/// 04.強襲

「みなさーん!午後の授業は!なんと、特別ゲストが来ております!授業内容も変更してますので、一時も目を離さないように!では……よろしくお願いいたしますー!」


午後の授業が始まりの時間になり、まず教室に入ってきたのはダンジョンについての授業の担任講師なはずのマッチョなおじさんと……それに続いて学園長であるマナーブ・コトダネキミがハイテンションで顔をのぞかせた。


そしてその学園長が授業の変更を告げる……

時折僕の方をチラチラと窺っていた。


悪い予感しかしない。


そして呼ばれて教室に入ってきたのは……修道服を着た年配のシスター。うん。見覚えあるね……その後ろには……予想通りの聖女様だね。

さらにその後ろにはいつかの若いシスターさんがついてきている。


その聖女様……メテルの顔は満面の笑み……でもおでこは怒りでなのかピクピクしていた。これはかなり怒っているということで間違いないよね?

そして教壇の前に若いシスターがさっと持っていた台を置くと……その上にメテルが乗って、どうやら聖女様のありがたい言葉が聞けるようだ。さすが、魔道学園……聖女様を講師に招けるのか。


いや違うなきっと……何処でバレた……


「皆さま。ご存じない方のために自己紹介を。教会の聖女を名乗らせていただいております。メテルと申します。よろしくお願いいたします」

そのメテルの挨拶に、教室内はざわめいていた。キャーキャー騒ぐもの、メテル様ーと黄色い声援を送るもの、鼻血を出して後ろへ倒れるものなどなど……反応は様々だったが……


「聖女メテル様!この教室でメテル様を知らない不届き者などものなどおりません!今日は来て頂きありがとうございます!」

クラス委員のルーナが目をハートにさせてメテルに声を掛ける。


「ありがとうございます。ですが!中には知らない方もいるかもと思ってます!例えは入ったばかりの奨学生!とかっ」

その言葉と共に僕はキッと睨まれる。


ざわつくクラスメート。


メテルもすぐにその顔は笑顔に戻るのだが、どう考えても僕はメテルに何も言わなかったことに怒っているのだろう……どうしたものか。


そして滞りなく聖魔法の授業は終わった。

当然適性の無いものは使えないのだが、神官のジョブを持つルーナをはじめ、何人かは適性があったため本来教会に務めなければ知らない知識も多く、非常に有意義な時間を過ごせたようだ。

もちろん適性の無いものにとっても知識として聖魔法に知っておくことは、冒険者として活動する上でも大事だという話……そしてチャイムの音と共に終了の時が……


「それでは、今日の授業は終わりとなります……また、来週お会いしましょう」

メテルのその言葉に盛り上がる教室内。どうやら毎週聖女様はこられるようだ。滅多にないことらしいのでそれはクラスメイトも大喜びなのだろう。


「では……そこの奨学生、タケくんといいましたか?」

「あ、はい」

年配のシスターさんがこちらを少し冷たい目で見ながら僕へと声をかける。


「あなたはメテル様にいかがわしい目を向けてましたのですぐに各園長室に来るように!」

「えっ!そんなー」

その言葉でクラスメートの冷たい目線が矢のように刺さるのを感じる。


「お付きの方も一緒に!いいですね!」

「ひゃい!」

「お、おお」

メテルが一喝するとカルラ(加奈)が席から立ち上がり、サラ(サフィ)さんも言葉を詰まらせながら返事を返していた。メテルは怒ると怖いからね……


そして僕は、周りからヒソヒソとされながらも教室を後にした。

年配のシスターさんに抱き上げられたメテルは、どんどんと早足で学園長室へと進んでいく。その三人が学園長の部屋に入ってすぐ、学園長は飛び出てきた。


「ああ、タケル様!どうぞどうぞ。中でメテル様がお待ちです。自由に使われて結構ですので。では!」

そういってどこかに走り去ってゆく。聖女の権威と言うのはそれほどのものなのか。改めてその力の一端を知った僕は、少しだけその部屋に入ることを躊躇したが、カルラ(加奈)が「早く入らないとヤバイから!」と半ば突き飛ばされるように押されて入室した。


その部屋の中には、学園長のデスクの上に仁王立ちしてこちらを睨んでいるメテルと、両隣にはシスターが冷たい顔をして待ち構えていた。


「あっ……メテル?お疲れ様。授業とっても分かりやすくて良かったよ?そして相変わらず今日も可愛いね」

「本当に、そう思ってるの!?」

僕の怒りを鎮めるためのジャブはカウンターのストレートで撃沈された。


「本当だよ!いつもメテルは可愛くて……聖女様と言うより天使様だよね!」

「ふぁ」

よし!くじけずに打ち返して良かった!少しメテルが喜んで変な声が出てる!


「しょ、しょんなことを言っても!……学園に通うことを教えてくれなかった罪は消えない!」

「いやだって……メテルはまだ小さいでしょ?」

「ベリエットは講師やってるのに!」

「うぐっ!」

痛いところを突かれてしまった僕は、反論ができなかった。


「私も授業は毎週来ることにしたから、この際ゆっくりとお勉強だね!あと今晩からそっちに泊るから!」

「えっ?教会の仕事は?」

「昼間は教会に行くけど夜はそっちに泊まるから!いいよね!ダメなの!?」

「あ、もちろん大丈夫!大丈夫だよ?」

そこまで言うとニコリと笑うメテル。やっとメテルの本当の笑顔を見ることができた。


「でも僕ら三人の方はは身元を隠して通ってるんだよ?だからその辺は……」

「大丈夫です。聖女様がお導きになる問題児たち三人組……という形で告知を出しますので、多少の接触は大丈夫でしょう」

年配のシスターからは僕たちにとっては非常に迷惑な配慮が取られることが、どうやら決定事項になっていることが告げられた。やはり最初に報告しておくべきだった。


そして、まだ少しぷりぷりと怒っているメテルは、お付きの二人と共に帰っていった。


その後、宣言した通り孤児院まで来ると僕の膝の上に座り込み、少しづつ機嫌が良くなったころにはすでに就寝時間となった。そのまま寝室でメテルの抱き枕になったのは言うまでもない。

もちろん何一つ変なことはしていないので安心してほしい。僕は忍耐力には定評が……あるんだよ?ほんとだよ?


「じゃあ、また夜にはくるから!」

翌朝、みんなで朝食をとりかなり機嫌が良くなったメテルは、迎えに来た馬車に乗り込みこちらに手を振り帰っていった。


「なんとか……なったね」

「あ、ああ……」

僕とサフィさんは全く疲れが取れない体を引きずり、学園に行く準備を始めたのであった。

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