湊 と 配信コメ と 焼きそば


:ギガントジェリーとやら見に来た

:マジでデカいな

:それで今何やってんの?

:領域外であんなジャンプできるの?

:届いたすげー!

:え?触るだけ?

:原種のフロートジェリーは怒るとゲロビぶっぱするから慎重に触るのは正しい

:怒らせないように優しく触って領域方面へ誘導してるらしい

:うーん涼ちゃんの手が赤くなってきてるな

:カオルくんのジャンプ力も落ちてきてる

:領域外だから負担がハンパないんだろ

:むしろ領域外であれがデキる二人がバケモン



「何チンタラやってんだよ!」

「お前ら探索者ってやつなんだろ!」

「とっとと倒せよ!!」

「そこの女も探索者なんだから撮影してないで手伝えっての」

「あのハゲのおっさんも見てるだけじゃん」



:カメラが拾う外野の好き勝手が言いたい放題すぎてて不快

:カメラさんがどなたかは存じ上げないが撮影がんばって!



「撮影してる女と一緒にメガネっ子がこいつ連れてきたんじゃねーの?」

「確かにダンジョンからモンスターが出来てたからって騒いでたよな」



:マジで言ってんのか野次馬ども

:カメラには映ってないメガネっ子ちゃんとやらはむしろ仕事したんだろうな

:涼ちゃんねるの二人が駆けつけてきたのはそれだろ

:相手が巨大なフロートジェリーとなると人数多いのはむしろ面倒

:涼ちんとはぐれの組み合わせ神保町のエンドリーパー思い出すな

:↑あれも野次馬が最悪だった 相手がリっちゃんじゃなかったら涼ちん死んでたしな

:神保町で何があったの?

:今レシーブしてるちっこい少年が領域境界線手前ではぐれに対してガン警戒で対応してたんだけど野次馬の一人がその背後からあの少年を突き飛ばしたのよはぐれの方へ

:信じらんねぇ完全に殺人未遂だろそれ

:実際その場にいた非番の刑事さんにしょっぴかれてた

:ギャラリーが石投げてギガントジェリー怒らせたりしないよな?

:怒りのゲロビが海の方へならいいけど住宅街の方だと最悪だぞ



「ギャラリー、邪魔。石投げたり、人を突き飛ばしたりしたら許さないからね」


 カメラが声の方に向くと同時に、コメント欄が沸いていく。



:お?

:なんか可愛い感じの怒り声が

:大角ディアちゃんだ-!

:結構腕利きの配信者ちゃんじゃん!これは心強い!心強いんだけど

:ディアちゃんキタ! キタんだけど…

:ええぇ……

:ディアちゃんさぁ・・・

:この子なんで焼きそば食べてるの?

:昼食中のとこ駆けつけてきたのかな?



 声の主――大角ディアこと湊が、フル装備でそこに映った。映ったのだが――


「……湊さん。何で焼きそば食べてるんですか?」

「避難誘導してたら焼きそば屋台のお兄さんがくれた。チキン焼きそばだって。めっちゃ美味しい」

「いえ、あの……そういうコトを言っているのではなく……」



:困ったようなお姉さんボイスはカメラさんかな?

:これカメラさんはシロナさんか

:どちら様で?

