ディア と 二窓 と 合流合図


 戦線を少しずつ入り口の方へとズラしながら、マザーグースと戦っていると、背後の方で大きな花火のようなものが打ち上がった。


「今のは?」

「恐らくは涼殿の友人たちだろうな」


 良轟の問いに、一成が答える。


:向こうがエロ目玉で汚ぇ花火を打ち上げたとこだな

:イレギュラーエロ目玉を瞬殺してたよ


「エロ目玉? 相変わらずコメントはふざけてるのか?」

「いや待てイレギュラーと言ったか? 向こうにも出たのか」


:マインドハッカーって目玉に取り憑かれたメスゴブリンx2

:瞬殺してたからすぐにまた動くと思うけど


「マインドハッカーか……なるほど。瞬殺してくれたのは助かるな」

「エロ目玉というふざけたあだ名がついてますが、そんな危険なやつだったのですか?」

「生き物に取り憑いて操るモンスターなのだ。むろん人間にも取り憑く。この場に乱入されたら危なかった」


:うえ 向こうはそんなのとやりあってたのか

:確かにこの状況で同士討ち発生したらやばいな

:でも憑かれたファンアート欲しくなる見た目と動きのやつだったよ

:リアルに遭遇するとやばいけどフィクション的には美味しいやつだった


「本気で暢気だなコメントというやつは!」


 良轟は呆れたような怒ったような様子だが、一成はそうではなかった。

 自分の下顎を撫でながら、何かを思考し、それから口を開く。


「催眠触手とはなかなかコアな性癖の紳士がコメント欄には多いようだな。

 このような場で無ければ語り合いたいところだが、少し真面目な確認をしたい。よいかな? コメント欄の諸君」


:おk

:そりゃあシリアス優先ですわ

:語り合えるのか会長

:オレらで答えられるコトなら


「エロ目玉は向こうがすでに対処済み。それであっているかな?」


:あってる

:今のところ三匹目が出現する様子無し

:ふつうに会長たちを探して探索してる


「向こうのチームはすぐそばにいるかな?」


:映像じゃわかんないけど 近いようなコトは言ってた

:複雑な道とゴブリンが邪魔で進みは遅いようだけど


「和戸会長? 今の質問になんの意味が?」


 良轟からの問いには答えず、思考をまとめてから声を上げる。


「ディア殿! すまぬが儂らの元まで下がってきて貰えぬか!」


:お?会長に何か案が?

:正直マザーグース戦は決め手にかけるからな

:見ててハラハラはしないけどジリジリはする


 一成の声に、マザーグースと戦っているディアは、現場リーダーである鳴鐘の名前を呼んだ。


「鳴鐘さん?」

「気にせず行け、ディアちゃん! 正直ジリ貧になってきたから、手があるなら助かる」


 マザーグースの攻撃を躱しながら、ディアの方を見ずに守が答える。

 その返答に、ディアも即座に動いた。


「りょーかい!」


 フレア・バレットをばら撒いて牽制しながら、ディアはマザーグースとの戦いから離脱して、一成たちのところまで下がってくる。


「無茶を言ってすまない」

「いえいえ。それで何をすればいいんですか?」

「話がはやくて助かる。涼殿の友人たちがすぐ近くまで来ているようなのだ。

 ここから真上に向けて、派手な花火になるような魔技ブレス武技アーツを使って欲しい」

「なるほどー」


 一成にうなずいてから、ディアは「むむむー……」と顔を顰める。


「どうした? 君は先ほどから火の玉を飛ばしていただろう?」

「そうなんですけど、アレだと目立ちませんからね」


:もしかしてディアちゃん バレットくらいしか使えない?

:バーストは使えるかもだけど、あれもプロージョン系と比べるとな


「ディア殿はプロージョンのような範囲型上級魔技は?」

「使えないんですよね。単体型中級のバーストまでです」


:そしてこのメンツでハデなブレスを使えるのはディアちゃんだけ…

:グラマスのアイデアは悪くなかったんだが・・・


「そうか。すまないな。戦いを邪魔する形になったか……」

「……いえ、そうでもないです」


 一成の話を聞きながら、ディアは頭の中で求められていることを、手持ちで出来るように組み立てていく。


「グラマスが向こうの状況を分かってるのはどうしてですか?」

「うむ。向こうも配信しながらのようなのでな。二窓しているコメントたちが色々と教えてくれている」

「なるほど。そういうコトなら……」


:英語を宇宙語というようなディアちゃんだけど頭の回転は速いんだよな

:探索や料理が絡むと天才なんだよ

:それだとまるでプライベートがダメな子みたいじゃないですかー

:プライベートは絶対ダメな子だって信じてる


「プライベートでもダメな子じゃないし! めっちゃデキる子だし!

 とりあえず、二窓してる人! 向こうに空を見上げるように言って。

 あまり目立たない魔技でも、来ると分かってて見る分には気づけるでしょ」


 コメント欄にツッコミを入れつつ、お願いをする。

 すると、即座にコメントが返ってきた。


:向こうは即座に準備してくれた いけるよ!

