ただ、そこにいる
ポテろんぐ
第1話
役に立たない人間だと、誰も言っては来ないけど、ずっとそう思われて来た。
小さい頃から、どんな作業も一人ではグズグズしてしまい、他の子達に「貸してっ!」と焦ったく取り上げられた。
小学生になっても、運動などで活躍する事はもちろんなく、団体競技では周りからの冷たい視線を我慢するのが僕の役割だった。
次第に役に立ちないとも思わなくなり、自分という存在をいないものとして扱って欲しいと神様に願う様になった。
そんな願いは届かず、僕はクラスで意図的に除け者にされ、学校に行く事も許されなくなった。
最初は「学校なんか行かなくてもいい」と言っていた両親も、中学を不登校のまま卒業し、高校にも行かない僕を見て「何もしないのか?」と尋ねてくる様になった。
少しでも役に立つためにアルバイトを始めたが、仕事ができない事、それを可愛げで誤魔化す愛嬌もない僕はどこに行っても厄介者になった。
必要とされない僕は、必然的に自分の部屋から出ない様になった。
それから十年、僕は誰とも繋がらない生活を続けていた。快適ではないが外にいるよりはマシだった。
太平洋戦争の日本軍の動画かなんかをどっかで見た時、防空壕の中の悲惨なイラストを見たが、それが自分と重なって見えた。
次の瞬間、防空壕は空襲で木っ端微塵に崩れ落ちた。
アインシュタインの『E=mc^2』の方程式を見たのもその動画の後ろの方だった気がする。
確か原子力爆弾の解説の時に出てきて、全ての原子の中にはそれだけのエネルギーがあると説明され、『そんな膨大なエネルギーが僕の中にもあるのか?』と疑問に思った。
じゃんけん以外で勝った事もないし、コンビニで女性が持ち上げている商品すら持てなかった僕に、街を破壊するほどの大きなエネルギーが存在しているなんて、想像もできなかった。
そんなことを考えていた時、突然、部屋のドアを乱暴に開錠され、イカつい格好の大人が三名、僕の部屋に雪崩れ込んできた。
彼らは僕に何も言わず、部屋のモノを外へと運び出し始めた。
対して僕も何も言えず、部屋の隅に立って、その光景をただただ眺めているだけであった。
「止めろ」とも「出て行け」とも言うことができなかった。
出入り口のところに、前に見た時よりも老けた両親が心配そうな様子で眺めていた。
「父さんも母さんも老けるんだ」と僕はその時初めて知って、なぜかショックを受けて、無駄に流れた時の量にただ後悔が押し寄せた。
なんで僕は自分の両親に限っては老けないと思っていたんだろう?
僕は押し寄せて来た大人たちに、ワゴン車に乗せられて、どこかへと連れて行かれる事になった。
僕はその時、自分の部屋に鏡がなかった事を思い出した。
夜を走る車の窓に映った久しぶりに見た僕自身も、老けていた。
僕が大人だと思った部屋に入って来た三人は、僕と同い年か年下の人だった。
体の中から力がどんどんと無くなって行くのが分かった。
僕はこれからどうしたら良いんだろうか?
車が到着したのは、今、僕がいる田舎の古い民家であった。
僕を連れて来た男の人たちは、その家の二階に僕の荷物を全て設置して、僕をその部屋に案内した。
「今日からここに住んでください」
「え?」
「下にお婆さんが一人で住んでるので、家の事で何かあったら聞いてください」
イカつい男の人たちが僕に言ったのはそれだけだった。
てっきり「働け」や「役立たず」と怒られると思っていた僕は拍子抜けしてしまった。
それから、僕はこの部屋に住んでいる。
何もしていない。
ただ、いるだけ。
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