:ディアちゃんのマネジャーさんでこの人も現役ベテラン探索者な

:結構な強い人が集まってるのか

:ただ腕利きっていっても領域内限定だからな

:それな だから領域外であれだけ動ける涼ちゃんとカオルくんがやばい

:本当にそれなんだよ たぶんこのメンツならガチ戦闘なら簡単に負けない

:戦場が領域外になった途端オレたちなんぞただの人だしな



「そういえば着替えてきたんですか?」

「涼ちゃんと香くんがいるから、準備に多少時間掛かっても平気かなって。

 頭数いたって領域外じゃあ役立たずなんだし、それなら領域を越えると同時に万全にバトンタッチできる状態にしといた方がいいと思ったの」



:確かに涼ちんもカオルくんも水着の上に上着羽織ってるだけか

:あの状態で領域に踏み込んでも戦闘しづらいのは確かだよな

:焼きそば食ってるだけの子かと思ったら結構考えてるじゃん

:焼きそばを食わずにそれを口にしてるなら素直に優秀じゃんって褒めれたのに

:焼きそば食いながらのせいで色々台無しだ



「ええっと、ディアさん」

「ああ。湊でいいですよ。カメラ回ってるとはいえ、はぐれが相手だし、プライベートなみたいなものですし」



:これがメガネっ子ちゃんですか

:可愛いじゃん



「じゃあ湊さん。大山根オオヤマネ 言乃コトノです」

「ああ! 涼ちゃんたちの通ってる学校の生徒会長さんだっけ? 話聞いてますよー。

 言乃センパイって呼んでいいですか?」

「え? あ、はい!」


:コトノちゃんって言うのか

:生徒会長さん!確かに真面目っぽい感じ!

:状況は緊迫してるけど女の子同士のやりとりは尊い

:挨拶するなら焼きそばしまってもろうて

:どこかで見たコトある赤フレームめがねのような…

:メガネと声になんか覚えあるな

:いやいやまさかまさか

:なんか変な反応してるコメントあるけど知り合い?



 湊と言乃が挨拶を交わしあうと、カメラマンの白凪を加えて話が始まった。

 カメラは涼と香を映しつつ、マイクは女性陣の会話を拾っていく。



「日が暮れると風が強くなるのかぁ……」

「ギガントジェリーは風に流されるくらい軽いようなので、ああやって怒らせない程度のチカラで押すというのを繰り返してるようなんですけど」

「言乃センパイ。近くのダンジョン……潮騒の領域でしたっけ? ここから近いです?」

「え? はい。あそこに見える入り江の辺りです」



 言乃が指差す方向にカメラが向く。

 それを見て、コメント欄が少し頭を抱えたような内容のモノが増えた。



:近いは近いんだけど

:ゴブリンやらオオカミみたいなモンスターならいざ知らずだな

:あのコンビネーションジャンプ繰り返していくならかなりの距離だぞ

:日が暮れて風が強くなるより先につれていく必要もあるしな



「時間と距離の問題もあるけど、それ以上に……」


 マイクが小さく呟く湊の声を拾う。



:ディアちゃんなんか懸念あるの?

:焼きそばの量増えてね?

:喋りながら空のパックをSAIにしまっておかわり取り出してたぞ

:なんでおかわりしてるんだよ



「湊さん、何でおかわりしたの?」


:いいぞコトノちゃん!もっと言えもっと言え


「なんかやめられないとまらないって感じの美味しさなもんで……あ、センパイも食べます?」

「……ちょっと魅力的な提案! 騒ぎのせいでお昼食べ損なっちゃったからにゃぁ……」



:現場の探索者さんご苦労様です

:そうだよな こういう騒動になるとメシ喰ってる場合じゃねぇもんな

:現在進行形で食ってるヤツいるけどな

:なんで食ってるんですかねぇ・・・

:止められない止まらない浜辺の焼きそば・・・もしかしてうで屋か!

:ああ!あそこの浜辺に毎年焼きそば屋台だしてるとこのか

:あれめっちゃ旨いんだよな!



「大山根さん、食べてもいいですよ。余力がある今のうちに少しお腹にモノを入れておいた方が良いかと」



:カメラさんはベテランな大人って感じか

:でも実際問題この状況なら様子見しつつ食事はアリ



「海の家で買ってきたからこれもあげますね」


 そうして湊はSAIからパックに入った焼きそばと、ペットボトルの麦茶を取り出して手渡す。


「ありがとうございます」



:嬉しそうに焼きそば受け取るコトノちゃんかわいい

:SAIの容量大きそうなの羨ましい

:わかる 探索用の武器と道具セット入れるといっぱいになる身からするとマジうらやま

:あのSAIから何個焼きそば出てくるんだよ?

:しかしスキンヘッドのおっさん以外若手ばっかりなのに安定感というか安心感あるな

:ただの若手じゃなくて実力者でしかも油断やイキりのない連中だからじゃないか?

