涼 と ゲスト と 決着と
:フォレストドラゴン系だけど見覚えのない姿のやつだ
:暫定ブロシアか
:強そうなやつを前に安定感ある三人だ
:綺麗な桜が咲いているだろモンスターの背中から生えてるんだぜ?
:うお鳴鐘ギリギリで躱して首を攻撃してる!
:Oh...!!Ssamurai slash!!
:ビビらず冷静だな
:相変わらずモカPのドローン操作神懸かってるな三人の動きをちゃんと追えてる
:保護者の武技も結構強そうだったがダメなのか
:It's big and hard! That alone is troublesome
:やっぱ鱗というか皮というかは堅いんだな
:ところで涼ちんどこ?
:ニヤリ笑いの釜瀬さんどうした?
:涼ちんだ!背後から首狙い!!
:かわされた惜しい!
:首だけ動かして避けるとか器用なドラゴンだ
:おいおいおい落下中を狙われてるぞ!
:投げナイフだ!なんかオーラ纏ってるやつ!!
:食いつこうとしてる口を閉じて動き止めた!涼ちんも着地できた!
:すごいな 躱されたのにしっかり次撃の準備してたのか
:お? 涼ちゃんと鳴鐘さんで何かする?
:話を聞いてないのに即座に支援に動ける釜瀬さんすごいな
:敵は強そうだがベテラン三人の動きは安心できるな
:釜瀬がナイフ投げたあと消えた?いやスニーキングスキル使ったのか
:Mr.Kamase! also a ninja!! There were ninjas here too!!!!!
:ninja!ninja!!ninja!!!
:ホント海外勢はニンジャ好きだなww
:鳴鐘の居合いだ!
:待って!?なんで抜刀一閃で十字傷できてるの?そういう技?
:いや葬一刃はふつうに斬撃を一回浴びせるだけの技のはず
:二連って宣言してたしそういう発展系か
:うおおおお!ドッシン衝撃波!!
:三人とも冷静にかわしてる!でも涼ちゃんやろうとしてたことキャンセルかな?気配出てきたし
:衝撃波やばいわあの広範囲で木々がへし折れる威力とか
:まぁ今の攻撃は避けないワケにはいかないし仕方ない
:なんだ?花吹雪?
:え?あいつのこぼしてる花びらが全部カッターナイフ??
:ちょ!?風まで起こしてるぞ!!
:あの花吹雪を風でランダムシュートとか怖い!
:画面揺れまくる!モカPちゃんと制御して!!
:Jesus! Are the three of you safe?
:無茶言ってやるな!むしろこの突風の中墜落せず操作してるの化け物なんだぞ!!
:カッターナイフみたいな花びらが突風で舞ってたけど三人は?
:涼だ ブロシアの正面に涼が立ってる!!
:コートとか結構裂けてるけどナイフ構えてる!!
:ドラゴンの背中に釜瀬氏がいる!!
:むしろ釜瀬さんが風を止めたのか?
:桜が切れてる!?
