涼 と 湊 と 鴨とネギ


:ネームドみにきた

:見に来た

:ディアちゃんも一緒にいるって本当?

:ここがネームド配信の現場か

:なんか急に同接が増えてきたぞ

:ディアちゃんも一緒にいると聞いて

:マジででかいネギ魔道だな

:なんで町に大量のネギが生えてんの?

:↑大ネギ魔道ドレイクの魔法

:大量の長ネギが生えるとかギャグかよ

:カメラに移ってる三人は必死だよ

:これこの間の配信してた町?

:鳥がジャンプした!

:飛ぶワケじゃないんだ

:あの巨体が落ちてくるだけでこわい

:涼ちゃんねらいか!

:涼ちんかわした!

:町エリアってモンスター出てこないんじゃ……

:あのメガネの美人だれだ?

:でかいな

:三人とも目を押さえて涙流してる?

:めっちゃむせてる?

:カモが暴れてネギが破壊されてる

:でかいのはネギ魔道なのかメガネさんのアレか

:え? あの邪魔なネギを壊すと目にくるの?

:両方に決まってんだろ

:厄介すぎる

:鴨は平然としてるな

:視界悪いしネギを鴨が壊してもこっちの目が痛いし最悪や

:なんかどんどん同接増えてきてるな?

:確かに両方でかい

:ディアちゃんクラスタが気づいたっぽい

:探索者向けの掲示板でも話題になりはじめたからな

:ネームド戦となれば探索者としてふつうに気になる

:探索者スレからきました

:ネームドの能力を確認しに

:彼女らが死んだら討伐依頼でるだろうから勉強に

:ディアちゃん涼ちゃんからミナト?って呼ばれてない?

:もしかしてディアちゃんの本名?

:緊急の配信みたいだから気持ちが切り替わってないのでは?

:あるいはモカPの独断?

:ディアちゃん動いた!

:空中から斬撃飛ばすの厨二心にクる

:空中斬撃飛ばしからのジャンプ斬りの連携だ!

:いやいやいやいや

:翼と剣のぶつかりあう音じゃない

:グランスラッシュが通ってないのヤバイな

:あの翼どうなってんだ?

:涼ちんナイスバックスタブ!!

:背中ブスっといった!

:あれ?ダガー突き刺さってるのに平気なん?

:うわ二人とも吹き飛ばされた!

:二人とも大丈夫か?

:スパフレきた!

:メガネさんスパイラルフレア!

:スパフレ使えるとかやり手

:捕らえた!

:ヒット確定

:行った!

:やったか?

:どうだ?

:効いたか?

:フラグみたいなコメ多いな

:煙が晴れるぞ

:すげー羽根に穴が開いてる

:まずいな

:翼に穴があいただけか?

:翼貫通してお腹まわりはだいぶ焦げてる

:死ぬほどじゃなかったのか?

:結構な威力のスパフレでこれとか堅いな

:叫んだ!

:でかいこえええええええええええ

:なんか気持ちわる

:うわk

:lっだええ

:ガチで小便漏れたシャワってくる

:hjkl。・¥

:なんだ?変なコメが増えたな

:なんか急に涙が

:きもちう

:指ふるえええう

:なんかあいつ見てたら息がしづらく

:マズい!みんな鴨を見るな!

:あsぢだあp

:カメラマン!ドレイクを映すな!

:っっっっっっっっっっk

:モカPカメラをズラせ!

:叫び声と眼光の威圧がリスナーにも刺さってるんだ!!

:みんなモニタから目をそらせ!

:うええええ

:カメラ越しに影響あるとか

:ぐえええええ

:画面から鴨が消えたらラクになった

:元々恐怖に耐性ないと刺さるのかもな

:なにいまの

:カメラマンがすぐに動いてよかった

:でもカメラマンは平気か?

:そいうやそうだ

:モカPは平気?

:おーいモカP

:返事する余裕あるのかモカP

:モカPとやら無事か?

:ドローンが動いたから平気だとは思うがモカP?

:《モカP》ご心配ありがとうございます。一応平気です

:《モカP》ドローン操作する手が多少ふるえてますけどね

:それで済んでよかった

:モカPマナ許容量ゼロだって話だから大丈夫かなって

:たぶんマナより精神への影響だから何とかなったのかも

:メガネさんがやばいな

:正気は保ってるけど飲み込まれかけてるな

:カメラ越しでこれだから直接浴びた彼女やばいのかも

:涼ちんとディアちゃんは?

