第31話 見守りのダンと、男としてのダン。
なんと、お昼まで眠ってしまった!
夜中まで語り合ったから!
そして、
「ひどいわ、いえ、いつかはこうなるの?こうなることがふつうなの?呪なんて、水の国の占術なんて、だいきらい……」
他の使用人が気づけず、メアリーがたまたま二人の添い寝を目撃してしまった。
絶望の声に、二人とも誰かの心のひび割れる音に目を覚ます。
「メアリー……」
少し入り口ほうへ歩いて、走って、また、歩いて。
たぶん、泣きながらどこかへ行ってしまうメアリー。
すぐにでも追いかけたいが、二人とも寝巻き姿で城うろつくのも、と。ミケは着替えを持って隣室へ行き着替えて、コクヨウは、どうすれば良いのか寝台に座ってから、自室に小走りで走り同じく着替えを済ませる。
城の人にメアリーがどこに行ったか聞いたミケ。
「……そとの、植物園へ、たぶんダンがいると思いますが」
その言葉で黒薔薇の園と温室と、その先の、小鳥も来るたくさんの見慣れない植物が植えられた、初めて訪れる植物園へ。
そこにメアリーとダンがいた。
「こんなに苦しいのは耐えられない、でも、死んでコクヨウ様に一生覚えていてほしいとか、そういうんじゃない。ここが好き。ミケも、好き。でも、どうしたらいいかわからないの。ねえ、ダン。あなたはどうしてここにいるの?」
「メアリーが、ここにいるからかな」
土いじりをしながら、プラチナブロンドの髪をに柔らか揺らしてメアリーのはなしをきく。
「じゃあ、私がここから消えたら?」
「メアリーを探して、沼地や草原や、荒野を旅する、前に。必死でお城で、村で、町で、所在を聞き回るだろうね」
「……私達、あの忌まわしい人殺しの王族の末裔よ。生きてて良いのかわからないのに、優しくされて恋をして、失恋して、十分な充実した人生よ、このまま誰にも愛されないで、愛しても愛が帰ってこないで、それが、私の人生かしら!」
大粒の涙を、流すメアリーに植物園での仕事を中断したダンは、
「今すぐここから逃げ出したい?」
「いいえ、外が少し怖い、でも何よりここにいたい、たとえ愛に変わっても、コクヨウ様を見ていたい」
「そっか、町にお嫁さんとして連れて行きたかったけど、確かに苦しくてもメアリーはここにいた方がいい。いつかの約束通り、外出だけはしてみようよ。店の看板の絵や、ここじゃ見られない子ヤギや母さんヤギ、それからカラフルなマカロンやベーグル。噴水広場に紙芝居」
「何を言っているの、ダン」
「君に見せたいもの、君と見たいもの、独り占めにして、秘密の林で散歩したいこと。全部ボディガードもつけて一緒に見ようよ。それとも、他に見たいものは?」
「知らないもの。私なにも知らない。このまま自分が午後のお仕事をちゃんとできるのかもわからないくらい」
「そう、僕はメアリーが好きで好きで、自分が何も訴えられない、いかがわしい、でも、好きだからしょうがない、そんなふうに見たってしょうがない。男なんだからって。って、毎日大変だった。……僕達が人殺しをした訳じゃないじゃないか。クロキ様とトキ様も神獣様も守ってくれる。西に帰る?まだ僕達を支援してくれる団体がいるかもよ」
「ダン、なにをいっているの?」
「小さな頃から君が好きだよ、メアリー。赤い花も何もないけどずっときみが、コクヨウ様を愛するのを見ていた。好きな人が意中の人を愛していくのをたまらない気持ちで見ていた」
ミケは植物園を離れた。ダンには気づかれていたけれど、メアリーは背を向けて泣いているのがわかるだけ。
この話は聞いちゃいけない。
「可愛らしいドレス姿のあの瞬間を覚えているのは他の兄弟達以外はいとこの僕だけかもね」
「今でも怖いのよ。何もかもがひっくり返って、着ているものも装飾も全てむしり取られて、いつか弾頭台へ、あるいは首吊りの刑へ送られるのが。それまで、無事でいられるかも。ここなら、世界で一番安全なのに」
ダンがメアリーを抱きしめようとして、
「抱きしめたら怒る?」
「どうして聞くの?」
「僕だったらメアリー以外、抱きたくない。メアリーもそうだろう?」
「……ミケがコクヨウ様に抱きしめられてた!ひどい!ひどい!」
ダンがメアリーを優しく抱きしめる。少し隙間を開けるように細くも力強い。鳥籠を思わせるゆとり。
「不思議な抱きしめ方……」
「嫌われたくないからね」
「?、嫌われてもまたいつも通りじゃない?」
「それは、辛いな。僕はメアリーに嫌われていたのか」
じゃあ、と。かすかなぬくもりが遠ざかる。
「さようなら。メアリー。僕の呪。僕の大切な人。幸せになってね」
「どこに行くの?」
「二度と会えない場所」
「!、いや、ダンまで離れていかないで、泣くから、私、泣いたままお掃除して、泣いたままお洗濯して!泣いたまま、いつまでもダンを待つわッ」
ダンがぐっとメアリーに口付けする。メアリーを壊すくらいに抱きしめて息もさせる気が無いくらい
小さな身体をその腕と、魂に刻みつける。
苦しさに、拳でダンを叩き始めたメアリー。
数秒して離す。メアリーがはあはあと、酸素を欲する。こんなダンは知らない。でも、怖くない。
息を整えて、
「私のことが好きなの?」
「生まれた時から好きだよ。君が赤ちゃんの時から会えるのか楽しみだった。こんなふうに、強引にキスしたくなかったよ」
「だったら、いままでどうしたかったか私に教えて」
困ったように佇むダンの、メアリーは言葉を待つ
「嫌われたくないから、その場限りの男になりたくないから、メアリーには、僕の花になってもらう」
ダンの花になる……。
「みくびらないで、私だって、もう十八よ」
「コクヨウ様を思って身体を熱くしたことは?」
「何度だってあるわ、お側にいるだけで、顔が火を吹きそうなの」
「じゃあ、まだダメ」
「?」
「メアリー、僕の身体、どう思う?」
「どうって、普通よ。他の使用人と変わらないくらい?ちょっとがっしりしてるけど」
「……メアリー、好きになってもらえるように努力するよ。だから、そのままでいて。今は。失恋は辛いだろうけれど。メアリーの時間と気持ちを無駄にしないようアピールしていくから」
「……アピールって、私をモノにするつもり?上等ね」
「メアリーが僕のこと少しも好きじゃなくて、身体にも魅力を感じなければ諦めるよ。諦めないけど」
「どっちよ?!」
「好きだよ、メアリー、その一途さを愛してる」
だから。
君の泣き顔は僕のものだ。もちろんそれ以外も
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