【3回の表】「オープン戦」の始まり。
2月26日(土)
キャンプが始まって「たったの」4日目で練習試合(オープン戦)が開始、とは言え4月1日から開幕するため、当たり前といえば当たり前か。今日はナ・リーグのピッツバーグ・ペイトリオッツを
「へーい、健。昼飯はもう食ったか?」
試合は午後1時からなので、昼食はそんなに重くないものにしていた。カフェテリアはあるにはあるものの、メニューはスライスオニオンとソーセージだけのホットドッグしかない。だから俺は栄養面を考えてベンKさんにお弁当を作ってもらっている。
「お、うまそうだな。手作りか?日本人はなにやらせても器用だよな。」
今年、新加入のマニ―・ラミルス。名門レッドアックスの主軸打者として活躍し、本塁打王も獲ったことがある通算547本塁打の「超大物打者」だ。
もう一人の「大物」はジョニー・デモンズ。走攻に優れ200本塁打400盗塁のやはり超大物。
「健、俺より目立つなよ。」
冗談とも本気ともつかないお言葉。
クロスフォードとベーニャがFAで流出してしまった穴埋めである。確かに二人とも選手としての全盛期は過ぎているとはいえ、それでも実績から滲み出るオーラは半端ない。二人とも指名打者としてはまだまだ使えるということなので俺にとっては「ライバル」なのだ。
だから俺は今季は「先発試合」の前後の試合以外は外野や内野の守備に就くことも視野に入れなければならない。
とはいえ二人とも俺の昨季の成績にはそれなりに敬意を示してくれているようで、ホッとするところもあるが、それが原因で逆に遠慮なくイジってくるところもある。
くっそー、前世からの通算人生はあんたらより長いんだからね。
とはいえ「プロの実績」というのは彼らの方が上なのでなるべく近くにいて教訓を得るようにしている。彼らも俺に教えることはやぶさかではないらしい。
俺は1番一塁手での起用。一塁守備は高校時代に経験があるがプロでは初めて。練習試合では勝敗よりも選手の状況や力量を見極めることに主眼が置かれる。こちらの先発は昨年のチームの勝ち頭左のエース、ブライスである。シーズンの開幕投手候補筆頭である。ラミルスは4番指名打者、デモンズは2番左翼手。
一方、ペイトリオッツの先発は期待の若手右腕、チャーリー・ノートン。小さな球場に5000人を超える観客を集めまさに「球春」の始まりって感じだ。
俺のの今季初打席は「まさか」の四球。まさかと言うのも明らかにストライクゾーンに入っている内角高めの球を球審にボールの
「お気の毒」としか言いようがない。
3回裏の2打席目、一死二塁一塁で2番手の右腕リンドバーグ。さすがに今回は内角高めへの直球はストライクだった。おそらく相手投手陣は「
そして4回裏の3打席目は、二死一塁、3番手の右腕マカフィー。真ん中高めの初球の4シームを中越えの二塁打。3打席2安打1本塁打、打点4。そのままほかの選手へと機会を譲るために代走を出された。。
ドンゴリアとジョアン・ロドリゲスにも本塁打が出る。内野も競争が激しい。
試合後のコメントは「やっぱり試合は楽しいです。打ててホッとしました。まだ
投手も調整段階ですからこちら開幕に向けてギアを上げていかないとですね。」と無難に。
2月27日(日)
今日はペイトリオッツの本拠地ブレイデントンに出向いてのオープン戦。移動はフロリダ州内に限定とは言え、フロリダ州だけでも日本の半分の広さがある。なので移動はそれなりに大変なのである。ただしブレイデントンは近い。隣の「郡」だ。郡と言っても日本の「都府県」くらいの広さがある。隣県に遠征にいく感じ。朝からバスに揺られるのはやはり萎える。
今日の先発は右のエースのジム・フィールズ。ちなみにラミルスやデモンズレベルの「大物」だと「ビジター」の練習試合は出場がキャンセルできる。なのでホームの試合は「主力」が、ビジターの試合は「控え」が出るというチームも多い。15チームずつのリーグで試合をするため、1日2試合するチームが必ず出るのでこういう「2プラトン」制度は珍しくはないのだ。
俺はもちろん育ちざかりなので「主力」ではあるが遠征にも帯同する。
試合は10対5と負けてしまったが、第二打席で右打席での本塁打が打てたのが収穫だった。
そして本拠地に戻るとサプライズが。俺たち若手選手の「兄貴分」だったロッソ・バルテッリが引退の挨拶に来たのだ。彼はミトコンドリア異常に端を発する珍しい難病と闘っていたが療養に専念せざるを得ない状況になってしまいプロを引退することになってしまったのだ。
彼は生え抜き選手だったため選手やコーチ陣だけでなくスタッフからも慕われていた。
「健、お前とは短い付き合いだったけど俺はお前ほど素質とやる気に満ち溢れた選手に会ったことはないぞ。自信をもって前に進めばいい。」
彼はMLBでの指導者を目指すという。
「いつか俺が監督になったら一緒に優勝を目指そう。」
「はい、給料が良ければ。」
俺が間髪を入れずにぼけると嬉しそうに笑った。
「ははは、現金なヤツめ。だが、それで良いんだ。自分を安売りする必要はないからな。」
俺のボケもしっかりと受け止めてくれる本当に良い兄貴分だった。
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