湊 と 扉 と 討伐完了
「涼さんは気配を消して背後からの強襲が得意です。なので――」
「おう。坊主が背後を取ってスキルを使えるだけのスペースを作るんだな」
白凪の言わんとすることを即座に理解したエンデルクが、馬鹿でかい剣を振るう。
それを喰らうまいとギガントジェリーは触手を伸ばして絡め取った。
「うおッ、マジかこいつ……!?」
:頭もいいのか!?
:あれを取ろうとしてくるのやばいな
:ああ!おっさんの剣が!
エンデルクは奪われまいと力強く握りしめるも、そこへ電気を纏った触手が伸びてくる。
「……クソッ!」
毒づきながら剣を手放し後退するエンデルク。
それを見ていた白凪が、伸びきった電気を纏った触手に狙いを付ける。
「
掌に風を纏わせ、振り抜くことで風の刃を発生させるブレスだ。
本来は片手に風を纏わせるのだが、白凪は両手に風を纏わせている。
まずは左手の手刀を振り抜く。
それによって生じた風の刃が飛んでいき、電撃を纏った触手が切り飛ばされる。
切り飛ばされたことで白凪を認識したらしいギガントジェリーが、彼女に向けて、掴んでいたエンデルクの大剣を投げつける。
「もう一発ッ!」
剣が飛んでくるのを見据えつつ、即座に、右手の手刀を振り抜いた。同時に横へと大きく飛ぶ。
大剣と風の刃が交差する。
互いにぶつからず、干渉せず、それぞれの狙い通りのところへと向かっていった。
風の刃が、大剣を掴んでいた触手を切り飛ばす。
大剣が、先ほどまで白凪がいたところに突き刺さり、派手な砂飛沫をまき散らす。
「調子乗ってんじゃねぇぞクラゲッ!!」
恐らくSAIに保管していた予備武器だろう。
エンデルクが、片手用の片刃直剣を握ってギガントジェリーへと飛びかかる。
「
振るわれた剣閃が、浮遊するクラゲをたたき落とすかのような三日月を描く。
その技はボディをざっくりと切り裂くものの、ギガントジェリーは浮遊を維持した。
そしてギガントジェリーは反撃とばかりに生きている触手のうち二本を乱暴に振るう。
「そう何度も吹っ飛ばされてたまるかッ!」
しかし、エンデルクは歯を食いしばると触手の一つを片手で白羽取りするように掴んだ。
直後にもう一つの触手に吹き飛ばされるが――
「ガッ、あ……ぐ……離すかよッ!」
――触手を掴むことを維持した為、クラゲはつんのめるようにエンデルクの方へと動いた。
「綱引きといこうぜ、クラゲッ!」
グイっとエンデルクは触手を引っ張る。
ギガントジェリーも踏ん張ろうとしているようだが、こういう力比べには弱いようだ。
:おっさんやる!
:あれ相当無茶だぞ
「湊ッ、準備はいいなッ!」
「もちッ!」
そして、香の声が響く。
「デルクッ、手を離してくれッ!」
「おうよッ!」
:来るか!
:涼ちんの本領!
ギガントジェリーの背後。
そこに、飛び上がった状態で涼がいた。
「
背後にいる涼を気づかせまいと、白凪がダメ押しのようにブレスを放つ。
ギガントジェリーは綱引き中に突然手を離したエンデルクのせいで、バランスを大きく崩している。
そこに、白凪が放った風の刃が直撃し、本体に大きな傷を付けた。
すぐさま傷口が泡立ち再生を始めるものの、ダメージを受けたことへの驚きと怒りはあるようだ。
透明なボディの奥で光る核を、より真っ赤に染め上げて、白凪の方へと向き直る。
「あとは、涼さんと湊さんの仕事ですね」
明らかに自分に狙いを付けられている中で、白凪は不敵に笑う。
「
涼は、背後から気づかれずに攻撃するのに成功した時に威力があがるバフを自分に付与する。
絶命一如は使わない。トドメを刺すわけではないのだ。
今回は最低限の威力の底上げさえされればいい。
続けて、次のスキルの準備をした涼の右足が黒いオーラに包まれていった。
「
その足を鋭く振り抜く。
:足技だ!
:結構強い技だよな
:涼ちんのスタイルとも相性よさげ
手が使えないとか、武器がないなどという時の為に習得してあった足技だ。
黒いオーラを纏って鋭い蹴りを放つ技で、オーラ部分は文字通りの斬撃化する。
至近距離で繰り出せば蹴りによる打撃ダメージと、オーラ部分による斬撃ダメージが同時に発生する。蹴りの届かない相手でも、オーラによる斬撃部分のリーチが足より長いので、不意打ちや牽制などにも使えるのだ。
今回は完全に至近距離。
オーラによる斬撃でギガントジェリーの後頭部(?)を切り裂きつつ、強烈な蹴りで吹き飛ばす。
ギガントジェリーは砂浜にたたき付けられ、バウンドしながら湊の前へと転がっていく。
:あとはディアちゃんがトドメだ
:これで倒しきってくれればいいんだが
「…………」
転がってくるクラゲを見据えながら、湊は剣に炎を乗せて構えていた。
だが、どうにも物足りない感覚がある。
(これじゃあ倒しきれない気がする)
ならばどうするべきか。
「……………」
僅かな逡巡ののち、燃えさかる剣へ、さらに風のチカラを上乗せしていく。
:炎が渦巻きだした?
