涼 と マハル と お祭りモンスター


「とりあえず、マハルさん」

「はい」

「見た目は変わってますがふつうのゴブリンと変わらなそうなので、レッツバトル」

「え? ええ!?」


:マイペースにスパルタだ

:明らかにイレギュラーだろこれw

:なんでゴブリンがお祭り姿なん?


「危なかったらすぐ助けますので」

「わ、わかりましたわ……!」


:マハル様がんばって!


 ウォーハンマーを肩に乗せてゴブリンへと向かっていくマハルを見ながら、涼は手を叩いた。


「あ、そうだ」


 すると、ドローンカメラの前に出て告げる。


「モカPでもチキンの中の探索者ニキでも構わないんで、国府八幡宮のお祭りスケジュールの確認と、ギルドへ様子が変わってる旨の報告を誰かしといてください」


:様子がおかしいことの報告はともかく神社のお祭りスケジュール?

:もしかしてリアルのスケジュールとダンジョンの内容が連動してる可能性?

:マイペースにやってるようで考えるべきコトは考えてるんか


「マハルさんが交戦を始めたのでそっちに注視しますね」


:忙しいな涼ちん

:《探索者A》配信見たいけどちょっとギルドに報告行って来るわ

:すまんが頼んだ

:《事務員A》大丈夫です 配信確認即同僚へ報告済みです

:なんかすごいコトになってるなw

:マジでリアルなんだなダンジョン配信

:いつもと様子が違うってだけで期待と警戒が同時に発してる

:チキンが大勢居るせいかコメント欄の緊迫感と物々しさが違うよね

:そりゃあ探索者ニキだけじゃなくてギルド員ネキがいても不思議じゃないか


 コメント欄もせわしなくなっている中で、マハルがハンマーを大振りして、お祭りゴブリンをぶっとばす。


:お嬢様すごい!

:一撃じゃん!


「一撃でしたわ!」

「さすがです。ちょっとオーバーキルな気もしますけど、倒せないより全然良いです」


;筋力高めのウォーハンマー使いとなるとこうなるのか

:ホームランバッターって感じの一撃だったな

:これでまだバフを使ってないんだよな


「単純な打撃の威力が高いのは分かりました。格上相手でも通用する一撃だったかと思います」

「ありがとうございますわ」


 涼は素直に褒めてから、マハルの元へと向かう。


「今度は少しハンマーの持ち方を変えてみましょうか。

 利き手を柄の真ん中よりヘッド寄りの方を握って。もう片方の手は中央辺りを握ってください」

「ちょっと窮屈かもですね」

「でも、その方が素早く振り回しやすいですし、隙も少なく、取り回しやすくなってるはずです」


 その言葉を聞いて、マハルは教えて貰った持ち方のままブンブンと振り回す。


「確かに涼様の言う通りですわ」

「単純な物理の話になりますが。

 柄の先端――石突きに近いところを持つほど、遠心力が乗りやすく威力も上がりますが、その分、重量による負担も使い手に掛かりますし、自分自身も遠心力に振り回されやすくなり隙も大きくなります。

 その持ち方はその逆ですね。ヘッドに近い位置を握るほど、振り回した時の威力は下がりますが負担と隙が減ります」


 マハルは言われるがままに、持ち方を試す。

 重たいハンマーも、確かにヘッドに近い方を握った方が持っていて安定するし、振り回しやすくなるようだ。


「咄嗟の反撃や、懐に入り込まれた時などは、ヘッド側を持っていた方が対応しやすいはずです。なので基本は短めに持ってた方がいいかもですね」

「ふむふむですわ」

「お祭りゴブリンがまた来たようなので、今度はその握り方で戦ってみてください」

 

