/// 13.ぎこちない毎日

不安な週末を過ごしつつもレベルは上がる。


そしてまた一週間が始まりを迎えるのだが、ルーナとフランソワは秘密をばらす事もなく、表面上は今まで通りとなったように思える……わけはなかった。終始ぎこちない関係となってしまった。

そしてルーナのサラ(サフィ)さんを見る目はやはりガチなのだろうと思わざる得ない。もう目の中にハートマークが見えそうな目線を送っている。


それでも平穏と思えるほどに授業は無事こなされてゆく。

そして週も半ばの木の日となったお昼休み、早めに弁当を頬張り食事を終わらせた僕たちは、相談室という大事な話をする際に利用可能な、防音の魔道設備のある部屋へと招かれた。


呼び出したのはルーナ。呼び出されたのは僕たち三人。そしてこの場にはフランソワともう一人、金髪くるくるロールな癒し系美少女は、たしかアンシャル伯爵家のエアロちゃんだったかな?

子爵家だから二人より爵位は上か……なんの相談なのだろう。まさか僕の秘密を知って何かしらのお願いを……


「タク(タケル)くん、あのね、私たち考えたんだけど、やっぱり三人とはレベルが違いすぎて合わないと思うの……」

「そ、そんなこと……」

「だからね、もし三人が良ければなんだけど、野外実習の時は手を出さないで見守っていてほしいの!」

「へっ?」

てっきりパーティ解消の流れと思っていた僕は変な声が出た。だってそうじゃない?もう完全に私たち分かれましょ?って感じだったじゃん!


「パーティ解消とかじゃなくて?」

「えっ?なんで?私はサラ(サフィ)さんともっと仲良くやりたい!」

なんだろう。やりたい!という言葉が凄くいやらしく感じる。


「でも私たち二人だけだと無理だと思うから、エアロちゃん、あっ伯爵家のエアロちゃんなんだけど、爵位を盾に偉ぶったりしない良い子なの!あと剣士職だから私たち三人なら良いパーティになると思うんだ!」

「なるほど」

ルーナの説明を聞きながら、エアロちゃんを見ていると、ふいに目が合って頬を赤らめられた。少し、いやかなり可愛いと思ってしまう。横を向くとサラ(サフィ)さんがニヤニヤしていた。いやそう言う気は全くないからね!


「でも、6人の登録になっちゃうし、タク(タケル)くんたちも不本意な成績になっちゃうかもだけど……それは何とかできちゃったりするのかなって……要望ばかりでごめんね」

「いや、いいんだよ。僕もまだみんなと仲良くなりたいし。学園長に言えばきっと何とかしてくれるだろうし……何とかするから任せて!」

僕のこの言葉で両手をつないで喜ぶルーナとフランソワ。


まだ僕を見て顔を赤くしているエアロちゃんに手を差し出して「よろしくね」と挨拶をしておいた。

もっと真っ赤になってゆくエアロちゃんはとても可愛い。


いや大丈夫。ここでの僕は身を偽っているのだからね。変な気はおこさないよ?それに僕はロリコンではないしね。


こうして、明日の実習をこの6人で行うことが決まった。

もちろんその足でマナーブ・コトダネキミ学園長の元を訪れ、カルラ(加奈)はメイドなので僕の武器のようなもの、この6人で5人分だ!という学園長の変な理屈で認められ、帰りのホームルームで発表された。

それの発表の際、カルラ(加奈)が「私はタク(タケル)様の道具。如何様にもお使いください」と目を潤ませてしな垂れていたのでクラス中が騒然となってしまった。カルラ(加奈)には後で反省をしてもらわなくては……


そして翌日、6人パーティとなってしまった僕たちはまた野外実習でダンジョンの前に立つのだった。


◆◇◆◇◆


私の名前はエアロ・アンシャル。


一応は伯爵位となっているが、元々農業で財を成し成り上がった田舎貴族である。

幼い頃は大自然の囲まれ森や畑を裸足て走り回っていた。


そんな私が伯爵家の令嬢として学園に通うことになるとは思っても見なかった。てっきり領土内の小さな学校に通って将来はどこかでお嫁さんとなってなんなら農業を手伝いながら汗を流す人生かと思っていたのだ。


伯爵家だ!お嬢様だ!と言われちやほやされていたが、私は緊張であまりしゃべることができなかった。緊張してちゃんとした言葉使いができなくなってしまうからだ。

私が小さな頃から慣れ親しんだ言葉……


まずそごがら直さねどお友達なんて出来ねよ……


咄嗟に出てくるのはいつもこんな恥ずかしい喋り方だった。私はずっと領土でまったり暮らしたかったのに!

剣士のジョブが発現したからにはぜひ学園に!そんなはがきが届いた両親は、大喜びして学園入りを快諾してしまったのだ。


両親には「あだな都会さ行ったらおら、しゃべるごどすら出来ねよ!」と伝えたのだが「大丈夫!おめはめんごいがらきっとみんな受げ入れでけるはずだ!」と言われなし崩し的に学園入りがきまった。


そしてしゃべらない私を大人しい御令嬢として扱ってくれはしたが、次第にお高くとまってるとみんな離れていった。だがこのルーナとフランソワだけはいつも優しく向かい入れてくれていた。

だが最近、私を仲間外れにしてタク(タケル)くんたち転校生と共にパーティを組んで野外実習を受けていた。おかげで私はソロでダンジョンに下見を繰り返す日々。


そして私は『孤高の剣士』ならまだましで、影ではこっそりと『ボッチ令嬢』なんてもはや悪口にしか聞こえない呼び名で呼ばれているようだ。この時は聞こえの良い聴力を持った私自身を恨んだ。


そんな中、私はルーナたちとタク(タケル)くん達の中に何かきごきなさを感じでしまう。先週の野外実習で何かあったのかもしれない。そう思っていた木の日の今日。明日に野外実習を控えたこの日に久しぶりにルーナたちから声がかかった。


まずは剣士として二人と共にパーティになってくれないかというお誘いだった。

私は黙ってうなずいた。内心は今すぐ飛び上がって地元名物の『とんび踊り』を踊り出したいぐらいだった。絶対にやらねげど。


だが一つ問題があると言われた。

それはタク(タケル)くん達がOKを出すかどうかだという。なんでも私を加ええた6人でパーティを結成するとのこと。その事はまだタク(タケル)くん達には言っていないし、あと6人パーティが認められるか分からないとのこと。

それはそうだ。パーティは5人までと決められている。だから私は仕方なく誘われなかったのだと納得していたのだから……


でもそれは多分タク(タケル)くんがなんとかしてくれるハズ、とも言っていた。タク(タケル)くんっていったい何者?彼は小さな商会をやっている家の子のはず。コガワ商会なんて聞いた事もないし……

もしや彼がコガワというのは偽名?実はもっと有名な、こう、なにか悪い組織かなんかのボスの息子で……6人で大丈夫っていうのも学園のルールを曲げるほどの力を持った組織の……


私は、思わず生唾を飲んでしまう。

もしかしたらルーナたちはすでにダンジョンの秘密の部屋か何かに連れ込まれてナニをナニされたのかもしれない……だからあんなぎこちない関係に……そして今日私が誘われたのはタク(タケル)くんの命令で新たな生贄を……


ほだなの困る!おらまだほだなの早えがら!


私は顔をブンブンと振って頭の中に湧き出てしまう妄想を振り払った。


「エアロっちどうしたん?」

「あ。なん、でもない……です」

相談室へと歩く中、フランソワが首に両手をあてて私の顔を見ている。頭の中の変な妄想を覗かれているようで恥ずかしい。


そして相談室の中。

タク(タケル)たちはすでに部屋の中で待っていた。そして私のパーティ入りが決まった。タク(タケル)達はレベルが違いすぎると言っていたがそこまで違うのか……やっぱり悪の組織の……


タク(タケル)くんからは、終始熱い視線が向けられているのを感じている。私の頭の中ではすでにどこか知らない部屋へ連れ込まれて大変なことになっていた。ダメだよ。ほだなこどすたらおら、戻れねぐなってすまう。


6人パーティの事についても何とか出来るという。そして差し伸べられた手からも『お前を逃がしはしない』という固い意志が感じられた。妄想が進んで顔に血が集まるのを感じる。もう、逃げ道はないようだ。


でぎれば初めでは優すくすてほすい……

おらのささやがな願いが独り帰り道の夜空にぎえでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る