:風も乗せてるのかアレ?
:ちょっと表情が苦しそうだがイケるのか?
コメント欄の心配は正しい。
実際、湊も少し苦しいとは思っている。
(だけど、このくらいしないと、このチャンスはモノにできないッ!)
大きく深呼吸をし、キッと目を見開く。
「行くよッ!」
左手を前に出し、剣を持つ右手を大きく引いて、一気に踏み込む。
「
剣を突き出す。
ギガントジェリーにズブリと突き刺さり、内側を焼いていく。
さらに深く突き刺さる。
もっと深く突き刺さる。
だが、途中で剣が止まった。
「これ以上ッ、進まない……ッ!」
ギリリと歯ぎしりをする。
コアまであと一歩。だが、そのあと一歩が進めない。
:マジか!?
:内側が堅いのか?
:でも炎と風で中身をズタズタにしてるから……
:中もすごい勢いで再生してる?
(足りない……パワーが、出力が……!)
一度抜いてやり直そうか――そう思った矢先、突き刺したボディの周辺がうねり、触手が生えてきた。
:うっそだろッ!?
:そこから生えるのナシだろ!!
それは明らかに湊を狙った触手だ。
ビームを撃つようなモノではないだろうが、先端が鋭く尖っている。
刺突特化か、あるいは毒針か。
:ディアちゃん退け!
:なんなんだよこのクラゲ!!
「……くわえ込んで離さないって?」
:もしかして剣が抜けない?
:なら手放して逃げるしか
「こうなったら……ッ!」
突きの姿勢から、両手持ちに変えグッと腰を落としてチカラを込める。
「このまま……もっと炎と風を上乗せするッ!!」
宣言通り、クラゲの体内で暴れる炎と風の勢いが増す。
それでも核までは届かない。
(ダメだ……もっともっとチカラがないと……! もっと、上乗せしないと……!)
向こうの新たに生えた触手の準備と、自分の攻撃と――どちらが早いかの勝負。
(もっと、もっと、もっともっと……ッ!!)
限界を超えて炎と風のチカラを乗せているうちに、ふっと周囲の色が無くなった。
(え?)
それは白昼夢なのか、幻覚なのかは分からない。
あらゆるものの時間が止まった世界が、唐突に湊の目の前に現れた。
時の止まった世界は姿を変えて、気がつけば湊は不思議な扉の前にいる。
扉の向こう側は海の底のようにも、水槽のようにも見える。
水槽か海底らしきものと自分を隔てる巨大で豪奢な青い扉。
それ以外何もない。誰もいない。剣も無い。クラゲも消えた。
ただ一人だけ、湊はその世界にいる。
(これは……)
直感的に、その扉を開くともっとチカラを得られるという感覚が湧いた。
恐る恐る――湊はその豪華な青い扉に触れる。
一気に開けるのは危険な気がして、ほんの僅かに開く。
すると、その隙間から、水がちょろちょろと零れだしてくる。
それに触れた瞬間――ダンジョン探索中、スキルを突然習得した時のような感覚を感じた。
普段は脳内で閃くような感覚のそれが、全身を満たすように。
(触れただけじゃあ、足りない。もうちょっと引っ張りだそう)
扉を開け放って全身にこの水を浴びるのは危険だと直感し、零れた水を持ち上げる。
ゼリーやスライムを思わせるような感触のそれを握って、ゆっくりと引っ張れば、扉の隙間からゆっくりと水が出てくる。
(どこまで引っ張る? どのくらい有れば足りる?)
分からないし、分かるモノではなさそうだ。
だから湊は――運に任せることにした。
(このまま一気に引っ張りだそうッ!)
勢いよく引っ張って、握っているスライムのようなゼリーのような海水のようなそれを引きずり出す。
途中でブツンっと途切れた。
(これで足らそう。もっとほしい気もするけど、これ以上は、きっと危ない)
そう思った矢先――意識が元に戻る。
剣を突き刺し、チカラを込めている状態へと全てが戻る。
そんな中で――
(なんだろう、心の奥底からチカラが湧いてくる感じ……!)
