涼 と 死神 と 雑談爆弾
「その海の名を
突如現れて爆弾を落とした死神エンドリーパーに対して、涼は少し思案してから訊ねる。
「具体的にはどういうモノなんですか? その海と扉って」
「ふむ」
問われて、エンドリーパーは思案するように下顎を撫でた。
:突然の出現にも動じず対応してるな涼ちゃん
:さすが涼ちゃんというべきかなんというべきか
「まず
本来、普通の人間が触れるコトなど叶わぬ領域だが、物質領域に存在しながらも、精神領域に限りなく近いダンジョンでは、触れるコトが可能となっている。
まぁ呼び方はいくつかあってな、知識の海、情報の海、想海記憶……などなど。認識している者たちが勝手に名付けている」
「名前が違うのは、太平洋と大西洋みたいに、繋がってはいるけど別の領域だからだったりとかしません?」
「おお! その可能性は考えていなかった。だが大いにありうるな」
:とりあえずエンちゃんが何言ってるか分からない
:涼ちんついていけてるようでよく分かってないだろ絶対
:なんかダンジョンについてもたぶん重要な話をしてた気がする
「なにせ、汝ら人間がスキルと呼ぶチカラの根源は、
「え?」
:え?
:は?
:ちょっと
「この地とは異なる
「それって異世界とか並行世界のコトですか?」
「うむ。そう呼ぶ者もいるな」
「つまりボクたちはスキルを閃いているのではなく、身体と精神の準備が整うと自動的にスキルをインストールされてるってコトですか?」
「うむ」
:なんなのこの雑談配信
:ちょっと学者よんできてー!
:ダンジョン学者涙目
そのやりとりの中で、それでも涼は冷静に頭を働かせて、エンドリーパーに訊ねる。
「あの――それらの世界に、拳銃を用いたスキルが存在する世界はありますか?」
「少ないな……それがどうかしたのか?」
エンドリーパーから逆に問われた質問に、涼は少し脳内で解答をまとめてから答えた。
「拳銃を筆頭とした近代兵器と呼ばれる武器は、ダンジョン内でスキルを閃き辛いと言われてるんです。
マナも乗せづらいし、超人化していると弾丸よりも早く動けるコトもあるので、有用性を疑問視されていた面があるのですが……スキルの出所が、
:拳銃関連はそもそもインストールできるスキルがないのか
:剣や槍に技が多いのも同じ理由だろうな
:剣と魔法の世界から流入してきたスキルを使ってたワケか
:お前ら良く異世界の存在受け入れられるな?
:ダンジョンが発生した時点で可能性は生まれたみたいなモンだし
コメント欄は、概ね涼が言いたいことを理解しているような感じだ。
「あと気になるのは、我流のスキルとかはどうなってるのかな……って」
「うむ。あれらは、我流の技を使い込み、人々の記憶に刻まれるコトで
同時に、異世界側でもアーツとして閃けるようになったとも言える」
:共有のデータテーブルを使ってるからそうなるのか
:テーブルが更新されれば地球だけでなく異世界側も更新されるってか
:拳銃系はこっちで我流スキル化しないと広まらなそうだな
:我こそはピストル大名ダンジョンにロケランを広めるモノなりッ!
:ピストル大名ならピストル広めろよ
:ロケランはいいぞー
:ロケラン以外は近代兵器にあらず
:急に湧きだしたなロケラン過激派
:ロケラン使ったでたらめロケットという打ち方をアーツ昇華したピストル大名をナメるな
:だからなんでその名前で嘘だろおい!
:スキル化してるの!?
:ロケラン用スキルとか需要ないだろ絶対!!
何やらコメント欄が変な方向で盛り上がっているのを横目に、涼は次の質問をエンドリーパーに投げる。
「次に
「うむ。そうであるな……言ってしまえば、自分の精神領域と
:なんかもうすでにやばい扉な気がしてきた
:なんで鳴鐘もディアちゃんもそんな扉を気軽に開けたん?
