香 と デルク と ギャラリー対応


 本作が第九回カクヨムコンにて、中間選考を突破しました٩( 'ω' )و

 お読み頂いた皆様、その上でレビューや♡、コメント、ギフトまでくれた皆様!

 そんな読者の皆様の応援のおかげです!


 本当にありがとうございます!!

 最終選考も突破するといいなぁ……などと思いつつの更新です



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「香と白凪さんはくらげの方へお願い。

 ボクと湊は、必要な荷物を持ってくる」


 波打ち際まで戻ってくるなり、涼は即座にそう告げる。


 フロートジェリーは空中をのろのろと漂っているだけで動きを見せない。

 誰かが怒らせてしまったりする前に、涼としては必要最低限の準備をしようと思ったのだ。


 その上で、香と白凪を残したのは、状況の安定感。

 ダンジョン領域外で立ち回るのであれば、自分より香の方が上だと思っているし、はぐれやダンジョンに関する知識などは涼よりも白凪の方が上だと思う。


 ならば、自分と湊は、二人が必要とするモノと、ダンジョン領域までフロートジェリーを押し返したあとに、自分らがすぐ動けるような装備を調えておきたい。


「分かった。上着とスマホを頼む。

 パラソルのとこの荷物には鍵付きのネットをかけてある。番号はいつものやつな」

「了解」


 湊も湊で、白凪と言葉を交わし必要なモノを確認していた。

 会話の区切りがついたところで、香が湊に声を掛ける。


「湊、上着あった方がいいぞ。パラソルのところに予備のラッシュガードもあるから、自分のでもそっちでも好きな方を使ってくれ」

「ありがとう。でも何で?」

「掃除されているとはいえ、この砂浜はゴミが少なからずあるしな。それに貝殻の欠片とか木片の有無も考えると、生身で転がったら大変だ」

「そういうコトかぁ……それならいっそ着替えちゃいたいけど、海水まみれ砂まみれだから、それもなぁ……」


 ぼやく湊の気持ちも分かる――と、香が苦笑する。


「それと湊。悪いんだけど、スマホ回収したらディアのWarblerアカウントで、即座にワブを頼む」

「はぐれ出現って?」

「ああ。場所と、モンスター名だな。変異種かネームドの可能性ありってのも付け加えてな。その際、機械的な箇条書きだけにしといてくれ」

「わかった!」

「ボクは?」

「涼ちゃんねるはもう少ししてからでいいから、気にせずスマホを持ってきてくれ」

「わかった」


 そうして、涼と湊はパラソルの方へと走り出す。

 そこでロッカーのカギなどを回収したら、それぞれが借りているロッカーへと向かうだろう。


 二人がある程度離れたところで、白凪が苦笑した。


「機械的な箇条書きも演出になりますもんね」

「普段わちゃわちゃした囀りワーブルが多いアカウントが、必要最低限な情報だけを投稿するとなりゃ、フォロワーの探索者たちは、ガチだって思ってくれるでしょうしね」


 見たフォロワーの危機感を煽る内容で、それを見て駆けつけてくれる探索者が一人でも居れば御の字――というのが、香の目論見だ。


「さて、涼たちが戻ってくるまでに、こっちも出来るコトをしておきましょうか」

「そうですね。ダンジョンの外なので、出来るコトは限られていますが」


 香と白凪はうなずきあ会うと、くらげが浮いている方へと向かって動き出す。


「みなさ~ん! 避難してくださ~い! 刺激しないでくださ~い! このくらげッ、怒るとすっごい危ないんです~!!」


 フロートジェリーに近づくにつれて、少女の大声がハッキリと聞こえるようになる。

 遠目から見ても水着は着ていないようなので、元々近くのダンジョンを探索していた少女なのかもしれない。


 それにしては、どこかで聞いたことのある声な気もするが。


「あれだけの大声を聞いても動く人が少ないんですか……?」


 眉を顰める白凪に、香は首を軽く横に振った。


「探索者のコトをよく分かってない連中だから、女の子ってだけでナメてるんでしょうよ」


 ともあれ、二人としては一生懸命にフロートジェリーから野次馬を遠ざけようとしている少女のところへ向いたい。


「嬢ちゃん、どけ。お前さんじゃあ、威厳と迫力が足りないらしいからな」


 人混みに遮られ、二人がなかなか進めずにいると、低い男性の声が聞こえてきた。

 人混みの隙間から確認するに、スキンヘッドでガタイの良い大男のようだ。


「お前らッ、この嬢ちゃんが言っている話はガチだッ! 危機感がねぇバカでも死にたくねぇならここから離れろッ!!」


 恐らくはフロートジェリーを刺激しないギリギリレベルの大音声。

