ただ、がむしゃらに

奈良 華

第1話

私は走った。走って、走った。足に痛みを感じても走った。走って、走り疲れても走った。休むことなどせずに走った。行き先もわからない。何のために走っているさえも知らない。理由もわからない。けれど、私は走らなければならない。「走れ、走り続けるのだ。」そう囁いてくるのだ。私はその声を主を知っているような気がした。けれども思い出せない。ノイズがかかったように思い出そうとすると雑音が聞こえるのだ。どこで聞いたかは覚えている。だがその主の正体だけ靄がかかったように思い出せないのだ。私は走った。何かに突き動かされているように走った。止まることは許されない。走り続けなければいけないのだ。いつしか先に光が見えてきた。そこには誰かが立っているのだ。しかし何故か追いつけない。止まっているはずなのに追いつけないのだ。しかし私は走った。諦めるなんてもう無理だ。引き返せない。私は彼女がこっちにきてほしくなさそうにしていたのがわかった。だがもうどうしようもないのだ。引き返したきてももう無理なのだ。私はこれから引き返す選択肢など残されていないのだ。だからごめんよ。もう無理なのだよ。ごめんよ今からそっちに行くよ。そう言うと彼女は悲しそうな顔をした後にこっちを見た。彼女は美しかった。私はそう思った。そう思ったときにやっと追いつけたのだ。私は彼女の手を取って言った。「もう一人にさせないよ、これからはずっと一緒だ。」私は満面な笑みで言った。この思いを悟られないように。しかし彼女は悲しような顔をした。あぁやはり彼女に隠し事など無理なのだ。だがもう引き返せないことをわかっている彼女は笑顔になった。「さぁ行こう。私達だけの世界へ。」私達は走り出した。もう誰も邪魔はしてこない。離れ離れになることもない。最高じゃないか。しかし私は悲しかった。もう彼女と話せないことを。あの笑顔を見れるのが最後だと言うことを。だけどもしょうがないのだ。これしかないのだから。私は綺麗な夕日を見た。その景色は今までの人生で一番綺麗だった。太陽が昇っていく。いや、沈んでいく。あぁなんて素晴らしい晴れ晴れとした気持ちなのだ。これで本当の君に会いに行ける。しかし何故が胸が痛い。私は走り続けたことに後悔をしていたのだ。あの時無理にでも引き返していたら。だがそんな後悔はもう遅い。時間は刻々とすぎていく。時間がゆっくりと進む。私は真の意味でこの言葉を体験しているのだ。あぁ、なんて綺麗な夕日だ。あぁ、なんて醜い人生だったのだ。さぁ早く彼女の所へ連れて行っておくれ。さようなら。お元気で。私は今、人生で一番幸福な時間を過ごしております。皆さんはどうお過ごしでしょうか。元気にお過ごしになっていらっしゃることでしょう。私のことは忘れししまっても構いません。出来ることなら忘れてしまってください。ではさようなら。来世でまた会いましょう。来世など、こないことを願って。

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ただ、がむしゃらに 奈良 華 @mai012

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