涼 と 守 と 釜瀬 羽流
「どうやら、俺の出番はなさそうだな」
涼と三人組のやりとりが一段落したところで、花畑へもう一人の男性の声がやってきた。
「鳴鐘さん。お手数おかけしました」
涼がペコリと頭を下げると、守は気にするなと軽く手を挙げる。
:鳴鐘?
:なんかまた一人でてきたぞ
:こっちは顔出しOKなんだな
:うわイケメンのポニテとがたぎる
:チキンの中に肉食なのか腐肉食なのかわからんがそういう女子いるな?
:腐肉食ってなに?
:↑君の知らない世界の話
今日の守は、長めの黒髪をうなじではなく、高い位置でポニーテールのように結っていた。
細身で長身な為、シルエットだけなら女性のように見えるが、涼とは違い顔つきも体つきもしっかり男性のものだ。
黒塗り鞘のいかにもな日本刀を携えているので、それが彼の獲物なのだろう。
その姿を見た釜瀬が、恐る恐る訊ねる。
「刀の使い手で鳴鐘といえば――シーカーズ・テイルの
「ご明察。その通りだ」
鞘に入った刀を肩に乗せて守はうなずく。
:シーカーズ・テイルって日本でも指折りの実力者パーティじゃん
:涼ちゃんそんなパーティの人と知り合いなの!?
「そっちこそ――四国の保護者、
「勘弁してくれ。その二つ名嫌いなんだよ。別に保護してるワケじゃないんで」
:やっぱ四国の保護者本人か
:なんかすごいメンツが集まってる?
:場違いが二人いるけどな
「ところで、鳴鐘さんはどうしてここに?」
「涼とは個人的に知り合いでな。前回の鴨狩りの帰り道、怪しいのに付きまとわれてたしよ。
ここらで、正体暴こうって話になったから協力したんだよ」
:前回の急な配信終了それ?
:つまりこいつらのせい
:でもこいつら良く武蔵国府ダンジョンを探索できたな?
:そりゃあ釜瀬氏がいたんだろう
:それで勘違いしちゃったのかね
「なるほど。そりゃあオレたちが悪いな」
やれやれと頭を掻き、釜瀬は二人の方へと向き直る。
「
ビクっとする二人に、釜瀬は告げる。
「オレは涼と鳴鐘さんと一緒に、今から帰る。お前らも自力で帰って来い」
「え?」
「なんで……!?」
「高校生配信者がソロで来れる場所なんだ。お前らなら帰って来れるんだろ?」
:釜瀬さんおこ?
:そりゃあおこだろう
:まぁ話を聞いてるとな
:見捨てるワケじゃないだろうがお仕置きは必要ってコトだな
「釜瀬さん。帰りの話は置いておいて――とりあえず、向こうのムカデを相手してもらえばいいのでは?」
「お。鎧ムカデじゃん。確かにちょうどいいな」
涼が指で示す方から鎧ムカデが近づいてくる。
それを見て、守は小さく口笛を吹いた。
釜瀬も異論はなく、それにうなずくと顎でムカデを示す。
「ほら、行ってこい。
散々イキって他人に迷惑かけたんだから、ただのイキりじゃねぇってところをオレらに見せてくれ」
それでも尻込みする二人に対して、釜瀬は追いつめるように続ける。
「とっとと動けよ。戦うにしろ逃げるにしろ即座に判断できなきゃダンジョンじゃ死ぬだけだ。素直に無理って即答するなら大目に見てやったかもしれないが――それもせず戦いもせずウダウダしてんじゃねーぞ、青二才ども!
もうあのムカデからは逃げられないところまで距離は詰められてんだ。覚悟決めて立ち向かえ。オレたち三人に期待せずに死ぬつもりで立ち向かえ!」
:うおスパルタだ
:いやふつうのコトだろ
:さすがは四国の保護者
:言ってることは正しいんだよなぁ
:四国の保護者の言葉を無視してイキった結果がこれなら自業自得
:三人とも本気で見捨てたりはしないだろうけどギリギリまでは手を出す気はなさそう
:ちなみに一般チキンのみんな あのムカデは画面越しでも迫力あるが実際に対峙するともっと迫力があるしツラは怖いし足はキショいから
:モンスターもダンジョンも画面越しとリアルじゃあ迫力や気配がダンチだからな
「なんなら涼に頼んでドローンでテメェらの勇姿を配信してもらうか?