 言われるがまま、マハルは短く握ったウォーハンマーでお祭りゴブリンと戦う。


 先ほどと違って一撃で倒すことはできないものの、重いヘッドで何回も殴打されれば、お祭りゴブリンも立てなくなる。


「そこまで行ったらやりやすい方法でトドメを」

「はい!」


 マハルは元気よく返事をすると、柄を長めに持つ持ち方へと変える。

 それから、倒れ伏してピクピクしているゴブリンへ向けて、勢いよく振り下ろした。


:うーんグロ画像

:なまじ人型感が強いからなゴブリン


「あ」

「どうしました?」

「アーツを閃きましたわ。水平三段という技のようです!」

「素振り出来そうです?」

「やってみますわ!」


:おお閃いたか

:あの感覚独特すぎて慣れないんだよな

:脳みそに必殺技を強引にインストールされる感覚あるしな

:体験したことないけど気になる話だなぁ


武技アーツ水平三段スイヘイサンダン!」


 スキル宣言と共に、マハルがその技のように構えたハンマーを水平に振るう。

 右から左へ。素早く二回。それから、前二発よりも大きく振り抜くように一発。

 巨大なだるま落としにでも挑戦しているかのような動きにも見える。


「なるほど。それ、短く持った状態でも発動できますか?」


 言われるがままに、マハルは短く持って発動。


「出来るようですわね。ふつうに振るのと同じでこっちのほうがコンパクトに素早く振り回せるようです」

「なるほど。次は、一段目や二段目で止められるか試して貰えますか?」


:涼ちゃんの確認方法が細かい

:技を閃いた時ここまで精査しないわ俺…


「一段目止め、二段目止めも意識すれば出来そうですわ!」

「ふむ」


 涼は少しの思案のあとで一つうなずいた。


「その技は基本的に短く持っている時に使う方がいいと思います」

「そうなのですの?」

「動きからして――長く持っている時は、初段で相手が怯まないと、隙が大きいだけですから。

 短く持っている時も、知恵があるモンスターは、二段目と三段目の隙間を狙ってくるかもなので、基本的にはペン・ペンと一発目か二発目を当てた時に相手が怯んでないようでしたら、三発目を出さずに止めちゃった方がいいです」

「逆に怯んでいるようなら出し切ってしまっていいのですね?」

「はい。ペン・ペン・ペーン! と当てちゃってください。倒せずとも三発目で吹っ飛ばせるのが理想です」


:ぺんぺんという表現草

:見た目からしてからしてドンだろwぺんはねーよw

:ぺんぺんは笑うけど適正外の初見技を数度見ただけで運用法を発案するのすごいな

:すごい丁寧に教えてくれるんだね

:道中の指導も技の指導も細かい…すごい…


「技の威力と、マハルさんのステータスを考慮すると――短く持った状態で繰り出す水平三段は、自分が勝てる相手かどうかの試金石にもなりそうですね。

 ぺんぺんと二回当てて怯む相手なら、ぺんぺんぺんと三発目まで当てるといいです。転ばすなり大きくよろけさせるなり出来るはずです。

 そこからフルスイングへ繋げればば勝てる可能性があります。なのでピンチでもジャイアントキリングできる可能性は出ます。

 フルスイングで倒せそうにない相手でも、三段目まで当てて怯ませれば逃げる隙が出来る可能性があります。

 ただ、ぺんぺんと二回当てても怯まない、ガードが堅い……そういう相手は恐らくマハルさんがソロで勝つのは無理ですし、逃げる為に怯ませるのも難しい相手と言えるかもしれませんね」

「そもそも、強敵相手にこれを当てる間合いに入るというのが難しそうですが……」

「短く持っておいてあまり振り回さず相手が間合いに入ってきたら発動するという方法も一つの手段です」

「なるほどですわ」


:勝つための使い方ではなく生き延びる為の使い方だなこれ

:涼ちゃんって常にこんな思考して動いてるの?

:↑たぶんそう 基本ソロだからなおさら

:ベテラン視点でもふつうに参考になるから困る


 真面目な顔をしてうなずくマハル。

 その表情を見て、涼は何かに気づいたようにドローンへと視線を向けた。


「視聴している探索者の皆さんへの豆知識というかちょっとした小ネタなんですが……。

 ハンマー技の水平三段同様に、剣の隼二連ハヤブサニレン、槍の神速三牙シンソクサンガなどなど、連続した動きをするタイプの武技アーツには、使い手の意思で途中止めができる技があります。

 自分の手札で途中止めが出来る技があるかを把握し、途中で止めるコトに馴れると、その技の評価が自分の中で変わるコトがあるかもしれませんよ」


:有用情報すぎる

:初心者指導配信で流れていい情報じゃないだろそれ

:知ってる人は知ってるけどあまり知られてないマイナー情報だわな


「あ。隼二連で思い出した」


 涼はそう零すと、マハルへと向き直る。


「水平三段って縦振りで出来ます?

 剣技の隼二連っていう技は、基本横薙ぎを二発繰り出す技なんですが、縦斬りと横斬りを連続して繰り出したりと応用が利くので」


:《鳴鐘》ちなみにそうやって十字斬り的な使い方してると隼二連が隼十字ハヤブサジュウジという技へ進化したりする

:ちょっと待って!鳴鐘さん!?

:他人の配信のコメント欄でさらっとすごい情報流すの止めて!!!

:アーツって進化するの!??!

:《鳴鐘》アーツどころかブレスだって進化するぞ

:だからそういう情報を急に流すのやめろ!コラボ配信枠のコメ欄だぞ!?

:誰なの鳴鐘って?

:《鳴鐘》ただのチキンだよ俺 本業が探索者ってだけで

:ダウト!!ただのチキンなワケないだろ!!

:鳴鐘は国内五本指に入るトップギルドのメンバーにしてチキン

:一応チキンなんだw

:《鳴鐘》取得してないアーツを見よう見まねでやりまくってると使えるようになったりもする

:だから爆弾情報を落とすな!

:マジで?マネしまくると覚えることあるの!?

:コメント欄閉じてる時にそういう情報流していいの?

:涼くんにも教えてあげた方がいいんじゃない?

:《鳴鐘》いやぁ涼ちんは自力でたどり着いてるっしょ

:トップギルドの人が認めるくらいの人なの涼って?

:《鳴鐘》うちのリーダーはスカウトしたがってるみたいだぜ

:本当にすごい人とコラボしてるんだお嬢様

:実は涼ちん宛てにスカウトメールとか来たりしてるの?

