万年補欠の下克上!(第4期)はずれスキル「支援魔法(対単体)」しか持たない低辺勇者は野球少年に転生してメジャーリーグで無双する。

風庭悠

プロローグ。舞台は平成23年(皇紀2671年)です。

【1回の表】俺と彼女の「新機能」。


 平成23年2月14日(月)フロリダ州セントピーターズバーグ市。


 俺、この度アメリカで家を買いました。


 球場からハイウエイで10分くらいの立地、ベッドルーム(個室)が4つ、バスルームが3つついた中上流アッパーミドル向けの築浅の物件。


 数年前のリーマンショックのあおりで築浅物件が手ごろな値段で出物はあったものの、フロリダは人気の地域なのでそう値崩れはしてないらしい。お値段はしめて1億円くらい。ただ空前の円高のあおりもありこの際買っておこうということになった。日本とは違い,綺麗に使いさえすれば値段が落ちるということもない。


 ガレージも自家用車3台分のスペースがある。広い庭も芝生が敷いてある。さすがにプールはないけどね。ただ少し前に故郷に建てた実家も名義は俺なので二十歳そこそこで持ち家が二軒か。しっかりと稼がないとヤバいよね。ただし野球に集中するための投資なのだ。俺が一人たそがれていると同居人の「ベンK」さんに肩をたたかれた。


「まあFA権でもとったら、いや年俸調停権がとれればすぐにでもペイできるし、なんならもう2,3軒買えるだろう。そろそろ(防犯用に)『結界』を張るから家に入った入った。」

 今回彼がこの家を買う面倒な手続きをほとんどやってくれた。彼は俺の専属マネージャー(兼トレーナー)さんなのだ。そして結界魔法を扱える「術者」でもある。


 時間は夜の10時、そろそろか?俺の前に俺の「彼女」亜美の姿が現れる。魔法による念話通信である。

「どう?新居は落ち着いた?」


 俺の前世、昭和時代の末期なら日本からアメリカまでの国際電話料金は3分で700円とかしていたはずだ。ただ今はインターネットが普及し、通話アプリによって双方がネットにつながっていれば無料で通話できる時代になっている。魔法に科学が追いついた好例ではあるが今年の二人の魔法の「絆」は一味違う。


 「ドアを開けるよ。」

彼女が手を伸ばすとそれは「実体」として触れることができた。これが俺と彼女の「新機能」である。簡単に説明すると、亜美の持つ「収納魔法」の魔法空間に俺が「合鍵アクセシビリティ」を得たのだ。両側から扉を開ければ物理的にどれだけ離れていても魔法空間を通じて手をつなぐこともできるし、物をやり取りすることもできるのだ。最近は彼女の手料理をごちそうになった。まあルーから作ったカレーライスだけど。


「あー。この前の差し入れありがとう。やっぱり日本の味は最高だよ。」

「いやいや、いつもになっているので。よかったらまた作るね。ただのカレーだけど(笑)。」

 たわいもないお互いの報告と雑談。お互い野球選手として多忙な生活を送っているため、このつかの間の触れ合いが貴重な癒しとなるのだ。そして俺は彼女に俺の特殊魔法スキルである「支援魔法」を付与することもできる。


 ただ問題は一つ。それは時差だ。日本標準時はフロリダ(アメリカ東部時間帯)と14時間の時差がある。(サマータイム時期は13時間)日本から見ると昼夜をひっくり返して2時間を引いた時間がこちらの時間。こちらは14日の夜10時。日本では15日の正午ということになるのだ、


 なので二人のタイミングを合わせるのがいちばん難しいのだ。こればかりは魔法があってもどうにもならない。


「ねえ右手も出して。」

彼女が要求する。俺が右手も突っ込むと手に可愛く包装ラッピングされた箱を手渡された。


「こっちは15日になっちゃったけど、そっちはまだ14日だよね。」

「そうか、バレンタインデーか。ありがとう。」

「さすがにチョコを手作りと言う時間の余裕もスキルもありませんので既製品でご容赦を。」


 包みを開けると「高カカオ成分」の全く甘くないチョコレートやつが出てきた。まあ、アスリートにとっては毒にはならん製品の方が良いわな。日本のチョコレートは美味しいので少しがっかりもしたがそれは内緒。

「ありがとう、身体に良さそう。」

「なに?そのおじいちゃんみたいな反応。」

亜美が愉快そうに笑った。


「明後日からキャンプでしょ、今年も頑張ってね。」

そう、俺はメジャーリーグでの新たなシーズンが始まりを告げるのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


このシリーズの基礎知識(主に初見様むけ)


《登場人物の紹介》


沢村健さわむらけん。20歳。両投げ両打ち。身長195cm。MLBア・リーグ東地区の球団タンパベイ・レイザースに所属する。背番号は「∞」(登録は00)。68年度MLBドラフト1巡目指名(全体1位)。


ダルトン・小原由香おはらゆか。32歳。身長165cm。フリーのスポーツジャーナリスト。健を5年前(中3の頃)から追跡取材している。夫のマシュー・ダルトンはカメラマンで昨季の健のマネージャー。


松崎亜美まつざきあみ。20歳。身長175cm。つくば大学硬式野球部所属。右投げ右打ち。野球女子日本代表(内野手)。健とは(前世の時も)幼馴染だったが、今は太平洋をまたいだ超遠距離恋愛中。


 熊野慶吾くまのけいご・ベンジャミン。21歳。身長200cm。健の個人トレーナー兼マネージャー。ネイティブアメリカンの母と修験道の家系に連なる父を持ち、「気」の流れを操る治療術ができる。健と生活をともにして身体のケアなどを担当。ベンジャミンと慶吾で「ベンK」さんと呼ばれている。


 ケント・バーナード。50歳。身長185cm。健とは前世(異世界時代)の時からの付き合い。健の野球選手としての成長のために様々な環境を備え、現在は代理人。


 ケント・バーナードJr.。20歳。身長210cm。ケントの息子で健とは中学生時代からの親友。プロテニス選手。現在世界ランク29位。永らくスター不在だったアメリカテニス界の期待の星である。


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