 その迫力にやられてそそくさと動き始める者もいれば、まだ動こうとしないものもいる。


「そうは言ってもおっちゃんもメガネちゃんも、逃げないじゃん?」

「オレたちは探索者だ。一般人を避難させ、くらげを監視する義務がある。つまりは仕事だ」

「そんな簡単な仕事ならおれにだって出来るんですけどー?」


 ケラケラと笑いながらおちょくるような態度を取る大学生くらいの青年。

 スキンヘッドの探索者が、顔にも頭にも青筋を立てた時だ――


「出来るワケねぇだろボケ」


 その後頭部を香が鷲掴みにした。


「危機感もねぇ、状況判断能力もねぇ、知識もねぇ、常識もねぇ、碌な知性もねぇようなテメェなんぞにできる仕事じゃねぇんだよ。失せろ、邪魔だ」


 淡々と告げて、そのまま背後へ向かって乱暴に投げ捨てる。


「痛ぇな、ナニを……」


 尻餅をついた男は、香を見上げながら文句を言おうとして、口を噤んだ。


「失せろと言った。仕事の邪魔だ」

「その根拠のない万能感で人死にを大量に出したいんですか? その結果生じる大きな責任が貴方を飲み込むと理解しての態度で?」


 下目使いに見下ろす香と白凪の殺気に当てられた男性は、「ひぃ」っと喉の奥で悲鳴をあげるとドタバタとその場を去って行く。


「同じようなコトを思っているヤツがいたら出てこい。問題を起こす前に俺が潰す」

「私も手伝います。足りない脳みそに、この砂浜の砂と共に常識と危機感をすり込まなければなりませんから」


 殺気を隠しもせずに二人が野次馬たちを睨み付けると、さすがにそろそろと動き出す者たちも増えていく。それでも、気にせず残って好奇心からの笑みや、理解力無さそうなヘラヘラした笑みを浮かべているのも少なくない。


「やりすぎじゃね?」

「領域外戦闘中にギャラリーからの投石くらったり、境界線上ではぐれの警戒してたら背後から領域内に押し込まれて、ピンチになった身内がいるんで」


 少し引き気味のスキンヘッドさんへ、香は苦笑交じりにそう告げる。

 すると、スキンヘッドさんは目の上に手を置いて天を仰いだ。


「そのレベルでダメなのかよ……」


 なら仕方ないか――と理解してくれたようだ。


「茂鴨くんに、白凪さん?」

「お? 聞き覚えある声だなぁ……って思ってたけど、先輩じゃないッスか」


 スキンヘッドさんと一緒にいるのは、大山根オオヤマネ 言乃コトノだった。

 ダンジョン内でハンマーを携えている時ならいざ知らず、確かに小柄な先輩が、武器もなく大声をあげているだけだと、危機感を煽れないかもしれない。 


「なんだ嬢ちゃん知り合いか?」

「はい。茂鴨くんは学校の後輩で、超人化の恩恵はほとんどないのに素手でゴブリンの群れに殴り込んだりできる人です。

 こちらの女性――白凪さんは、私の知り合いで、ベテランの探索者さんです」

「白凪さんはともかくだ……兄ちゃん、マジか?」

「マジですよ」

「この状況じゃあ願ったり叶ったりの戦力なのは助からるぜ」


 ガハハと笑い、スキンヘッドさんは手を差し出す。


禿龍トクリュウエンデルクだ」

「……本名ですか?」

「おう。父親がドイツ人でな」


 日焼けした肌で筋骨隆々。スキンヘッドに口ひげ、加えてハチマキ。

 プロレスラーかボディビルダーを思わせる体躯をした、豪快が擬人化したんじゃないかと思わせるような大男。


 確かに日本人離れした容姿かもしれない。だが日本人とドイツ人の子と言われてもピンと来ない。

 よく見れば、目は碧色だ。なんとなくドイツ人要素を見つけられた気がした。


 その為、思わず香は口にしてしまう。


「エンデルクって見た目じゃないですよね。見た目からしてハゲルとかハグルとかの方が良かったのでは?」

「本名に文句言ってんじゃねーぞ、兄ちゃん?」


 アァン――とガッツリとガンを付けるエンデルクの手を取り、握手をしながら香も告げる。


茂鴨モカモ カオルだ。よろしく頼む」


 ガンを返しながら名乗る香に、エンデルクは目を眇めた。


「おう! お前さんこそ女みてぇな名前してんな?」

「お互い、よく言われるんだろ?」

「そりゃそーだ!」


 あはははは、ガハハハと笑いあい、二人は堅く握手を交わす。


「呼びづらかったらデルクでいいぜ」

「俺のコトもカオルでいいですよ」


 仲良くそう口にしあう二人に、端で見ていた白凪がうめく。


「理解できないやりとりで、仲を深めるの止めてくれませんか? 見ててハラハラするんで」

「悪い悪い。白凪さんだったな。よろしく頼む。名字より名前で呼んで欲しい。デルクで構わん」

鰐浜ワニハマ 白凪シロナです。私のコトも名前で構いません。よろしくお願いします、デルクさん」

 