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身体や装備が傷つくのも気にせず、釜瀬は刃のような花びらの舞う突風の中を突っ切った。
あちこちが裂け、血を流しながらも気にせず釜瀬は突っ走り、ブロシアの背中に飛び乗ってそこを目指す。
そこ――風の中心点。それはブロシアの背中の桜の木。
ならば、これをどうにかすれば、風は収まる。
「配信で、リアルで……何度か見せてもらったから、オレにもできるさ」
新人たちに色々教えながらやってきた中で、気づいたことがある。
閃きやマテリアルに頼らなくても、スキルは習得できる、と。
見よう見まねでも使おうとする意志と、実際に実行してみることで、スキルが習得できることがあるのだ。
これより模倣するのは涼の技。
弱っている相手に威力があがる暗殺系バフ。
ブロシアは弱っているというほど弱ってはいないが、それなりにダメージを受けているのであれば、威力の底上げになるはずだ。
「いけるか……武技:絶命一如! よし」
涼の見よう見まねでやってみたが、発動してくれたので安心だ。
続けて、手にしたナイフに力を込める。
「そしてもう一つ……!」
黒いオーラを纏わせて、その射程と威力を大幅に高める上位武技。
「
ドレイクを倒した技は模倣することそのものが難しかったが、こちらならなんとかなった。
「おらァ!」
釜瀬は全力でそれを振り抜く。
斬撃は桜の木の根本を切断した。
ゆっくりと傾いていく桜の木。その背から転がるように、倒れていく。
それを見届けることはせず、釜瀬は桜とは逆側から、ブロシアの背中を飛び降りるのだった。
・
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・
右頬を切った。
髪も少し落ちた。
左耳も少し切れた。
コートもズボンもあちこちが裂けた。
顔も耳も衣装が深く裂けたところからも血が出ている。
当たり前だが痛い。痛いが耐えられないほどではない。
戦意はある。
五指は動く。四肢は動く。思考は明瞭だし視界も良好。
傷は痛いが軽傷で、五体満足。ならば問題はなにもない。
風は弱くなった。
鋭き刃の花吹雪も落ち着いた。
背中の木が傾いて右側に倒れゆくのが見える。
背中の上から左側へと飛び降りる釜瀬が見える。
敵は健在。
だが大技直後故に動きが鈍い。
あるいは、背中の木が切り落とされたことにショックを受けているのか。
どちらであろうと、それは明確な隙だ。
涼の正面にはブロシアがいる。
否。ブロシアの首の元のやや下――守の付けた傷こそが涼にとっての正面だ。
「
両手の指の間に投擲用ナイフを挟んで構える。
すべてのナイフに黄色くバチバチと弾けたオーラが付与された。
「武技:
涼はオーラを纏わした両手のナイフを、ブロシアの顔めがけて同時に投げる。
投げた数よりも十倍近い数に増えたナイフが一斉にブロシアの顔めがけて飛んでいく。
投げる武器と同じ形の幻影を大量に発生させる武技だ。
幻影に攻撃力はなく、そもそも物理的な判定の一切がない。
真に迫る幻影は見る者を惑わし、貫通力の高められた本物を隠す。
だが涼にとっての真の本命は、今投げたどのナイフでもない。
嘘重影詐を用いて投げたナイフに本命はなく。
最初から、その後に投げるナイフこそ本命だ。
パラライゾスを付与したもう一つのナイフを、飛んでくる大量のナイフに驚いているブロシアの十字傷の中心へ向けて投げつける。
「武技:
投げる武器に対して、完全な透過とはいかないが、非常に見づらいクリアカラーやスケルトンと呼ばれるような見た目にしつつ貫通力を高める武技。
半透明となり気配も薄くなったナイフが宙を駆ける。
ブロシアは背中の木が切れたことを気にしながらも、大量のナイフに当たるまいと慌てたように首を低くした。
顔を下げると涼と目が合うが、涼が何かしているようには見えず、大量のナイフから身を逸らすことを優先した。優先してしまった。
背中の木が地面に落ちて地響きをあげる。その瞬間。
「……グガ……?!」
十字傷の中心に、半透明となっていたナイフが突き刺さる。
激痛に身悶えながらも、ブロシアは自分にダメージを与えた涼を睨みつけ――
「……グル……ルル……ガ……?」
グラリと傾くと、力なく首を垂らして地面の上に投げ出した。
何が起きているのかわからないという顔でブロシアはもがく。
いや、本人はもがこうとしているのだろう。
だが全身が痺れて力が入らなくなったブロシアは、もぞもぞとした些細な動きしかできなくなっている。
「鳴鐘さん。あとは任せます」
「おうよ!」
構える居合いは大上段。
鞘走る勢いのままに振り下ろす。
「武技:
葬一刃の縦振り版と言ってしまえばそれまでだ。
だが、横凪と振り下ろしでは、剣に乗る威力が異なる。
使い勝手の良さなら葬一刃に軍配があがるが、威力だけならこちらが上だ。
「
裂帛の気合いとともに、マナの乗った刃を、超人化によって強化された身体能力を用いて、全力で抜き放ち、振り下ろす。
守の放った一撃はブロシアの首を断ち、勢いのまま地面を叩くと、衝撃波とともに砂埃を巻き上げた。
煙が涼の視界を、カメラの視界を遮る。
「鳴鐘さん。ちょっと砂埃ひどすぎ」
「俺も砂がめっちゃ目に入って痛い」
「自分でやっておいて!?」
視界を遮る砂煙の向こうで、大人たちの頭の悪いやりとりが聞こえてきて、自然と涼の口元から笑みがこぼれた。
「ああもう!
