黄昏チョコミント
黑杜未寧子
第1話 はじめましてのごあいさつ。
私の名前は冬井優妃です、東京のとある高校に通う二年生。趣味は、少女漫画を読むこと。恥ずかしながら、ずうっと勉強づけで、この歳まで恋愛っぽい恋愛はしたことがないんです。勉強が恋人、って言ったら格好いいかもですね。
「冬井さんまた一位だよ~」廊下から同級生の女の子の声が聞こえて、なんだか嬉しいような、恥ずかしいような。クラスの皆とワイワイ、って感じでもない私は、ブックカバーで隠した恋愛小説を読んで、気まずい昼休みをなんとか潰しています。
小説は、ネットの作家さんが書いたもので、王道、というのかな。王子様みたいな男の子と、平凡だけどどこか抜けてる女の子のお話。私には到底ない青春だな、って思う。ある意味ではファンタジー小説なのかもしれない。
学校が終わってお家に帰ると、弟がいつもリビングでゲームをしています。
「ねーちゃん、彼氏とかできないの?」ニヤニヤと尋ねる弟は、どうやら先月、ゲームの友達と付き合ったらしいです。
「優二、からかわないの。ほら、ごはんできたわよ。」
そう言うお母さんは、すごく美人で、話によると(ほんとかなあ)、昔ファッション雑誌にスナップが載ったことがあるらしいです。
「かーちゃんはさ、どうやってお父さんと出会ったの?」と優二。
「そうねえ、忘れちゃった。ふふ。ごはん冷めちゃうわよ。」お母さんはお父さんとの馴れ初めをいつもはぐらかします。それを知っているのに、しつこく尋ねる優二を見ていると、なんだかおかしくって、「ふふっ」と笑ってしまいました。
「ねーちゃん、笑ったらやっぱり可愛いよな。」
「はいはい、そんなこと言われてもアジフライはあげないよー。」
「なんだよ、ねーちゃんのケチー。」
お世辞でもすぐに、可愛いなんて言えるから、優二はきっと彼女さんが出来たんだろうな。
「ごちそうさま。」と言って、二階の部屋に上がります。優二は相変わらず、一階のリビングでゲームをしています。
『黄昏チョコミント』、大好きな、きゃらめりぜ先生の小説です。
幼なじみの女の子と、ちょっとイジワルだけど優しい男の子。
きゃらめりぜ先生、きっと素敵な人なんだろうな。
そんなことを考えながらぼーっと湯船につかっていると、「ねーちゃんまだー?」と優二の声。
ああ、こんなとき呼びかけてくれるのが『黄昏チョコミント』の海翔くんだったらなあ、なんて。
髪を乾かして、明日の準備をして、電気を消して寝ます。
「優二、いつまでゲームしてんの!」と𠮟られる声が下から聞こえてきて、ちょっと笑っちゃいました。
いつもの時間に目覚ましが鳴って、お母さん特製のサンドイッチを食べて、ホットミルクを飲んで、学校に行きます。冬でも夏でもホットミルク。
いつもの通学路。曲がり角を通るたびに、『会いたいんだ今すぐその角から』なんて曲が頭に思い浮かびます。いままでそんな奇跡、一回もないけれど。
学校に着いて、「おはようございまーす」とみんなの声。
教室に入って、いつもの席に座ります。
ガラ、とドアが開いて先生が入ってきます。「おはようございます!」と元気な声。
「今日は、転入生を紹介したいと思います。」
「イケメンかな~。」「いや、うち女子高だし。アホ。」
「どうぞ~。」
扉を開けて入って来たその子が、この後私の人生を大きく変えるなんて、想像もしていませんでした。
つづきます
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