席で、僕の隣に座っているお婆さんは毛布に包まれても寒そうにしていた。


 僕は手を握ってあげたくなった。

 シワシワで硬い手はとても冷たかった。


「ありがとう」


 お婆さんが僕に言った。

 僕はお婆さんの手を強く握った。熱を少しでも伝えたいと思った。何も変わらないのに。


 お婆さんは入院した。


 僕はロビーの椅子でずっと待っていた。待っているのは得意だ。好きじゃないけど。何もしないでただ待っていればいいから。


 どれだけ待ったか分からないけど、周りにいた患者さんたちは全て帰ってしまった。

 すると、あのリーダーさんが封筒を持ってやって来た。


「これ」

「え?」

「サインしてもらえますか?」


 差し出された封筒を僕は受け取った。


 内容はよく分からなかったけど、なんか、すごい金額が書かれていた。


「あ、これ?」


 自分でも声が震えているのが分かった。


「報酬です」

「え?」

「あの家と土地の権利を売ったものを全てアナタに譲ると、依頼主からの要望です」


 リーダーは僕の横に腰掛けた。


「あの家と土地はアナタのものです」


 自販機の音だけが響いていた。


「要りません」

「依頼主の方の希望です」

「僕は何もしてません」


 書類をリーダーに突き返しても、リーダーは腕を上げず、僕の要求を拒み続けた。

 僕なんかとは比べ物にならないほど、大量の筋肉が伝わってくる体をしていた。


「少し話しますか、依頼主と」


 リーダーは立ち上がった。

 僕は無言で、彼の後をついていった。









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