第8話 一緒の晩餐
ダンは二十二歳。
メアリーは十八歳。
ミケは十六歳。
そして。
小さな四角いテーブルに晩餐用の服に着替えた、コクヨウ。
(やっぱりあの日馬車に乗っていた男子だ)
この東の国で瞳まで黒いのは一人だけ。黒い森の黒い孤城に住むコクヨウ当主。ただし、特別偉いわけではなく、噂によればかつて毒殺された祖父母が互いの親類縁者や周りの元貴族達の金を怪しい夜会に誘って巻き上げていたとも。時に薬草にも毒にもなる珍しい植物を採取しに馬で遠出するとも、ハーブ園のハーブを怪しい商人達のいる元王室御用達だった幻のマーケットで売っているだの。東と西で人身売買して、使用人を巻き込んでの奴隷稼業をしているだの。
「おい」
「はい!」
しまった。白かったり黒かったりするグレーな噂に惑わされていたミケ。
「毒味は済んだ。食べろ」
「はあ……」
すっかり冷えた料理。
お貴族様は特に毒やら礼儀作法やらが大変で熱々の料理が食べられないらしい。これも噂だが。それも屋敷が広ければ広いほど運ばれてくるのも遅い。
横に控えている家令のような、年配だが姿勢の良い紳士がコクヨウが不遜な態度を取るたび瞳で「女性には優しく……!!」と訴えてくれている。
ご両親はいないのだろうか?
無言の食事が続く。とりあえず、音を立てない、それくらいのテーブルマナーしか浮かばない。マナーや言葉は流れてきても、本質は知らないミケ。他にもこのヘアスタイル、というか、髪を纏めなくてよかったのか。まだまだ知らないことは多い。コクヨウとはまた珍しい名前だ。どんな由来があるのだろう。こんな時、メアリーなら食事に集中しなさい!と必要最低限のアドバイスをくれるだろう。
食器を間違えそうになると使用人が、こちらを、と優しくにこやかに正しいものを渡してくれる。やりすぎだ。歓迎されているのか敬遠されているのかわからなくて即刻食事を終えたい。シチュー、パン、肉料理。
どれもおいしいが、
(つめたい)
でも美味しい!美味!おまけにお肉!村のどの子が犠牲になったのか。おいしくいただきます。
コクヨウを盗み見る。しっかり食べている。もしや昼間は病気でもして具合が悪いのかと思ったがよく見れば足も長いし背も高め?
(骨が引っ張られる分、羨ましいくらいに肉がないと言うかスタイルがいい?)
ミケは勝手に男子の体格をなんの気なしに想像しながら食事を終えた。
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