:え?涼ちゃん撤退する気ないの?

:二人とも威圧に平然としてるな

:ディアちゃんもだな

:っていうか二人何言ってるんだ?

:え?

:は?

:いい匂いがするってww

:この状況でコイツら正気か

:そういやこういう二人だわww

:鴨の焼けた良い匂いwww

:焦がしネギの香りwwww

:鴨も鶏だもんなw

:いやマジで勝つつもりか?

:シロナさんむせてるwww

:ネギのせいか二人のせいか

:ダンジョン食材好きと鶏肉好きがたぎってるwwww

:なんだろう一気に身体がラクになってきた

:確かに二人のやりとりみてたら息できる

:舐めプだろは当然のツッコミ

:正気を疑うわww

:恐怖感とかに作用するスキルだったからかな?

:おいしいモノへの敬意w

:二人が軽いやりとりみて恐怖が和らいだってやつか

:そもそも二人はどうやって威圧に耐えたんだ?

:舐めプどころか敬意を表して倒すとかww

:涼ちんとディアちゃんの目がマジだw

:ボロボロの鶏……ある意味で涼ちゃんのカモか

:涼ちゃんは相手が弱っているほど強くなるスキル持ちだもんな

:まさかコレ行けるのか?

:行く行かないじゃなくて強引に行くんだと思うぞ

:↑そのスキルあっても勝てる相手なのか?

:メガネさんがシロナさんだったのか

:メガネさんが諦めた顔してる

:二人の説得をなw


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 配信枠のコメント欄が大盛り上がりしている中、そんなことは知らない三人はお互いの状況を確認しあいながら、体勢を立て直していく。


「結構強烈な威圧でしたけど、白凪さん大丈夫でした?」

「ダメでしたけど、二人のやりとり見てたら落ち着きました」

「なら良かった」


 そう涼が笑うと、新しいダガーを取り出して鞘から抜いた。


「武技と魔技を同時に使う……ゲームの魔法剣みたいな感じ?

 んー……一時的な炎属性付与とかそういう方向のイメージでイケるかな?」


 一方で湊は剣を構えながら、ぶつぶつと何か言っている。


「あ、なんかイケそう……魔技を使う感覚で、武技を使えばいいのかな?」


 左手の人差し指と中指を揃えて伸ばし、剣の上を滑らせていく。

 直後、剣身がわずかに赤みを帯び、火が灯り、やがて刃が燃え上がった。


「出来た」


 それを見ていた白凪も、腰のホルスターで丸まっていたムチを手にとってマネをする。


「なるほど。こういう感じですか」


 白凪のムチにも火が灯った――いやムチが火を纏った。


 その様子を配信で見ていた探索者たちがざわめくが、三人は気づくことはない。


「ボクはマネ出来そうにないので、ふつうに戦います」


 何となく仲間はずれなことに口を尖らせつつ、逆手にダガーを握る。

 

