涼 と 雑談 と ダンジョン講義
「そんな超人化の恩恵のあるダンジョンですが、みなさんはそもそも探索者が何でダンジョンに潜っているのか――考えたコトってありますか?」
涼のその問いに、視聴者たちは少し困惑した。
ダンジョンを潜る人たちの超人的な動き、戦い。
非日常のような光景の続くダンジョン風景。
まるでフィクションの中から飛だしてきたようなモンスターたち。
それらを見ることは大変楽しい娯楽であったのだが、配信をしていない探索者の目的など考えたコトもなかったのだ。
「まず一つとして、ダンジョン内でモンスターを倒した時に手に入る素材やドロップ品、ダンジョン内の鉱物や植物など。
それらは現代社会において、ダンジョン探索用の武具や道具はもちろん、それ以外にも様々なモノに加工され、一般の方々も知らずに恩恵を受けています。
例えばレアメタル。これは山や海などの自然から採掘されているモノと、ダンジョン内で採掘されているモノが半々といった具合です。
つまり、探索者がダンジョン内のレアメタル採掘をやめた場合、スマホの値段は倍に跳ね上がる可能性があります」
厳密には自然界で手に入る金属と、ダンジョンで手に入る同質の金属は別物なのだが、ここでそれを言ってもややこしくなるだけなので割愛する。
:マジか
:知らなかった
:やっぱり知らん人多いか
:なんでイミフな命知らずに金かけてんの?とか言われるもんな
コメント欄のざわつきを見ながら、涼は話を続けた。
「もちろんレアメタル以外にも色々と採取、採掘されて利用されています。
そういう採取や採掘などはダンジョンが存在するコトでのプラスの面ですが、当然ダンジョンが存在するコトでのマイナス面もあります。
そのマイナス面の抑制もまた探索者の仕事です」
:え?
:マイナス面?
:探索が危険で人が死ぬこと?
:探索が危険なのはマイナスじゃないな
:もっとやばいマイナスもある
「一つは『はぐれモンスター』と呼ばれる現象です。
これは、ダンジョン内のモンスターが長期間倒されないでいた場合、モンスターがダンジョンの外に出てくる現象ですね。
基本的にモンスターはダンジョン領域の外に出るコトはありませんが、あまりにも人が入らず放置されたダンジョンからは、モンスターが少しずつ外に出てきてしまいます。
なので、あまり旨味のないダンジョンであっても、定期的にモンスターを退治して間引いておく必要があります」
:領域外に出てくるの?
:余裕で出てくる
:出てきたらどうするの?
:その場合は自衛隊案件だな
:え? 領域内の超人化なしで戦えと?
:銃火器で倒せるレベルのモンスターもいるからな
現役探索者からの補足がありがたい。
その補足に対して、追加で涼は言葉を続けていく。
「下級のゴブリンとかオークぐらいなら、ボクやモカPでもなんとかなるとは思います。領域外でも」
:涼ちんもモカPも強いんだ
:低ランク相手とはいえ領域外でなんとか出きるヤツは貴重
:二人ともすごいな
:格闘技有段者は低ランクの人型に対応できるとは聞くよな
「ただドラゴンみたいなのが出てきちゃうと、戦車や戦闘機にがんばってもらう必要が出てしまいますね」
:それはそう
:まぁそうだな
:やば
:マジかよ
:なんでこんなやばい話知られてなかったんだ?
:知らなかった……
:ドラゴン……戦車や戦闘機でどうにかできる?
:え? みんな知らないの?
:海外のドラゴン動画みると分かるけどアレやばいよ
「ちなみにダンジョン庁のホームページにこの辺りの内容は全部書いてありますので、暇な人は目を通しておくとダンジョンや探索者への理解が深まるかと」
:
:俺らよく白い目で見られるもんな
:配信者も時々グチってるよな
:恩恵もデメリットも知らなかった
:ダンジョンなんぞ放置しろ税金の無駄だとか
:かわいい系モンスター倒すと保護団体がうるさかったりとか
「ちなみに、ダンジョンの最奥にはコアがあったりコアモンスターがいたりして、それを破壊ないし退治すると、ダンジョンはゆっくりと消滅します。
ダンジョンの危険度の関係からコア破壊の依頼が探索者協会から来るコトもありますね。
逆に危険度が低く資源や素材が美味しいところは、コアの積極的保護がされていたりもします」
:コア破壊依頼とか大変そう
:コアモンスターってようするにボスだよな
:涼ちゃんはコアボスと戦ったコトは?