:あっちはOKだって

:ディアちゃん合図お願い!


「よし!」


 即座に、剣に炎を付与する。


走牙刃ソウガジンを真上に撃つには……っと」


 炎を纏う剣を構えつつ、軽く素振りをする。


:え?上に撃てるのあれ?

:いやでも空中から下へ向けて出すやつあるじゃん


「それだ! ようはそれを下から上に向けてやるワケで……」


:それだじゃないんだよなぁ

:ふつうは発想があってもやろうとしない

:ぶっつけ本番でやろうとするメンタルがやばい

:そもそもアーツやブレスって身体勝手に動く感じだもんな

:ディアちゃんたちはオートマでなくマニュアルで技出してるっぽいのよな


「失敗したって即死するような場面じゃないしね。ダメならフレア・バーストでがんばるよ……ってバースト、バーストか」


:もうやだこの子

:また何か変な技を思いついたぞこれ

:根本マニュアルでアーツ出すってどうやんのよ…

:涼ちゃんといいディアちゃんといい・・・

:配信が無かったらこの才能って埋もれてたんだよな。。。


「二連射する走牙連刃ソウガレンジンは使えるから、感覚としては……」


 燃える剣を見ながらぶつぶつ言っているディアを不気味に思ったのか、良轟が思わず一成を見る。


「か、会長……この子、大丈夫なんですか?」

「大丈夫どころではない。ある意味で天才だ」


 だが、会長はとても楽しそうにディアの様子を見ていた。


「よし。イメージできた。やろう。二人ともちょっと離れててもらってもいいですか?」

「うむ」


 二人が下がったのを確認して、ディアは剣を構えると、それを振るう。


武技アーツ走炎ソウエン十牙刃ジュウガジン!」


 横薙ぎによって、炎が一条そこに発生する。

 直後に繰り出された下から上へ振り上げるような縦薙ぎによって、その軌跡通りの炎が走る。


 二つが合わさり十字になると、空へと向かって飛んでいく。


:カッコイイ!

:少年心がうずきまくる

:ちょっと弾速遅め?

:あれ?続きあるの?


 技を放ったあとのはずなのに、剣はまだ燃えており、ディアもまた、身体を捻って剣を握った右手を左の腰の辺りにまで持ってくるような構えをしている。


「――追爆爪ツイバクソウ……行けッ!」


 そして、その態勢から勢いよく剣を逆袈裟に振り上げた。

 炎の乗った斬撃波が、勢いよく飛んでいく。


:こっちは通常より速いぞ?

:先行する十字架に追いつく?

:もしかして


 追爆爪は、先に発射された十字の牙に追いつき、重なる。

 その直後――爆発するタイプの魔技同士がぶつかりあったかのような派手な爆発が空中で発生する。


:良い技だ

:たーまやー

:綺麗な花火だ

:よし 向こうからも見えた

:向こうも動き出したよ!

 

「うむ。これで合流も早まるはずだ」

「じゃあ戻りますね!」

「無理言って戻ってもらってすまなんだな」

「いえいえ。新技を編み出せたので結果オーライ……いや万事オーライって感じです!」


 それじゃあ戻ります――と明るく手を振ってマザーグースに向かっていくディア。

 その背中を見ながら、良轟は難しい顔をして一成に訊ねる。


「探索者というのは、このように新しい技を編み出していくものなのですか?」

「いや。あの娘っ子は例外であるな」


:それな

:ふつうは無理

:魔法剣自体がほぼ彼女の我流だしなぁ

:ないワケじゃないけどディアはスキルサポートナシでやってるもんな

:マネしたけどむずいよ魔法剣

:シロナさんはサラっとやってたけど

:適性の問題もあるんだろうなあ


「コメントでも言われている通り、魔法剣自体が彼女の独自に編み出した流派近いゆえに、誰から習ったりとかではなく、自力で新しい技を編み出していくしかないという面もある」


:ダンジョンは超人適性に合わせた技や能力を付与してくるけど

:それにかまけて研鑽が温いような人は我流技なんて編み出せないわけよ

:真面目に研鑽してても我流技とか難易度高いからな?