:《モカP》だいたい自分と香で弾いてます

:でしょうね!


 コメント欄が大盛り上がりしているのを余所に、マハルは水平二段を縦で出そうとして、首を傾げていた。


「ダメなようですわね。右から左、左から右という変化は出来そうですが、上から下あるいは下から上のような振り方で出すコトはできないようです」


 一通り試したことを報告するようにマハルが言えば、涼はうなずいた上で、自分の考えを口にする。


「ありがとうございます。その横の振り方が変更できるというのは大きいですね。

 普段の技の振りが難しい状況で、逆から振れる時とかはあると思いますので」

「意思やイメージが技に反映されるというのは、初めて知りましたわ」

「それでしたら是非とも覚えておいてください。馴れてくると、アーツを繰り出す時の姿勢や、武器を振り回す速度なども微調整できるようになっていきますので。

 新しく使えるようになった技は、こうやってしっかりと確認するのをお勧めします」

「はい! ありがとうございますわ!」


:使い勝手は試すけどここまで試すことはないな

:新情報が多すぎる 明日絶対探索行こう

:マハル様なんか嬉しそうというか楽しそう

:心なしか余裕がある雰囲気までする

:私たちお嬢様を追い詰めてたんだなぁ

:マジで反省案件じゃん

:今までは知らなかった でも今は知ってる 次から気をつければいいだろ

:マハルちゃんだってお前らのコト嫌いなワケじゃないんだし

:チキンたち言葉遣い悪いけど優しいね

:《鳴鐘》配信主ともども面倒見が良くて貧乏くじ体質ってだけかもな

:《モカP》その言葉完全に鳴鐘さんへのブーメランでは?

:《鳴鐘》ノーコメントにしとくぜモカP

:《事務員A》あのー 配信中にぶしつけですみませんが お祭りセットの剥ぎ取りをお願いしても?

:《モカP》了解です


 すると画面が大きく動き出す。

 モカPがドローンを操作し始めたのだろう。


:《モカP》画面揺れます


「痛っ……モカP、それ以外のやり方を考えない?」


 ドローンは軽く涼に体当たりをすると、専用のメッセージ欄を表示する。


:《モカP》ギルド依頼。ゴブリンのお祭りセットを剥ぎ取って来いって


「了解、モカP。

 でも……その依頼だと、マハルさんには難しいかな」

「どうしてですの? お祭りゴブリンくらいならわたくしでも勝てますけれど」

「ハチマチや法被はっぴ、フンドシを綺麗な形で回収できる倒し方、できます?」

「…………」


 涼の問いにマハルは小さく沈黙し、自分が握る武器を見る。


:マハル様の弱点が露呈して草

:言われてみるとウォーハンマーで倒すと素材回収無理だなこれw

:基本ぺしゃんこだもんな 素材が血まみれになるか素材ごとグチャる

:四肢を粉砕してから脱がすとかそういう

:四肢粉砕状態から脱がすの大変そうじゃない?


「ちょうどお祭りゴブリンのおかわりが来ましたし、ちょっと行ってきます」


 涼は気楽な調子で大振りのダガーを手にすると、その姿が薄まってカメラから姿を消す。


:軽いなぁw

:なんか姿消えたんだけど

:あれ?いつカメラの前からいなくなったの?


 ややして、ドサドサと音が聞こえて来るのでカメラがそちらに向く。


:え? なに?

:ゴブリンが倒れてる? え?

:さすが涼ちん

:もう三匹倒したのか


 すると、倒れ伏した三匹のゴブリンから、ハチマチや法被、フンドシを引っぺがし、ついでに団扇を回収している涼の姿が映る。


「りょ、涼様……とんでもない早業ですわ……」


 マハルがそう驚いていると、ズシンズシンという小さな地響きが聞こえてきた。

 涼もそれに気づいたのか、手早く素材を回収すると、マハルの元へと戻ってくる。


「嫌な予感がします。いつでも逃げれる準備を」

「は、はいです!」


 地響きはどんどん近くなってきて、やがて奥の廊下エリアから、身長が二メートル半くらいはありそうな人影が部屋エリアへと入ってきた。


 そうして姿を見せたのは――


「一つ目の巨人ですわー!?」

「お祭りモンスター……ゴブリン以外もいるのか!?」


 ――お祭り法被にハチマチとフンドシを付け、大きな熊手らしきものを装備した一つ目巨人サイクロプスだった。



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【Idle Talk】

 ぺんぺんぺん は元ネタ見た時からどこかで使いたいと思ってました




【Skill Talk】

水平三段スイヘイサンダン》:

 名前の通り、水平に槌を三度振る、槌用の初級武技。

 大型武器の場合、コンパクトに握って振り回していると習得しやすく、大振り攻撃を多用していると習得しづらいという特徴を持つ。

 技名の通り三段攻撃を繰り出す。

 最初は小さく二回、最後に大きく一回、水平方向に振る。

 本文にあるとおり、途中で技も止まるし、短く持っている時だけでなく、大振り技としても使えるので、これがあるだけで槌使いの戦術は大きく広がる。



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 ちょっと息切れしてきたので、更新速度を落とします。

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