第16話 魔の差すダンとメアリー
朝食はそれぞれ部屋で取った。
ミケの場合こんなに至れり尽くせりで良いものかと手近な置き時計拭いてみたり、パン屋の娘でもできる仕事はあるか聞いたら、迷惑がられた。
部外者は厨房には入れられない。
仕方なしにあの憩いのハーブ園へ行くと、小屋に設られた長椅子にコクヨウが座っている。
ハーブで、気持ちを整えてるんだろう。
私も整えたいのに。
静かに通り過ぎて黒薔薇の園へ向かう。
魔を呼び込んだ母親の仇。そして、これからも魔界とやらの境界を危うくするもの。
その特殊な出生には、ただ両親やみんなに守られて大事に生まれたと言う記録と記憶しかない。
(わたしは、私の母は、デュラハンの首を見て絶命したのに!)
黒薔薇の園へ向かえばいつもの優しげな笑顔を向けるダンがいてくれる。
「ねえ、ダンさん。ダンさんもう二十二歳なんでしょう?思いを打ち明けてもいいんじゃない?」
ダンが驚く。
「驚いたなあ、相手は誰だと思っているんだい?」
「それは、わからないけれど、派手なひとかしら。赤い薔薇の方がいいんだから」
「気持ちの発露は確かに派手だね。でも、僕が何年も思い続けたように、彼女にも二十二歳まで、思い悩んで欲しいと思うのは、意地悪かな?」
びっくりする事を言う。
「適齢期は、色々だけれど、もしかして、ダンさん、相手の女性が憎いの?」
はっ、とダンが花壇のいじりをやめ、無表情になり
「何言ってるんだろう。彼女には現実を、辛いけど知ってもらって、一番に大切にして、一番に幸せにしたいのに」
ダンは振り返り、
「変なこと言ってごめん。疲れてたみたいだ。君みたいな年下に恋愛指導を受けるなんて、やっぱり経験がないと色々ダメだね」
「え?!」
「うん?なに?」
「いや、なんでもない、ダンさん……。またね」
黒薔薇の園の暑い空気を感じながら、
「ダンさん、経験ないって、どこまで……?」とちょっと気になってみたり。
続いて、屋敷のドアの前で日影ぼっこみたいなことするメアリーと出会う。
「コクヨウ様はね、私にとっては宝石よ。割れればカットして小さくなっても身につけるし、大きいままなら首元に飾っておきたいの。よくわからないけれど、一緒にいられればたくさんの人が私たちを見てくれる。いまは呪の発作で苦しんでおられるけど、そんなの、身につける私に移しちゃえばいいのよ。それくらいに、綺麗な人」
「聖人、元王族と仙女のハーフらしいしね」
「なにそれ、仙女様どこからきたのよ。元王族の血を絶やさなければいいのよ。わたし、じつは、ほんとうにちょっとだけど、西の王族の血引いてるのよ、これでコクヨウ様と交われば、東と西のつながりがちょっとでもできる。どうせ、今夜もコクヨウ様の眠りは浅いわ。わたし、いいわよね?」
「いいわよね?って」
「あなたなんでしょう、コクヨウ様のお相手。でも、誰だって印象深い思い出を植え付ければ、勝てる。勝てるわ、わたし」
「メアリー?勝ってどうするの?」
「どうもしないわ、コクヨウ様の初めてを、私がもらって、勝ち」
「負けは誰?」
「あなた」
「コクヨウ様はなんて思うの」
「……しあわせって思ってくれるに決まってる!わたし、一生懸命、ご奉仕するわ」
「なんで泣いてるの」
「知らずに出てくるのよ、どうしてよ」
「メアリー、無理してる」
「うるさいっ」
かがみ込んで頭を膝に埋めてしまう。
「本当は、もっと早くに抱いてほしかったのに、コクヨウ様とは隔りがあるから、もっと一番美しい時に、抱いて欲しかった」
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