:ベテランの風格みたいのがあるというか



 それから、湊は涼たちに向かって呼びかける。


「涼ちゃん、香くん! そろそろ休憩したら?」


 すると二人は湊の方を向いた。


「特に涼ちゃん、手を冷やそう。お茶買ってきたし、鶏肉入りの焼きそばもあるから!」



:うわよく見ると確かにリョウの手が赤くなってて痛々しい

:そうだよな領域外なんだからああいうのもダメージになるんだよな

:自然と二人でジャンプしてたから意識してなかった



 呼びかけられた涼と香は、エンデルクと軽く言葉を交わしあう。

 涼と香はエンデルクに礼を告げるような仕草をすると、こちらの方へと戻ってくる。


「湊、鶏肉!」

「涼ちゃんステイ。まずは手を見せて」



:なんで開口一番鶏肉なんだよ!

:ディアちゃんもだいぶ涼ちんの扱いに慣れてきてるよなw



「とりあえず冷やして。焼きそばとお茶は応急処置してから」

「うん」



:お預けくらった子犬の顔してる

:涼ちんの手を見ちゃうと無理しないで欲しいけど

:状況の打開は二人が必要なんだよな

:領域内だったら戦力が増えるのはありがたいんだが

:はぐれ戦はマジで領域外の立ち回りが上手い奴らが生命線なんだよな

:今回は場所やモンスターの組み合わせが悪すぎて警察や自衛隊を待ってるワケにもいかんからなぁ



「助かるよ、湊」

「珍しくバテてるね、香くんも」

「体力的には余裕があるはずなんだがなぁ……単に飛びかかって殴る蹴るするだけならまだしも、飛び上がった上で怒らせないように触れるってのを意識するのがキツくてな」



:そうだよな 勢いのまま突っかかるワケにもいかんからな

:怒ったらゲロビでなぎ払われるって緊張感は確かに

:自分が焼かれて死ぬだけならまだしもゲロビとなると余波がな

:へたに市街地に向いたらと考えるとプレッシャーすごいだろうな

:飛び上がって軽く触る単純作業でも命がけなんだよな

:こんな状況でもギャラリーは逃げずに文句言ってくるのマジなんなの



「はい。二人とも焼きそばと麦茶」

「ありがと」

「助かる」

「涼ちゃん、SAIある? 容量は?」

「余裕あるけど……」

「じゃあ追加で五パック。香くんと分けて」

「恵の雨ならぬ恵のチキン!」

「……うんまぁいいけどね」


 そんなやりとりの後で、二人は一息入れると、伸びをする。

 ささっと飲んで食べて多少は回復した。


 さすがの涼も、こういう状況での一息なので、焼きそばは一パックで留めたようである。


「まだ食べたいけどそうも言ってられないか。行こう香」

「ああ。もうちょっと無茶させるが頼む」


 二人のやりとりを見ながら、湊も声を掛ける。


「わたし、ちょっと領域の境界線確認してくる。言乃センパイ借りていい?」

「頼む。境界線の辺りで空に向かって目立つブレスでもブッパしてくれ」

「りょーかい。それじゃあ言乃センパイ、動けるなら案内お願いします」

「うん。すぐ動ける。行こう」

「私はここから可能な限り両方へカメラを向けてますね」

「白凪さんも頼みました」


 そうして四人の学生探索者はそれぞれの役割を全うする為に、再度動き出すのだった。



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【Idle Talk】

 湊が購入した焼きそばは、毎夏この海岸で焼きそば屋台を出している【うで】。

 まるで店主の手が四本あるんじゃないかって動きで、鉄板の上の材料を混ぜ合わせてる姿からいつの間にかそう呼ばれ出した。

 実際、常人には見るコトの出来ない手首から先だけの腕が、常に店主の周りを浮遊しており、料理や喧嘩を手伝ってくれる。

 透明な二腕は遠隔操作が可能なので、何気にギガントジェリーRTAは、この店主に手伝いを依頼するコトだったりする。

 もっとも湊たちがそんなコト気づくわけがないし、店主もその腕ではぐれの対処が出来ると思ってないので、マッチングするのはほぼ不可能である。

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