涼 と 湊 と フライドリッチ
「涼ちゃんのばがぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!」
エンドリーパー騒動から数日後――
いつものキッチンスタジオに、いつものメンツの集まりだ。
そしてスタジオへと入ってきた涼に対して、先に来ていた湊は両目を涙で潤ませながら飛びついた。
「え? あの、湊……?」
「エンドリーパーどが心配しだんだがらぁぁぁ……!!」
「それは、うん……心配かけてごめん」
今までの自分の周りにはなかった反応に、涼は湊を受け止めつつ、戸惑いながらもそう口にする。
心配を口にしつつ、よかったよかったと言う人たちは多かったが、湊のように涙を流して心配されるのは初めてだ。
両親なんかの身内たちは心配はしてくれたものの、「まぁ涼なら大丈夫だと思ってた」とあっけらかんと言ってきたのだ。
そのせいで、泣いている湊を抱きとめつつも、どうしてよいのかわからない。
そんな涼と湊の様子を伺いつつ、白凪も涼へと告げる。
「湊さんではないですが、知人がエンドリーパーと遭遇したともなれば、さすがに慌てます。何事も……ええっと、何事もなくて? 良かった? とは思うのですけれど」
何事もなくと言い掛けて、白凪は少し言い淀む。
あれを何事もなくと言って良いのか悩んだようである。
「ぞうだよ……なんで涼ぢゃん、エンドリーパーとツーショット撮っでるの?」
「あのチャンスを逃すともう撮れない気がしてつい」
配信かアーカイヴを見ていたのだろう湊の質問に、涼がのんびりと答えると、香と白凪は呆れたような顔をした。
「ついでアレかお前」
「ついでアレを……?」
「あ、湊と白凪さんもツーショット見ます?」
マイペースに涼がそう訊ねると、湊と白凪は顔を見合わせる。
泣いてしまったとはいえ、さすがに興味があるのだろう。湊は袖で涙をゴシゴシと拭うと、涼から離れて「見る」と素直にうなずいた。
「じゃあ、これ」
涼はスマホを取り出すと、
「おっかないモンスターのはずなんだけど……」
「人間と一緒にピースしている姿を見るとシュールですね……」
「ダンジョンならではのレアな光景だと思うんだよね」
「ダンジョンならではっていうか涼ちゃんならではでしょ」
即座にツッコミを入れる湊に、白凪と香は同意するように深くうなずいた。
「まぁ何であれ、涼も町も無事で良かったわな。本当にさ」
苦笑するように香が告げると、白凪が困ったような視線を彼に向ける。
「あなたも手を怪我したのでは?」
「ああ。こんなのカスリ傷ですよ」
「強がりでなく?」
「マジマジな話。香からするとあの程度はかすり傷です。
香と香のパパさんがガチで組み手とかすると、ふつうに骨折沙汰もよくある話ですから」
「それはそれでどうなのかなーって思っちゃダメ?」
涼の補足に対して、湊が至極全うなことを口にした気がするが、香も涼も首を傾げた。
二人からすれば、当たり前すぎる香のケガは、全うな感性からはズレているのかもしれない。
「まぁ二人とも問題がないのであれば良いのですけど」
やれやれ――と、嘆息混じりに白凪がそう口にする。
「エンドリーパーが喋るとこの切り抜きが拡散されすぎて、英語や中国語、韓国語はもちろん、フランス、ドイツにスペイン語辺りの問い合わせも増えてきてて困ってはいますけどね」
「それはまぁ世界的に見ても貴重な映像ですから」
最初こそ真面目に自力&翻訳ソフトなどを駆使して丁寧な返信をしていた香だったのだが、日本語も含めて問い合わせがあまりのも多い為、途中から無視するようになった。
一応、
それでも、それを確認せずに――あるいは確認したところで無視して問い合わせが来るのだから、香としても無視せざるえなくなっていた。
「でも香くん。そうなっちゃうと、今後は通常配信にも外国語のコメ増えるよ?」
「そうなんだよなぁ……」
湊の言葉に、香は頭を掻きながら苦笑する。
その辺りは想定済みではあるのだ。
「まぁ基本的には無視かな。
だいたい配信内容からズレてるコメなんてのは、日本語だろうと無視するだけだし。ズレてないなら対応できる範囲でって感じさ」
「それもそうか」
言われてみれば――と、湊はうなずいた。
「ところで湊。わざわざこのキッチンスタジオに俺と涼を呼んだんだ。何か作ってくれるんだろ?」
そろそろ涼が退屈しはじめた空気を出してきたので、香は話題を変えるように湊に訊ねる。
それに、湊は楽しそうに「もちろん」と首肯した。
「今日はこれを持ってきたの!」
湊が取り出したのは、なにやら赤身のような肉だ。
「……鶏じゃ……ないッ!?」
牛肉か馬肉を思わせる色味の肉に、涼は思わず戦慄する。
湊に呼ばれた以上、鶏を食べられるのだという謎の確信があったのに、裏切られてしまったのだ。
だが、そんな様子の涼に、湊は笑みを浮かべながら首を振った。
「涼ちゃん。これは鳥系のモンスターのお肉だよ!」
「…………ッ!!」
しかし決して裏切られたワケではないと知ると、涼は驚きに目を見開きながら輝かせる。背景に雷を背負うような衝撃っぷりだ。
その様子を見ながら、香は苦笑するようにうめいた。
「あの二人、鳥と料理が絡むとオーバーリアクションになるよな」
「二人とも楽しそうだから、良いんじゃないでしょうか」
涼と湊のテンションがあがってきた時は、よほどの暴走に移行しない限りは放置することに決めた香と白凪である。
「このお肉の正体は、ギガンテリッチ!」
「ギガンテリッチ!」
おお! と反応をしてから、涼は首を傾げた。
「……どんなモンスター?」
遭遇した記憶も、名前などを調べた記憶もないモンスターの名前だ。
涼が素直に訊ねると、湊も素直に答える。
「でっかいダチョウ」
「そもそもダチョウってデッカくない?」
「イメージしているダチョウより横にも縦にも1.5倍くらい大きくした感じ?」
「それはかなり大きい……強くないの?」
「動きは早いけど、戦闘力はそこまで――って感じかな。一撃は重いから注意は必要なんだけど……そもそも殴り合う前に追って追われての追いかけっこやらされるのがシンドい。
むしろ、涼ちゃんならラクに狩れるタイプかも。気づかれる前に首を切り落としちゃうのが、一番簡単な倒し方だから」
「ほほう……」
機会があれば乱獲してきて、湊に調理してもらうのは良いかもしれない
。
「そして今日はこのお肉を……揚げます!
言うならば、フライドギガンテリッチ! 縮めてフライドリッチ!」
「フライドリッチ!」
目を輝かせてキッチンにかじり付く涼の前で、湊は揚げるための準備をし始めるのだった。
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【Idle Talk】
ダチョウ肉のコトをオーストリッチと呼んだりもする。
なので、ギガンテリッチでフライドリッチ。
別に死霊型モンスターは揚げたりしません。リッチ違い。
お金持ちを揚げたりもしない。これもリッチ違い。
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