:気軽じゃねーよ 気軽に開けられるようなもんじゃねーし
「門を開けて水を浴びるという行為は、極限の集中と、強い思いや願いを募らせた中、
「強い思いや願いを募らせる……」
「無論、それらの情報やエネルギーを受け止めて耐えるだけの肉体や精神が作り出されている必要がある。
黒髪の剣士は純粋に技を極めたいという願い。
リョウの友たる魔法剣士は事態を打開する一手が欲しいという強い思い。
極限まで研ぎ澄まされた集中力と、純粋な意志と覚悟。
ダンジョン領域という精神領域に近い場所であったコトなどから、
「極限まで研ぎ澄まされた集中力と、意志、覚悟……いわゆるゾーンってやつかな?」
:あー
:我流技を使える上でゾーンに入れないと扉拝めないのか
:そうなると拝めるヤツも少ないな
:ディアちゃん鳴鐘スゲーってなるやつだ
「ふむ? ゾーンとな?」
「えーっと、チキンの皆さんにもピンと来ない人がいると思うので説明すると……」
ゾーンとは、一つの物事に集中していて、それ以外のモノが目に映らない状態で、困難に立ち向かっている時、不思議と困難を乗り越える為の難しい動作を、まるで自然に乗り越えていけているかのように、身体や思考が動いている状態だ。
スポーツであればボールや対戦相手がゆっくり動いているように見えたり、その動きの先が自然と読めたりする。
格闘ゲームや音楽ゲームをやりこんでいる人も、もしかしたら経験があるかもしれない。
普段は反応できない対戦相手の動き。
普段なら捌ききれない複雑で大量の
それらにどういうワケが反応できて、確実で正確な対応をやり抜けてしまう。
しかも対応中は、動作に余計なチカラは入らず、だけど適度なチカラはちゃんと籠もっているので、操作などの動きにミスがない。
ゲームであれスポーツであれ――ある種の、自分が思い描く通りに自分を動かせる理想的な状態だ。
そんな話を、涼は掻い摘まんで説明すると、エンドリーパーはうなずいた。
「なるほど。その状態であれば、
:しかしゾーンねぇ・・・
:何度かそれっぽい状態になった覚えはあるな
:格ゲーやってるとなるな プロゲーマーとガチってる時とかに時々
:え?みんなそんな簡単に入ってるのゾーン
:簡単に入れるヤツはなんらかのジャンルの上位者だと思っとけ
:そう簡単に入れてたまるか
「とはいえ単にゾーンに入れるだけではダメであろうな。
先ほどリョウが推測で口にしていた我流の技、あるいはそれに近しい形で習得した技を、しかと使いこなせるレベルまで鍛えているコトが最低条件であろう」
「でしょうね。その上で、
「うむ。扉を開けて情報とエネルギーを浴びるのだ。欲張れば身体や精神が耐えきれぬであろうし、足りなければ
:すっげー情報ばっか流れてくるけど大丈夫?
:理解は出来てもそこに至れるヤツいるのかっていう
:鳴鐘やディアちゃんを見てても簡単なコトじゃなさそうだよな
:いずれロケランでミスティックに至ってやるぜ
:ピストル大名すげーな
:お前ロケラン大名に改名しろ
:明日辺り探索者スレッドとかギルドとか大騒ぎだろうな
:ギルドはもう騒ぎになってるので安心してください(残業覚悟顔
:スタッフどんまい
:あとで正式な通達行くと思うけど涼ちんは明日ギルドによろ
:呼び出し草
:呼び出しか
:呼び出されて当然
:呼び出されない理由がない
「あれ? なんか大事になってます?
「うむ。そのようだ。リョウも大変だな」
:《モカP》明日はオレもカオルも手伝えないからな?ちゃんとやってくれ
:コメントからも滲み出るモカPの不安そうな気配
:二人なしで大丈夫?涼ちゃんお使いちゃんと出来る?
「バカにしないでください。ボクだって鶏肉が視界に入らなければお使いくらいできます」
:ダメだ不安しかねぇ!
:草すぎる
:誰かー!明日涼ちんフォローしてくれー!!
:《鳴鐘》あとでLinker飛ばすからちゃんと読めよ
:良かった!動いてくれる人いた!
:まぁ残当
:鳴鐘氏涼ちゃんを頼んだ
:《鳴鐘》不本意だが事が事だからディアちゃんも巻き込むか
:《モカP》そっち方面はオレから連絡しときます
:《鳴鐘》頼んだ
:コメント欄はチャット欄じゃないんですけど!ww
:草
:ともあれモカPと鳴鐘が動くなら安心だな
「そこまで信用ないです?」
:ないなw
:ないね
:この件に関しては仕方ない
:ごめん涼ちゃん 無いと思う
:みんな正直で草
:探索やダンジョン知識には信用あるけど
:腕利きの探索者ではあるはずなんだがなーw
「ふはははははは! 愛されておるなリョウ!」
「えー……これ、愛されって言うんですか?」
これ以降は爆弾の特にない、穏やかな雑談配信が進んでいくのであった。
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【Idle Talk】
:まるで後半に爆弾がなかったかのようじゃないか
:死に神と一緒の時点で穏やかじゃない
:雑談配信にエンドリーパーが出演してる時点で爆弾だから
:確かに新情報みたいのはなかったけどさ
:徹頭徹尾爆弾ばっかの雑談だったろうが
:涼ちゃんもうちょっと色々な自覚もって!
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