 一方のドレイクは怒りの中に困惑を滲ませて涼たちを見ていた。

 おそらく先ほどの威圧でこちらの動きを縛る算段だったのだろう。


 だが、蓋を開けてみれば二人はむしろやる気に満ちたのだ。

 その影響を受けてもう一人も威圧から脱してしまっているのを見て、ドレイクは完全に困惑しているようだった。


 よく見れば腹部がだいぶ焦げている。そこから鴨の脂が焼けた時特有の甘やかな香りが漂ってきているようだ。

 スパイラルフレアに焼かれたあそこの激痛が、ドレイクの動きを鈍らせている面もあるのだろう。


「白凪さんはスパフレより強いの使える?」

「いえ、あれが私の最高威力のカードです」

「涼ちゃんは?」

「バックスタブ系のスキル重ね掛けして最高威力の技を出せば……あれよりも威力がでるかも知れない」

「なら、ここからの基本パターンは私と白凪さんで気を引いて、涼ちゃんが隙をつく。これだね」

「わかりました。微力ながら尽力しましょう」


 湊が二人から情報を引き出し、あっという間にまとめて作戦は決まった。

 そして戸惑ったまま動かないドレイクなどお構いなしに、湊と白凪が動き出す。


 その影で、涼もまた気配遮断や認識阻害を多重発動して、動き出していた。


 まずは湊が、新しく閃いた技を放つ。


「武技:闇払・走牙刃アンフツ・ソウガジンッ!」 


 湊の斬撃から放たれた炎を纏う剣圧が、地面を駆ける。

 同時に、即座に白凪はそれを追うように加速する。少し遅れて、湊自身もそれを追いかけた。


 困惑していたドレイクだったが動きがあれば流石に反応もする。

 穴の開いた翼では盾にならないと判断したのか、周囲を見回す。


 恐らくは投げ捨てた葱坊主フレイルを回収したいのだろう。

 だが、その葱坊主フレイルは、すでに気配遮断や認識阻害で自分の存在を希薄にした涼が先に回収している。


 どれだけ見回そうが、フレイルの姿のないことに気づいたドレイクはすぐさま、両翼を構えた。


 盾としての構えではなく、どちらかというと武術を思わせる構え。


 ドレイクは右翼を拳のように丸めると振り上げ――


武技グーワ翼拳噴竜葱グワグヮングァー


 炎を纏う走牙刃が届く前に、翼拳よくけんが地面を叩く。

 次の瞬間、大地から無数の葱が間欠泉のように飛び出してきた。


 それが炎を纏う走牙刃をかき消す。


 しかし、その程度のことは湊も白凪も想定済み。


 二人は左右に散開すると、それぞれに準備をしていた武技を放つ。


「武技:フレイムスライサー!」


 本来はハイスライサーというハイスラッシュの斬り払い版。炎を纏った剣でそれを繰り出しつつ、湊はドレイクの右を払い抜けていく。


「武技:フレアビュート」


 本来はスラッシュビュートというムチで行うハイスラッシュに近い技。炎を纏ったムチでそれを繰り出しつつ、白凪はドレイクの左を払い抜けていく。


 同時に放たれる斬撃が、ドレイクを中心に交差して、Xという字を作り出した。




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【Skill Talk】


闇払・走牙刃アンフツ・ソウガジン

走牙刃ソウガジン

 初級に分類される武技。闇払アンフツはそれの応用版。

 切っ先で地面を擦りながら振り上げた剣から剣圧による衝撃波が放たれ、それが地面を駆ける技で、間合いの外の相手を攻撃できる。

 威力はやや低いが、適当な距離からの牽制などに使えるし、直接触れたくない相手を攻撃できることから重宝される。

闇払アンフツ」は、それに炎属性が付与されたもの。

 地面を駆ける剣圧が炎を纏っている以外に、性能に大きな違いはない。




《フレイムスライサー》

《ハイスライサー》

 中級に分類される武技。フレイムスライサーはその応用版。

 言ってしまえば横薙ぎ、あるいは払い抜けで行うハイスラッシュ。

 フレイムスライサーはそれに炎属性が付与されたモノ。

 僅かだが、通常版より威力が上がっている。



《フレアビュート》

《スラッシュビュート》

 初級に分類される武技。フレアビュートはそれの応用版。

 ムチによる一撃に、斬れ味を付与し、攻撃力をあげてくれる。

 刃物で扱う同系統のスキルと異なり、こちらは振るう為の型は指定されていない。

 発動時は巻き付ける等のムチ特有のアクションがしにくくなるが、シンプルに相手に攻撃する時には気にならない程度のデメリット。

 覚えやすく使い勝手もいい為、ムチ使いは比較的最初にこのスキルを習得する。

 フレアビュートはそれに炎属性が付与されたモノ。

 僅かだが威力が上がっている。



翼拳噴竜葱ハネゲイザー

 あるいは、ヨクケンフンリュウネギ。

 ネギ魔道の専用スキル。

 元々は、拳打系武技の昂拳コウケン噴竜閃フンリュウセン。 拳で地面を叩き、閃光を伴いながら、間欠泉あるいは噴火のように勢いよく衝撃波を噴出させる技。

 大ネギ魔道、ドレイクが自分用にアレンジして、長ネギが噴出するようになった。

 どうアレンジすれば閃光を伴う衝撃波が長ネギに変化するかは謎。

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