第17話 遠回しのハーブティーとチューリップ
お気に入りの入り口から出て、まず初めにハーブ園へ。先客がいる。でも、妥協して一緒に交流なんて。
ましてや、愛するなんて、特別だなんて。
でもこのままじゃ。
話しかけてみるだけでも。
「体の調子はどう?かしら……」強気にいきたい。
すると相手はずいぶんと疲れたように
「あまり眠れていない」
「……」
会話できた。魔を呼び込む母の仇で、このままでは存在が揺らいで魔王になるんじゃないか、なんて疑っている相手に。
「なにか嫌な夢でもみるの?」
「……まさかお前が見せてるんじゃあるまいな?」
「何をよっ、心配してあげたのに、これからは夢も見ないくらい安眠なさい。ハーブ園でカモミールとか、レモンバームとかあるんでしょう?」
足元のハーブを踏まないようそそくさと黒薔薇の園へ行く。本当は昨日のダンとメアリーの様子を相談したかったが。向こうは当主さまですからねー、と。
私この十年で明るくなったな、と黒薔薇の園のダンへ挨拶に。
「おはよう、ダンさん」
「おはよう、ミケさん、今日も髪が綺麗だよ」
「嬉しくない」半笑いで応対する。
「ミケさん、チューリップは好き?」
「チューリップ、かあ……」
「嫌いなの?」
「なんだか、キスしてきそうで怖いの」
ダンさんがきょとんとする。
「花びらも厚みがあってすぼめた口みたいで。大きな唇みたいな感じがして怖いの」
「ミケさんの怖いものって、変わってるね」
そう言うとうんと茎を短く切った赤いチューリップを温室から持ってきた。
「どう?こわい?」
「これくらいなら勝手に唇を奪われることもないから、いい」
ミケさんは、なんだろう、しっかりしてるんだね、と言って談笑し、その場は去った。
今度は洗濯途中のメアリーに見つかり、
「わあ、赤い花、わたし赤い花が好きよ!」
「はい、チューリップ」
「わかってるわよ、って短い!これじゃあキスした時に真ん中を覗けないじゃない」
「そんな趣味があるの?」チューリップの中身を覗きたいなんてちょっと引く。
「引かないでよ、なんだか本当の笑顔を見せてもらえてるみたいで好きなのよ」
唇じゃなくて、顔を隠されているみたいと言うことかな。花のかんばせを拝むだなんて、すこしひみつめいている。もう二人とも大丈夫そう。
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