「コアボスは戦闘経験はないですけど、コア破壊はしたコトあります。ソロでやるもんじゃないなって思いながら、何とか破壊しました。
あとコアのないダンジョンとかもいくつか遭遇しましたね。あれらは消滅のさせ方が分からないので関係者が頭抱えてるそうです」
:ソロでやったの?
:コアないのもあるのか
:そんなやばいのか
:っていうかソロって無茶すんなぁ
:情報が多すぎる
:しかし話を聞くと涼ちんはガチ勢なんだなぁ
:プライベートでも潜ってるの?
「プライベートでも潜ってますよ。
最近は食べられそうなモンスターをついつい探しちゃいます。
リアルの友達に頼まれるんですよね」
:ディアちゃんのファンかなその友達
:大角ディア以外にもいるのかそんなやつw
:ほかにガチの探索仕事とか経験ある?
「最近はないですけど、ギルドからの依頼で新規ダンジョンの先行調査や、コアの有無の調査とかもしたコトあります」
:マジモンのガチ勢じゃん
:なんで配信してんのってレベル
:下手したら年下の先輩かも涼ちゃん
:そういや探索者協会とギルドって違うの?
「あ、同じです。
探索者協会。略して
エンタメ界隈が探索者ギルドとか呼んだりしていて、それが一般に定着した面もあります。
どれでも通じるんで、意識せず協会とか探協とかギルドとか統一感なく口にしちゃいますね」
:そういうことか
:ほへー
:この雑談、切り抜いていい?
:切り抜きとか見たいな今回の
:コンソメ周りもしたいよね
:していい?
「切り抜き?」
涼が首を傾げていると、即座にモカPがコメントを連投してくる。
:《モカP》切り抜きするの構いませんよ
:《モカP》雑談に限らず探索配信も
:《モカP》悪質だと思うモノは対処するけど
:《モカP》元動画へと誘導してくれるなら目くじら立てんので
「なんかよくわからないけど、そういうコトみたいです」
:助かる
:捗る
:ちなみ切り抜きって動画の一部を文字通り切り抜くコトね
:一時間の動画のうちの見所五分だけとかそんな感じ
「解説ありがとうございます。
それってなんか意味あるんですか?」
:話題の共有?
:こういうノリの配信者だよって共有しやすい?
:元動画が長すぎると紹介難しいから
:切り抜き見てファンになるコトもあるよ
:面白いはみんなで共有したいじゃん?
:まぁ禁止している配信者とか条件付きの人もいたりはするよね
:切り抜きそのものを配信者全員が認めているワケじゃないから
:なのでモカPの許可は助かる
:《モカP》あとで切り抜き使用条件をどこかにまとめとく
:《モカP》状況が変わればルールもかわるので
:《モカP》切り抜きする人は常に気にしておいてほしい
:もち
:OK
:りょ
「なるほど。完全に理解したワケではありませんが、何となくわかりました」
少なくとも今自分の配信を見に来ている人たちは、大変マナーのよい人が多いのではないだろうか。
黙ってても出来そうなことをわざわざ許可を取るべく訊ねてくるのだから。
「切り抜きの話はさておき――いままでダンジョンに関してダラダラ喋ってきましたけど、なんか質問あります?」
:ゲームに出てくるようなレアモンスターとかいる?
「レアモンスター?
うーん……稀少個体とかネームドとか、そういう話でいいですか?」
:それそれ
:あー……
:いるにはいるよな
:探索者ニキたちの反応悪いな
「イナゴの群に生まれる凶暴な黒イナゴみたいな感じで発生するのはいますね。稀少個体と呼ばれているんですが……。
だいたい通常個体よりも強くて凶暴なんですんよ。手強いので出会ったらだいたい逃げますけど……あいつらって、食べたら美味しいんですかね?」
:美味しいかどうかって発想は毒されてるんだよなぁw
:美味しそうなら捕らえる?
