第30話 抱きしめたいひと
結局、あの夜は何もなかった。
ただ神獣様からのお話を受け、符号を合わせるようにコクヨウに質問する。
そして最後に
「夜這いするの?」
「〜〜〜父上に相談していたらそんな話になっただけだ」
「親子でどんな会話してるのよ」
「母上と離れて、貴重な時間を割いてまで相談に乗ってくれたんだ!」
「私、クロキ様も素敵な殿方だと思う」
何を話したか知らないけれど。
「!、?!、そういうのを、不倫や気の多い女と言うんだ!」
緊張してきた。コップに水を注いで飲む。
「自分だけ飲むな」
「喉乾いてたの?」
新しいコップに水を淹れて渡すと、二人してログハウスでのハーブティーを飲ましたり飲まされたりみたいな思い出が蘇り。
なんか、変な空気になった。
思い出自体は、悪くは思っていない。むしろ……
「今夜、その、抱きしめさせて眠らせて、くれ……」
「……どうして?」
「己に正直に行動すると、恋が成就するらしい……」
「……恋してるの?」
「〜〜〜どうして良いと言わない。神獣様とは寝てたじゃないか!」
「だって、うら若き男女だもの。間違いが起きたら、いろいろ好きでもないのに結婚したり、赤ちゃんだってできたり、家同士どころか、村中の噂になるのよ?」
お風呂に入ったばかりなのだろう、黒髪は少し濡れて、黒い瞳は子供っぽく感じる位にミケの言葉に翻弄されている。
「城なら、いいだろう」
「まだ、失恋したメアリーに悪いわ」
「……ミケへの気持ちに気づけたのは、メアリーのおかげだ」
「メアリーの告白で、何かわかったの?」
「抱きしめたい人がちがう」
「……」
一気にコクヨウのペースに持ってかれた。
「扉のない部屋でよくそんなことが言えるわね」
「ここに扉が無いのは、お父上の愛情の証、らしい」
おまけに使用人たちは近づかない。
あの二人の伝説は留まることを知らない。
「私も、コクヨウを魔王にはするわけにはいかないしね。いいわ、どうせ、年下の子と雑魚寝したことにする」
きょうだいも、小さい子と一緒に寝たこともないけれど。
「メアリーへの気遣いはいいのか?」
「そう思うならそもそも来ちゃダメじゃない。私もオーケーしちゃダメだけど。素直になれば良いんでしょ?抱きしめられるのは、私も、悪くなかった」
「なんの話だ」
「……ログハウスで風邪を引かせてしまった時。何もできなくてごめんなさい。せめて、体同士をくっつけるのが精一杯だったわ」
そこで、コクヨウは自分がミケを抱きしめたい気持ちの真意に改めて思い当たり、顔を赤くする。自分は上は裸で、全身でミケを包んだ。抱きしめた体の熱い夜。全身がカッとなる。
「今更意識しないで」
「熱が出たのは、ミケのせいじゃない」
「でも、なんで、ログハウスに行ったんだっけ、あれ?」
私が『特別な人』を求めて帰らなかったからだっけ?いや、確か、ハーブの活用を提案したのだ。
そのお礼、みたいな。
「今度、また行こう。つぎは、天候が良い日で、毛布も用意する」
「あのちっちゃいベッドであなたが寝るんじゃ、わたしは床ね」
「一緒に寝ればいい」
どうしよう、攻めてくる。
「夜まで滞在しません!そして!はやく、呪を解いて二人は、好きに生きる!」
寝台に寝転んだ。この城の寝巻きはつるつるとして気持ちがいい。
「どうぞ。ただし、何もなし。まずは、ハグ!」
寝台に腰掛けていたコクヨウがガバッと抱きしめてくる。ムードはないが身体が熱すぎる。
「また熱じゃないわよね?」
「うるさい。」
顔をミケの三毛猫模様の髪に埋めて
「なんで、ミケなんだ?」
「三毛猫模様だからよ」
「ひどい気がする?」
「でしょ?コクヨウは?」
「髪と瞳が黒曜石のように輝くからコクヨウ。この世界に留まれるギリギリまで両親が残って、俺の瞳の色を確認してつけた」
「やっぱり、あのお二人、私大好きだわ」
「……ミケが愛するべきは俺のことだ」
なんだか今夜は力強い。このまま、良いと言ったら普通なら一線超えている。
「どうしてそう思うの?」
「……ミケの本当の髪色が見たい。ミケが他の男、たとえばダンに抱きしめられたら、俺は何も感じないけれど、自分が魔王になりたくないから、ミケを手に入れる。そんな自分がいる気がする。訳がわからないけれどミケを愛することが自分の人生のいい方向になる気がする。水の国の占術にもある通り」
……複雑だった。
ミケの心は。
これは、お互い利用している気さえするけれど、そうじゃない部分もある。
お互いに愛情を持つ、二人であったなら、もっと恋を語れただろうに。いまはまだ、足りない。
愛は湧くものだ。神獣の言葉を思い出す。
どうすればいいの?
どうすれば、人を、愛せるの?まず、自分のことを愛さないと。恋心は育まれない。
自分が大切。そう思うことから始めよう。
そう告げたいと思ったら、もう、コクヨウは緊張も解けて眠たそうだった。
「誰かと一緒に寝ると、少しちがう……」
「なにが?」
「悪い夢をみなくなる、そんな気がするのと、好きになれそうな気がする……」
「それは……」
否定か、肯定か。
「つまり安心するのね」
「する……」
それで眠ってしまった。
自分より、一歳年下の男の子。
村では姉さん女房はすごく珍しい。
再婚の場合が多いけど、なぜかあまり喜ばれない。二度目の結婚の方が恋に近いので、大人達は嫉妬と羨望を向けるのだ。
抱きしめられてあたたかい。頭にあたる寝息が熱い。顔をよく見てみる。クロキ様のような鋭さと、柔和なトキ様の面影が不思議と共存する少年の顔。もっと成長したらどちらに似るんだろう。
目の前の少年の成長が楽しみという、不思議な気持ち。
同じ体勢が辛いので寝返りを打った。腕はギュッとしてくれない。
だらりと力が抜けている。
腕。
コーラル、本当にあなたなの?
確かめることは必要だろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます