魔女とモリアーティ

翳 暗鳴(かげ・あんな)

第1章

第1話

 かつて、何も無かったそこに大陸が出来、5人の英雄が結集して5つの地域をつくり、中心地を城下町とし、1人の女神のための神殿を建て、そこに女神を住まわせて初めてこの聖ストレイコ国は建国された。

 やがてそこに魔女たちが現れ、魔女と魔法使いは貴族という枠組みに入り、魔法が使えない者は一般市民として、各地に住み、生活を始め、文明を発展させた。


 女神には白猫が、貴族階級の魔女・魔法使いたちには黒猫が、一般市民にはサビ猫が、1人につき1匹個人の家にパートナーとして宿る。


 それは魔女のクリスティア=アクトレスモードにも同じで、黒猫が1匹居る。

 クリスティアはその黒猫に〖ダイナ〗と名を付けて可愛がっている。

 今朝もダイナに起床の印をその肉球で、クリスティアは額に押されて目を覚ました。



 いつしか、異世界からモリアーティという名の女性が、この聖ストレイコ国内に忍び込み、国中の宝石店から宝石を盗むという事件が多発するようになった。

 その知らせを受けた大魔女たちは魔女協会を開設し、魔女たちは全員強制的に会員になる羽目になり、更には〈モリアーティを狙い、捕まえる仕事〉を与えられ、その仕事のために魔女チームが計5つ結成され、クリスティアはその中の《ハニービーNo.2》というグループに属して、魔女としてダイナと共にモリアーティを捜し周る仕事を始めた。



 クリスティア=アクトレスモードは朝食を済ませ、身支度を整えるとすぐに箒に跨って、ダイナは翼を広げて家を出発兼出勤した。

 国内北部から東部への移動中、クリスティアは同じ魔女チームのメンバーと挨拶をかわした。


 今朝は、魔女養成大学の周辺と内部のパトロールが彼女とダイナの仕事だ。

 何故ならば、朝から昼のモリアーティは236世は、大学教授として授業をしているからだ。


  魔女の仕事は昼間までではない。モリアーティ236世は女性で、宝石が大好きで、夕方から夜は宝石店から宝石を盗むのだ。

 だから魔女たちはグループで連携やローテーションをして、日直制で国内中を2周ほど見回りをしてモリアーティ236世を捜す。


 今夜の日直はクリスティアが属するグループ・ハニービーNo.2なので、今日のクリスティアの1日は長い。


 今朝は同じグループのメンバーのひとり・マチルダ=フォン=ココットとコンビで大学内をパトロールしていく。


 校内は体育館と中庭と、講堂と、教室と職員室が入っている校舎があり、中庭を囲うように配置されている。

 講堂は2階建てで2階から、2階の校舎と渡り廊下で繋がっている。


 モリアーティ236世が教室で授業をしている場合、秒で捕まえられる。

 何せ、モリアーティ236世は魔法が使えないから。

 今日は快晴で、静かなので、モリアーティ236世が居るとすれば声でわかる。

 クリスティアは1階から3階までを、マチルダは講堂から校舎の4階と体育館を見て回る。


 モリアーティ236世の声はしわがれていてわかりやすい。

 クリスティアはといえば、ビードロのような澄んだ響きの優しさと慈愛に満ちた声をしている。

 更にはクリスティアはいつも体から甘い香りがするため、《惑わせの魔女》というコードネームがつけられているほどだ。

 時としてその甘い香りにモリアーティの刺客がひっかかり、クリスティアによって捕らえられることが増えてきているほどだ。

 マチルダが素早くモリアーティの刺客を捕まえ、電車で協会へ連れ出し、協会の監視員に引き渡して報告書を提出して昼の部の仕事は終わった。


 問題は夕方から夜だ。


 あまりに簡単に脱獄されるものだから、夕方から夜にかけて宝石店にモリアーティ236世が忍び込んでないかを確認するために残業する他のチームのメンバーも居るほどだ。

 クリスティアはダイナと一緒に宝石店のショーウィンドーの奥で彼女を待ち構えていた。


 敵はまだ来ない。

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