「鳥系の稀少個体はちょっと食べてみたいです」
:鳥www
:涼ちん鶏肉好きだもんなw
「それはともかくとして、ゲームほど会えてラッキーって感じはしませんね。多少強い程度ならいいですけど、元の個体より三倍くらい強いのとかもいるので」
:ゲームなら不意遭遇から全滅しても草生やすだけなんだが
:ダンジョンは現実だからな遭遇時のリスクがやばい
:探索者ニキたちの反応が悪いのそういうコトか
:確かになぁ……
「ディアさんが遭遇したシャークダイル。あれが稀少個体だったのなら、逃げきれなかったでしょうし、ボクも間に合わなかった可能性があります」
:マジかよ
:うわ
:そうだよな命がけなんだよな
:配信見るの楽しいけどやばいな
:それなー
:ほんと怖いんだ稀少個体
:楽しい配信見てるとついついダンジョンがやばいって忘れるよな
「ついでにネームドの話もしましょうか」
:いるのかよ
:コアモンスターとかじゃなくて?
「稀少個体の中でもさらに稀少な個体……あるいは、何らかの原因で通常個体が特殊な変化をしたり、身体に特徴的な傷や模様があったりすると、探索者が名前を付ける場合があります。
ちなみに、先日潜った武蔵国府史跡ダンジョンにもいますよネームド。まだ退治されたって話は聞かないので、どこかには。
あのエリアにはいないだろうと思って、ふつうに探索してましたけど」
:え?
:あそこにいるのか
:どんなのがいるの?
「他のエリアに『ネギ魔道』っていう二足歩行する鴨のようなモンスターがいるんですが、それの稀少個体ですね。通常は130~150センチくらいのサイズのモンスターですが、ネームドは2メートルを優に超えてるらしいです」
:デカいのか
:ただの稀少個体とは違うの?
「ネギ魔道の稀少個体は基本的に色違いなんですよ。
なのに、そいつは巨大な姿をしているだけで見た目は通常種の為、特異個体と呼ばれています。
なんでも使用してくる
:こっわいなぁ
:種族名と見た目のイメージはかわいいのに
:ネームドってことは固有の名前があるの?
「あります。『
いわゆるブラックリストですね。倒した証明になるモノをギルドに持って行けば報奨金がでます」
:へー
:探索者ニキたちや涼ちんは倒す気ないの?
:割にあわんのよブラックリストハントは
:強さや危険度の割に報奨金ショボい
「ボクもニキさんたちに同意です。
ボクの場合は未成年なので、なおのこと報奨金減りますし」
:保護法ってブラックリストにも適応されるんか
:それはオレも初めて知ったわ
「適応されますよ。探索者がダンジョンに潜るコトによって得られる報酬すべてに適応されますから。
ブラックリスト討伐も、ダンジョンに潜って退治して報酬を得るワケですから、対象です」
:不意遭遇で命辛々倒してもダメか
:未成年探索者きっついな
現役探索者だけでなく、なにも知らなかった視聴者たちすらちょっと引いている。
ただ、涼としてはあの法律を悪法とは思っていないので、複雑なところだ。
「――とまぁそんなこんなで、そろそろ〆ろとモカPがカンペを見せてきました」
:おわりかー
:知らないことばっかで面白かった
:涼ちん探索者ニキたちありがとう
:探索者ってご近所の平和守ってるんだなぁ……
:いつもありがとう涼ちん探索者ニキたち!
「探索者やダンジョンに関するコトで、配信以外の面に少しでも興味を持って貰えたなら、雑談で真面目な話をした甲斐があります」
わりとそれは涼の本心だ。
当たり前に存在しているダンジョンと探索者。だけど詳しく知らない人が多いという現状に、思うことがあるのは間違いない。
:オレもそう思う
:みんなもっと探索者について正しく知ってくれ
:ダンジョンについてもな
:なんかガチ勢の配信っていうのが新鮮だな
:涼ちんまた真面目な雑談配信して
「思ったより好評なのはちょっと嬉しいですね。また次の機会にでも、ダンジョンと探索者についてお話ししましょう」
そうして涼は頭を下げた。
「ここまでお付き合いしてくださってありがとうございました。
えーっと、チャンネル登録とか、各種SNSとかのフォローとか、なんかそういうヤツ、お願いします」
:最後はやっぱりちょっと棒
:棒というかぎこちない
:しかも雑
:なんか涼ちんはこうじゃないとって気がしてくる
「それでは」
:ばいばーい
:たのしかった
:またねー
===この配信は終了しました===
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【Idle Talk】
稀少個体は美味しいのか。
のちにこの放送をアーカイヴで見たディアは真剣に悩みはじめるのであった。
「遭遇したところで倒せないのですから悩むだけ無駄では?」
「白凪さんそういう切ないコト言わないで……ッ!」
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