わざわざ気を使って足下だけを撮影してくれてるみたいだが、テメェらは有名になりたいんだろ?
勝っても負けても死んでも、撮影してもらえば多少は有名になれるだろうよ」
:どうあっても悪名
:すでに悪名というか汚名というかだよなぁ
:全国のイキリ探索者くん見てる~?
:これから君たちのご同類がモンスターと戦っちゃいま~す
:
:ミトラレ配信にならなっきゃいいよな
:MTRとは新しい
:そんなシーン涼ちゃんねるでみたくないけどな
:スプラッタはのーさんきゅー
「お二人が望むなら、別にいいですよ。特別に戦うシーンを配信します。
ボクの配信を見ながらここまで来たお二人なら分かると思いますが当然ライブ配信です。
涼ちゃんねるを見に来てくれているチキンのみなさんがしっかりと見届けてくれますので。遠慮はしなくて結構です」
:涼ちゃんもガン詰めしてくね
:涼ちんの配信目的の一つに啓蒙があるからね
:そうかこの光景も一つの啓蒙なのか
:配信者が喋りながら潜ってるからヌルいダンジョンなんて考えはやめろってコトだ
:ダンジョン配信が流行った弊害の一つだな オレにも出来ると思っちまうのが後を絶たない
:小説や漫画とかならオレにも出来るで始めて失敗や挫折しても問題ないんだけど探索の場合最悪死ぬからな
「ほれほれ。お前さん方。
もうムカデとの戦闘開始の間合いだぞ。動くなら動けよ。動けないならとっとと助けを求めてくれ。どっちもできないなら、あとはもうモンスターに食われるだけですよっと」
トドメとばかりに守も煽る。
煽る――というよりも、守の場合は完全に事実を述べてるだけともいうが。
「か、刈屋! やるぞ!」
「お……おう! やるぞ……やってやるぞ!!」
腹が決まったのか二人とも獲物を構えてムカデに向かう。
その背中を見ながら――
「武器を抜くのがおせぇな」
「戦うにしろ戦わないにしろここまで来て構えないのはありえませんね」
「こういう連中をとっちめて多少マシにして回ってたら保護者なんて呼ばれだしちまったんだよ」
ボヤく釜瀬に、守と涼は視線を向けて苦笑する。
「そりゃあ言われるでしょうね」
「ああいうのを多少マシに出来るってなぁ結構な能力だと思うぜ」
「二人にそう言われると照れていいやら恥ずかしいやら」
:三人とも戦闘に興味持ってない
:持ってないワケじゃないと思うぞ
:いつでも動けるようにはしてる感じで雑談してるな
:なにそれすごい
「あ、そうだ。涼。ちょっと頼みたいコトがあるんだけどさ」
「なんでしょう?」
「配信に乗らないように、小声でな……ごにょごにょ」
「…………まぁそのくらいなら。でもいいんですか?」
「構いはしねぇよ。遠慮せずやってくれ。オレも顔出しOKだしな」
「わかりました」
:なんだろう?
:お仕置き方法の提案かな?
:お 釜瀬さんの顔みれるー?
釜瀬からのナイショ話が終わると、涼はドローンに声をかける。
「モカP。釜瀬さん顔だしOKだって。
それとこれからムカデ戦に介入してくるから、ちゃんと撮って。あの二人の顔が映ってもいいから」
:《モカP》何するか知らんが りょーかい
:久々のモカPコメだ!