 そうして、白凪とエンデルクが握手を交わしたのを確認してから、香は言乃へと向き直る。


「先輩。ハンマー貸してください。出来るだけ軽いやつ」

「それでも領域外で使うには重量あるよ?」

「そこは覚悟の上です」


 そんなやりとりのあとで、言乃はペンダント型のSAIからハンマーを取り出した。

 柄が長く、ヘッドはあまり大きくないタイプのモノだ。


「え? なにいまの?」

「どこからでっかいトンカチだしたの?」


 ギャラリーがうるさいのを無視して、香は言乃から借りたハンマーをしっかり握ると、構える。


「うるぅああああああああッ!!」


 逃げずに残っているギャラリーに見せつけるように、そのハンマーを砂浜へと振り下ろす。

 ドゴンという爆発するような音と共に、勢いよく砂が舞い上がった。


 それだけで、腰を抜かすほどびっくりした者がいるくらいだ。


「こっからはマジでお仕事タイムだ。

 こいつに巻き込まれたくないなら、とっとと失せろ。これだけ警告してんのに、逃げずにいたやつが死んだりケガしたりしても、保険は降りねぇぞ」


 実際のところは降りるのだが、敢えてそう口にする。

 もっとも、保険適用云々で逃げ出すような人は、この場に残ったりはしないだろうが。


「このくらげは特別大人しいから、余裕を持って避難や対策立てる時間があるんだからな?

 ガチでやべぇはぐれモンスターなんぞ、こんな風に親切に脅して貰えるヒマなんてねぇんだ」


 それでも動きの遅いギャラリーに、香の背後にいるエンデルクは露骨に舌打ちする。


 言乃のハンマーは領域外では重くて使いづらい武器だ。

 それを軽々とコントロールしてみせる香の胆力には目を見張るものがある。


 自分とは方向性は違えど、良い筋肉をしている。

 香自身も自分の筋肉を信じているようだし、筋肉もまた香を信頼しているようだ。


 そんな男が見せた胆力に、それでもまだ危機感を感じない連中がいるというのは、エンデルクからしても信じられなかった。


「もしかして、デルクさんははぐれ対応はじめてですか?」

「ん? ああ、恥ずかしながらな。長いコトやってるが運良く遭遇しなかった」


 白凪から訊ねられ、エンデルクがうなずく。


「なら馴れてください。これが当たり前です。

 最近はダンジョン配信者が啓蒙をしてくれているので、むしろ動きが良くなったくらいです」

「……これでか?」

「ええ。ダンジョン配信にすら触れたコトのない一般人というのは、本気でダンジョンや探索者について、何も知らないし、興味がないんです。

 だから――はぐれの出現も、着ぐるみイベント程度にしか思わないコトが多い」


 信じられない――というのが正直な感想だが。


 あれだけの胆力を見せた香が、「まぁ減った方か」と言いながら言乃にハンマーを返却している様子を見るに、嘘ではなさそうだ。


「はぐれ対応っていうのは、建物だけでなく、よく分からず近寄ってくるギャラリーを気に掛けながら、持てる手段を講じていくんです。

 正直、領域内へと押し戻せればラッキー……って感じですよ。

 基本的には、領域外で、超人化せずに戦って、被害を極力減らして勝利する必要がありますので」


 運良く押し戻せても、単純にモンスターとして強い場合は、苦戦を免れない。


「なるほどなぁ……ナメてたぜ、はぐれ対応……」


 エンデルクは思わずうめくが、だからといって状況が変わるわけではない。


「そういう意味じゃあ、怒らなきゃ手を出してこないくらげだったのは安心材料か?」

「どうでしょうね。私たちがいくら気をつけてたところで、ギャラリーが怒らせる可能性とかはありますので」

「マジかよ」

「それこそ、知り合いの探索者がギャラリーに背中を押されて、モンスターの前へと転がされたコトが記憶に新しいですし」


 そういえば、香も似たようなことを言っていたな……と思い出したながら、エンデルクは心の底からうめく。


「……マジかよ」


 それってモンスターよりギャラリーの相手の方が面倒じゃないのか――という喉元までデカかった言葉を、エンデルクは飲み込むと、のんきにふよふよ浮いているフロートジェリーを見上げるのだった。




 

 


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【Idle Talk】

 エンデルクさんの年齢は35歳くらいのイメージ。

 趣味はヒトカラ。歌唱力は可もなく不可もなく。

 探索者としてのスタイルは本編内でそのうち。


 

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