:しかも我流技としてダンジョンそのものに記録されるかどうかとなると…

:でもミスティックを使うなら記録されるの必須だよな絶対


「我流技? ダンジョンに記録される? ミスティック?」

「まぁその辺りの専門用語は後ほど解説しよう。真面目に解説をしようとすると長くなってしまうのでな」

「はぁ、わかりました」


 そう言われてしまうと、良轟としても何も言えない。

 この場で一成に余計なわずらいをさせてしまうと、自分が危険なのは間違いないのだ。


「鳴鐘さん、紡風さん! 意図せず新技編み出したのでブッパしていいですか!」

「さっきの爆発のやつか! いいぞー! やれやれー!」

「構いませんが、我々を巻き込まないでくださいよ!」


 良轟がシリアスな心地でいるのとは裏腹に、マザーグースとの戦いの輪に戻っていったディアはとても軽い調子で二人に声を掛けている。


 それは、まるで新しくかったオモチャではしゃいでいるようにも見えた。


武技アーツ走炎ソウエン十牙刃ジュウガジン!」


 十字の炎が、真ん中の首の付け根よりやや上に目掛けて放たれる。

 それに当たるまいと、マザーグースは首をぐにょんと曲げながら大きく開いた。


 恐らくは、先ほどの爆発がなんであるかをよく分かっていないのだろう。


追爆爪ツイバクソウッ!」


 ――十字の炎が、その開かれた首同士の隙間に到達したところで、追撃の炎爪えんそうと重なりあった。


:ナイスタイミング!

:マザーグースざまぁ!!


 爆発のダメージそのものは余り大きくなさそうだが、それでも自分の首の根元で起きた爆発に動揺しない生き物はいないだろう。


「ようやく大きな隙が出来ましたね」


 一番衝撃を受けているだろう中央の首に、旋がワイヤーを引っかける。

 マナを込めて強度強化したワイヤーを思い切り引っ張った。


 中央の首が前に引っ張られ、マザーグース全体がバランスを崩す。

 爆発による動揺と、首を引っ張られたことによってつんのめる衝撃。


 例え七つの首がそれぞれに思考していようとも、身体が一つである以上、対応できる手段は限られている。


 何より、七つの思考がそれぞれバラバラに状況を脱出しようとすれば、肉体への命令が衝突矛盾コリジョンを起こしてしまうのは請け合いだ。


「武技:白刃落首ハクジンラクシュ


 旋のワイヤーによって大きく隙を晒した首へと向けて、守が居合い斬りを放つ。

 対象の首へ攻撃した場合に威力が跳ね上がるという物騒な居合い技だ。


 他の首が慌てて守をどうにかしようとする。

 他の首が慌てて隙だらけの首をどうにかしようとする。


 だが、爆発の混乱で動きがバラバラすぎて、対応ができなかったようだ。


 そして、白刃一閃。

 守の刃が、首の一つを斬り落とす。


:うおおおおお!

:ようやくだ!

:これで多少マシになるだろ!


 残り六つの首が、激痛に顔を歪ませながら一斉に守を睨む。


「おいおい。オレだけを睨んじまっていいのかい?」


 納刀しながら守がそううそぶくと、この距離でなお気配をほとんど感じないあの少年がマザーグースへと背後から襲いかかる。


武技アーツ黙礼モクレイ死鵠絶鳴シコクゼツメイ


 そして無明漆黒むみょうしっこくのオーラを纏ったダガーが、良轟から見て一番右端の首を深々と切り裂いた。



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【Skill Talk】

《走炎十牙刃/ソウエンジュウガジン》

《追爆爪/ツイバクソウ》

 魔法剣専用の武技にして湊のオリジン。

 中級の剣技 走牙連刃ソウガレンジンを魔法剣によって改良した技。


 本来は地を這う衝撃波の二連射であった走牙連刃ソウガレンジンを、炎を付与して十字に放つ形に変更。

 通常の走牙刃と比べると弾速は遅くはあるが、消滅までの時間が伸び、敵や障害物とぶつかった時の威力減衰率が下がっているので、これを盾にして間合いを詰めるような使い方も可能。


 追爆爪は、専用の追撃技。

 通常の走牙刃よりもかなり速い衝撃波を繰り出す。

 本来地面を走る技ながら、これは空中を掛けていく。

 十牙刃と異なり、消滅までの時間が早く、威力減衰率も高い。だが、これ単体でも近い間合いで当てれば攻撃力は高い。


 とはいえ、本質的にこれは敵を攻撃するというよりも、先に放った十牙刃に当てて炸裂させる為の技。

 その爆発は、フレア・バーストが三連発で爆発するかのような威力となる。


 なお炎を用いない走連十牙刃ソウレンジュウガジンも同時に記録された。

 だが、追爆爪に相当する無属性武技は登録されてない為、今のところ炎属性以外での追加行動は自力でやるしかないようだ。




《白刃落首/ハクジンラクシュ》

 居合い用の初級武技。

 相手の首を狙うように居合い斬りを放つというだけのシンプルな武技である。

 しっかりと首にあたれば、通常の1.8倍以上の攻撃力を発揮する上に、相手に即死耐性が無ければ確率で技名の通りダメージ関係なく切り落とせることがある。

 首を外しても、この技によって強化された斬撃は、通常の1.2倍ほどの威力が出る。

 使い勝手が良いのもあって、居合い剣士は比較的この技を好んで取得しようとする。

 一方で、首のない相手には使用できない。この技で狙えるのは首だけ――という欠点も存在する。

 ゆえに、ダンジョンの難易度や、モンスターのレベルが上がるほど、何となくでは使っていけなくなる技。

 守くらい使いこなせるようになっていれば、初級ながら頼もしい技である。


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