直後、釜瀬のスキル宣言が聞こえてくる。
釜瀬を中心に風が吹き、舞い上がった砂埃を晴らす。
そこには、首を切断され、絶命しているブロシアの姿があった。
:おお!
:888888888
:たおしてるー!!
:8888888888888888888888
:あの太くて堅そうな首が!
:Samurai!! Samurai!!!!!!
:鳴鐘の居合いはやばいと聞いてたけどマジやばいな
:ベテラン勢だと普段組まないメンツで組んでもここまでやれるのか
:花吹雪はやばかったけどそこ以外は安定してたな
:その花吹雪も三人ともうまくやり過ごしたっぽいしな
:いやいややり過ごしたというか釜瀬って人が桜吹雪の中を突っ切って背中の木を切ってたじゃん
:しかしアッサリしすぎててな
:個人的にはもうちょっと苦戦を見たかったという心境もなくはない
:アッサリしすぎた時はもう一騒動ある エンタメの基本だ
:リアルを配信してんだからそう都合良く何かが起きるわけないだろいい加減にしろ!
:そんなー
:っていうかそうそうこんなイレギュラーが何度も起きてたまるか!
:でも涼ちゃんねるだよ?
:↑それをいわれるとなー(´・ω・`)ひていできない
「うわぁぁぁぁぁ!!」
:悲鳴?
:え?マジでもうひと騒動あんの?
:そうはならんやろ?
:なっとるやないかい!
「どうする!?」
「一か八かだ! 釜瀬さんたちの方へ逃げよう!!」
:この声イキリコンビとさっき助けた四人組か?
:え? 何かに襲われてるの?
「ドラゴンは討伐しました! 何かに襲われてるならこちらへ!!」
声の様子からふざけていないのだろうと判断した涼が声を上げる。
「涼ちゃん、SAIの容量は残ってる? 俺のはそんな大きくないんだよ」
「同じく」
「わかりました。SAIは大当たり引いてるので」
涼は了解すると、ブロシアの首と身体、そして桜の木を回収した。
そうこうしているうちに、四人組と新人二人が必死の様子で駆け寄ってくる。
「なにがあった?」
「鳥型モンスターが!」
「フロア1じゃ見ないやつで!」
「鳥?」
涼、守、釜瀬が訝しんだ時――その姿が見えた。
一言で言えば巨大なカラスだ。
羽を全力で広げたウィングスパンは2mはありそうである。
:ブラックロックだよなあれ?
:まじで乱れ四季のフロア1にはいないやつじゃん
「あれもフロア4のモンスターじゃなかったでしたっけ?」
「涼ちゃんの言う通りだな。そのはずで間違いない」
「なんなんだよ、このダンジョン。イレギュラー祭りでも開催中か?」
三人がぼやいていると、ドローンが涼の顔の横にやってきて、コメント欄を開いた。
:鳥じゃん涼ちゃん
:解体しないの?
:アレは食肉対象外?