ダンジョンで良くあるスキルを閃く感覚。
それが脳ではなく心で弾けた気がした。
(名前のない技……私だけの
知らない言葉が、知らない感覚が、知らない動きが、まるで知っていたモノのように湧いてきた。
頭や心、身体ではなく、魂そのものがそれを知っていたかのように。
グッ――と、全身にチカラを込める。剣を握る両手に、今まで以上のチカラを込める。
「
:ん?なんだそのスキル宣言?
:初めてきく宣言名だけど
:シーカーズの鳴鐘も似たような宣言してた記憶が
「……
思い切り突き出すように、チカラを絞り出すように、湊はチカラを解き放つ。
次の瞬間、剣が纏っていた炎と風が螺旋を描き、横向きの竜巻が、ビームのように先端から発射された。
それはギガントジェリーの内側を貫通するも、核そのものへは軽く掠っただけだ。
それでも、このクラゲはすでに無事とはいえない状態になっている。
:風と炎でゲロビ作った!?
:クラゲ貫通したああああああああああああ
:すっげー!!!!!
「
竜巻やビームを思わせるそれを発生させたまま、湊は剣を上へと振り上げる。
ギガントジェリーがそれによって打ち上げられた。
チカラの本流のようなモノがなくなり空中へとギガントジェリーが投げ出される。
しかし、空中がメインフィールドであるはずのクラゲは、バランスを崩しているのか、立て直せないままだ。
あるいは、核が傷ついた為に、チカラを失いかけているのかもしれない。
「終わらせるッ!」
ビームのような竜巻は収まれど、まだ炎と風が渦巻いている剣を背負うように構え、湊は地面を蹴る。
そして、空中に投げ出されたギガントジェリーを、その核を――
「ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
――裂帛の気合いと共に、切り裂いた。
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【Skill Talk】
《ウィンドブレイド》
風属性の初級魔技。
手に風を纏わせ、それを振るうことで風の刃を飛ばす。
手の振り回し方で飛び方や、刃の形を多少融通を利かせられる為、使い勝手が良い。
基本的には片手だけに纏わせるのだが、使い込んでいくと両手に風を纏わせることも可能となる。
《浮落斬月/フラクザンゲツ》
初級の剣技。
三日月を描くような軌跡で繰り出す縦切りで、空中にいる相手に対して威力が増加する。
宙に浮いている相手だけでなく、宙に打ち上げた相手への効果も増加するので、使い勝手は悪くない。
欠点があるとすれば縦斬りという形でしかしよう出来ないという点。
その為、機動力の高い相手には躱されやすい。
《闇刺閃蹴斬/アンシセンシュウザン》
中級の体術。足技専用。
作中で説明されている通り、黒いオーラを纏って鋭い蹴りを放つ技で、オーラ部分は文字通りの斬撃化する。
至近距離で繰り出せば蹴りによる打撃ダメージと、オーラ部分による斬撃ダメージが同時に発生する。蹴りの届かない相手でも、オーラによる斬撃部分のリーチが足より長いので、不意打ちや牽制などにも使える。
回し蹴りだけでなく、ソバットやカカト落としなどの形でも使用できるので、覚えると使い道が多い技である。
《風炎迅/フウエンジン》
魔法剣専用の武技にして湊専用のオリジン。
元となる技は初級ながら、この技の分類は秘技になる。
初級の剣技
元の疾風迅は、鋭い踏み込みから、素早く力強い突きを繰り出す技。
湊は元の技をそれなりに使い込んでいた為、探索者たちの平均と比べると、威力も速度も高い。
そんな疾風迅に炎と風の魔法を乗せたことで、突きの威力がアップ。突き刺すと同時に炎と風が解き放たれて暴れるので、破壊力が増している。
ちなみに炎だけだと、
《絶火轟風・螺導旋/ゼッカゴウフウ・ラドウセン》
魔法剣専用の武技にして湊専用のオリジン。
上級の上にある秘技。さらにその上にある領域『
ゲーム的に言うなら、暗転とカットインが入るゲージ消費の秘奥義。あるいは超必殺技。
構えた剣から横向きの火炎竜巻を繰り出し、それを振り上げることで相手を上空へと吹き飛ばし、最後は炎と風を纏った強烈な斬撃で両断する。
本来は風炎迅を使い込んだ果てに閃くはずだった技。
極限状態での集中力と覚悟、未知なる道へと無理に一歩踏み出してでも勝利を手にしようとする心の有りようが、
偶然とはいえ、裏技のような方法で閃いた為、現状まだ未完成。風炎迅からの派生でしか発動できない。
使い込んで行けば、その場で発動も可能になることだろう。その時こそ真の絶火轟風・螺導旋の完成といえる。
しかし湊が使い続け、人々の記憶の中にこの技と動きが認知されていけばいずれは記録される。
だが、記録されたところで、湊以外の者が閃き、使いこなせるところまでいける確率はあまり高くないだろう。
【Idle Talk】
色んな回:本編よりSkill Talkを書く方が次巻かかったかもしれない回
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