そうしてドローンが動き、鎧ムカデと戦う二人の様子がカメラに映る。
「クソ!」
「堅すぎる!!」
鎧ムカデそのものはそこまで複雑な動きはしない。
その為、駆け出しでも横から攻撃したりする余裕が生まれたりするのだ。
だからこそ、二人は鎧ムカデの攻撃を
もっとも、それで倒せるだけのパワーがあるならともかく、無いのであれば無意味だ。
シャークダイルほどではないものの、このムカデがそれなりに危険度の高いモンスターとして扱われているのはその堅牢さにあるのだから。
「うわ!」
「クソ!!」
さらに言えば、動きは単調でもパワーとスピードはある。
全力で躱して全力で攻撃を加えて――だけど通じない。
逃げれないから倒さないといけないのに、自分たちの攻撃が通らないという状況。
これが延々と続いた時、どうなってしまうのかというのは想像も容易い。
想像も容易いからこそ戦っている二人も想像してしまう。
敗北の二文字。そこから連なる死の気配。
ましてや二人からすれば、自分たちを助けられるだけの実力を持つ三人が、全く興味なさそうに雑談をしているようにしか見えないのだ。
やらなきゃやられる――二人の前に芽生えるその衝動。けれども、その衝動だけでは、この鎧ムカデには適わない。
そんな四苦八苦する二人を見ながら、呆れたように守は肩を竦めた。
「ダメなやつだな、これは。
このダンジョンのムカデなんざ、ギルドのパソコンとかでもちょちょいと調べられるだろうに。そこに攻略法や弱点も書かれてるんだがね。これから向かうダンジョンに関する事前情報を集めるコトなんざ、攻略においては必須だってのによ」
「ムカデ系モンスターは腹側――地面に接してる部分は他より柔らかく、また鎧殻と鎧殻の隙間が弱点というのは常識だ。だがそういうのを調べずイキるから、簡単に死んでいく。若い頃のオレも含めてあれはなんなんだろうな」
大人二人がやれやれと首を振っている間に、涼はのんびりとムカデに向かって歩き出す。
:お、涼ちん出撃
:これは勝ったな
:負ける要素ないけどな
「モタモタしすぎです。邪魔」
普段の涼以上に冷たく、淡々と、そして突き放すような声色で二人とムカデの間に割って入る。
鎧ムカデも涼を見て、二人とは比べものにならない実力者であると本能が察したのだろう。
もはや二人への意識はなく、涼を倒そうと上半身を起こす。
次の瞬間――涼は素早くムカデの懐に入ってダガーを突き立て、そこから一閃。
それで決着だ。
:いつもの
:もはや見慣れたムカデ退治
:誰もが出来るかと言えば無理な戦法
:体起こした時に腹側を叩くのはムカデ戦の基本戦術だけどな
:涼ちんはパワーないからテクで補ってるけどパワーあるなら腹叩けばいいしな
「この程度のコトも出来ないのにどうしてこのダンジョンに入ってきたんですか?」
ダガーについた血を払い、鞘に戻しながら冷たく告げる。
:ちょっと棒入ってる
:態度と雰囲気が冷たいから誤魔化せるくらいの棒
:棒付きアイス的な
:あたりがでたらもういっぽん!
:あたりがでたらもういっかい!
:涼ちゃんに冷たい言葉で罵って貰えるわけだな!
:何その当たり棒ほしい
「放置していて死なれても寝覚めが悪いですし、二人を連れて戻りましょうか。釜瀬さん、鳴鐘さん。協力お願いします」
:まだ棒付きアイス
:釜瀬さんのナイショ話これか
:乱入して冷たく突き放せ的な
:これに懲りてくれればいいんだけどなー
「あ。そうだ。鳴鐘さんと釜瀬さんがイヤなら、ここで配信は終了しますけど」
「気にしなくていいぜ。むしろ配信に顔出してパーティの宣伝して来いって言われてるしな」
「オレも構わないよ。せっかくの経験だし。配信ってやつを体験してみたい」
「それじゃあ、突発ゲストの二人を迎えて、帰り道の配信もしていきましょうか」
:ゲストは二人
:ムカデ組眼中にないな涼ちん
:これはまた面白そうな
:組み合わせがやべぇんだよなーw
:どんな帰り道になることやら
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【Idle Talk】
白凪
「これが、あの羽流先輩……? いえ、確かに顔は羽流先輩本人。
あの事件を反省して、保護者という二つ名がつくようなスタイルに偏向されたんでしょうか……?
乱れ四季の杜――この近辺に来ているというコトですし……会うべきか、会わざるべきか……。
今は四国を中心に動いているというのであれば、いずれはまた四国に戻るわけでしょうし……私は、どうしたら……」
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