それを見ていた守が吹き出した。
「そりゃそうだ。チキンの一人としては協力しなきゃじゃんよ」
「そういうものなのか?」
よくわかってない釜瀬は首を傾げる。
:鳴鐘もチキンなのかよw
:そりゃあ協力してくれるよな笑
:逃げてブラックロック!この場の獲物は人間じゃない!アナタよ!
そして当の本人は――
「みなさんぜひ協力お願いします! ブロシアの肉より興味ありますから!!」
――目を輝かせ、全力でそう宣言するのだった。
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【Idle Talk】
暗殺バフ斬撃の完全成功の気持ちよさを知ってしまったので、スニーク系と暗殺系のスキルをもっと伸ばそうかな――などと考えはじめている釜瀬氏。
新人の指導をしてないときは基本ソロなので、使い勝手の良さを実感中。
【Slill Talk】
《
投擲用の武技。中級に分類される。短剣で使う場合に限り、詐剣術の一つとして扱われる。
投擲すると同時に、投げたモノそっくりの幻影を多数作り出す技。
本物以外に当たり判定はなく本当にただの幻影。本物は1.02~1.2倍程度の威力アップ補正が入る。
幻影の数と、威力補正は、熟練度が高まれば増えていく。
また本来の投擲能力が高く、複数のモノを同時になげられるなら、投げたモノそれぞれの幻影を同時に作り出すこともできる。
真に迫る幻影は、無視しづらく、その中から本物を見つけだすのは至難の業。
《
投擲用の武技。初級に分類される。短剣で使う場合に限り、詐剣術の一つに分類される。
投擲するモノの貫通力などの威力を高めつつ、その色彩を半透明に変え気配を弱らせる武技。
純粋に、投げられたモノが見づらく認識しづらいというだけで厄介な技。
投擲能力の高い探索者であれば、習得しておくと役に立つ場面が多いスキルとして有名。
上記二つの投擲用詐剣術は、涼にとっては強敵と正面切って戦わざる得ないときの重要なスキル。
弱った相手に威力のあがるタイプのバフを効果的に使う為、暗殺系バフが通用しない相手には、これらを使って、毒や麻痺を付与したナイフを通すことが戦略として重要。
倒さないにしろ、毒や麻痺で動けなくして逃げるという手段にも使われる。
最近はモンスターを食材と見なしていることが多いので、毒付与は控え気味。もちろん食材云々言ってる余裕がない時は別。自分が食材になりそうな時などは容赦なく毒も使う。
《
居合い系の武技。初級に分類される。
大上段に構えながら、居合いとともに振り下ろす技。葬一刃の縦斬り版ともいう。
葬一刃と異なり、大上段から振り下ろすという性質状、発生速度は居合いにしては遅く、そして縦に振り下ろす都合、効果範囲は狭い。その為、避けられやすいという欠点がある。
ただ威力は段違いに高いので、キッチリ決められるタイミングであれば、低燃費高威力とコストパフォーマンスは非常に高い。
今回、地面を叩く勢いで使った守だったが、舞い上がる砂埃を見て、葬一刃と同様に我流アレンジが閃きそうな気がしている。
それはそれとして砂埃で目が痛いのはどうにかしないといけない。
《ブラッシュウィンド》:
風属性の魔技。初級に分類される。
自分を中心に突風を起こす。ただそれだけのブレスである。
今回のように砂埃や煙を晴らすのにつかったり、不意打ち気味で発動することで相手の体勢を崩したりと、工夫すれば使い道はある。
実際、釜瀬はトラップやモンスターのスキルで発生した毒霧や、ダンジョンギミックの濃霧などをこれで一時的に晴らすなどできて便利だと思っているが、世間的にはそうでもない。
これを使い続けると、攻撃系の風ブレスが習得しやすい為、風属性を使いたいブレス使いたちからすると、通過点用の技扱い。
闇雲に使い続ければわかりやすいカマイタチや竜巻などの攻撃系ブレスに発展していくのだが、創意工夫をして使っていると、風らしい変幻自在なブレスを習得しやすくなるというのは、知られていない。
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