「ほら、な?」
手のひらに感じる柔らかい手。それはいわゆる、"女の子の手"というヤツで僕は思わずツバを飲み込む。だけど、そんな気持ちを抱いたことを彼女には知られたくなくて。そういう僕だとバレたくなくて。湿った息を吐かずに止めた。
「別に私だって、手はそんなに大きくないやろ?」
彼女は僕の手をパッと離すと、妙に自信に満ちた声でそう言った。その黒い瞳に僕は少しも映ってなかった。
あの日の翌日、マキさんはハニーに振られたらしい。真剣な目で教えてくれた。明るく話す彼女の様子は憑き物が落ちたようにすら見えた。
そして、今日も彼女はハニーと明るく話す。それまで以上に愉しげに。きっとみんな気づいてない。気づいてなければいいと思う。
僕は、彼女の熱がほんのり残った自分の手をどうすればいいかわからなくって、隣に座ったハニーの二の腕をそぉーっとつまんだ。ほどよく焼けた彼の肌。しっとり汗が残っていた。
「なんやねん」
濃い藍の縁の奥の瞳。何故かじっと見惚れてしまう。久しぶりに眼鏡をしていた彼の目はちょっぴり陰が射してるみたいで……。
あぁ。もうずっと眼鏡をしていれば良いのに。
不意に思った独り言。だけど、それすら言うことができず、ただ僕は笑って濁した。だけど、彼は覗き込むようにギョロギョロ見つめて、小さく舌打ちをした。聴こえるくらいの舌打ちを。彼には何が見えたのだろうか。
結局何にも言わないままで、氷の溶けたコーラに手をのばす。グラスをつたう雫はまだ冷たい。
「――やめとき、やめとき。熊谷さんは雑やから、どうせ上手くいかへんて」
「はぁ?やってみな分からへんやん」
いつものように明るく言い合うマキさんとハニー。グラスの雫は僕の指から腕をつたって、ズボンに大きな黒い染みをつけた。コーラはやっぱり薄くなってた。
しばらく経って。ハニーに彼女ができたことを聴いた。他でもないマキさんの口から知った。
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