/// 39.終わりと始まり

目の前には目を血走らせてこちらを睨みつけている者たちがいる……

勇者ライディアン、大魔導士カイザード、闘士ザックス、剣闘士アレン。


もう勇者パーティだ!英雄様だ!と羨望の眼差しを向ける人々はここにはいない。口元からは涎がたれ、もはやその姿は魔物なのでは?と思えてくる。人の世界に紛れ込んで悪さをする。魔物より質が悪いな。そう思ったタケルは、その魔物以下の輩たちの繰り出す攻撃を身に受ける。


勇者の【ライトニング】が、大魔導士の【ブリザード】が、闘士の【爆炎拳】が、剣闘士の【会心の剣】と【2段切り】が、タケルを焼き、凍らせ、爆炎で弾き飛んだその肉片でさえも切り刻まれる。


そしていつものように。当たり前の風景のように受肉していくタケル。


勇者たち4人は悔しそうに咆哮する、獣の様だった。そしてまた同じような攻撃が飛んでくる。しかし今度はサフィさんの繰り出した障壁によりその攻撃は全てふさがれた。闘士ザックスがその障壁をガンガンと殴っていく。

すでにその剣は折れているのにそれを握り締めて殴りつけている剣闘士アレン。手に持つ杖で障壁を殴りながら何かの魔力をひねり出している大魔導士カイザード。折れた聖剣に【ライトニング】を付与してはぶつけ続ける勇者ライディアン。


その姿に哀愁すら感じてしまう。


もう、いい加減にしてほしい・・・


そのタケルの気持ちを察したのか、今度はその四人をサフィさんの障壁が包み込んだ。球体に捕らわれた四人の獣。

佳苗が近くまでやってくると、札を何枚か取り出し球体へと張り付ける。札は塵と消え、それと同時に四人の首に装着されていた魔道具はパキパキと音を手てて崩れていった。そして正常な意識を取り戻していく復讐者たち。

まあ正気には程遠い思考の持ち主たちだ。ここからどうしようかと悩むタケルだった。ただ捕らえるだけではきっとまた何かやらかすだろう。じゃあみんなこのまま処刑する?なんだか後味悪いな・・・タケルはそんなことを考えていた。


「なあ、このままあそこに連れてくか?」

「ん?なにサフィさん。どこに連れてく気?」

「始まりの場所だ!」

「ん?ああ・・・まあいいかもね・・・みんな、ちょっと出かけてくるね!」


サフィさんの言葉にその悪だくみの内容がなんとなく想像ができた。それに賛同したタケルは、サフィさんに咥えられその背中に飛ばされ乗った。

そして火竜となったサフィさんは飛んでいく。四人が閉じ込められている障壁をしっぽに巻き付けて・・・


火竜となったサフィさんは早い。以前よりも早く感じる。それはきっとタケルが多少なりとも成長し、遠慮が無くなったからであろう。もしかしたらこれもサフィさんの全力ではないかもしれない。でも確実に早く、強く、目的地まで飛んでいった。


◆◇◆◇◆


『やっと着いたな!』

「そうだね・・・なんだか懐かしいや」


火竜のサフィさんが住み家にしていたこの火山地帯。タケルとサフィさんが出会った思い出の場所。そしてタケルが最初に死を迎えた場所。

その場に降りると何とも言えない気持ちがあふれてくる。


サフィさんは勇者たちが入った結界の大きさを調整し、火口がぴったりと塞がるサイズにすると、そっとそのまま火口に乗せる。下からはボコボコとマグマが噴き出し、時折プシューっと蒸気が噴き出し、結界へと吹き付けられていた。


「熱い!熱いぞこら!いや、お願いだ!出してくれ!謝るから!なあ、おい!」


勇者が必死に結界を叩いてアピールしている。


「そんなに叩いたら割れちゃわない?」


タケルの言葉に勇者の動きが止まる。


「そんな攻撃で割れるわけないだろ!」と言うサフィさんの言葉に「そうだね」とタケルも笑顔を見せていた。


「お願いです!もう迷惑はかけませんから!お願いです!助けてください!まだ死にたくない!」

「そうだ!いやそうです!私ももう迷惑にならないよう細心の注意をはかりますから!なんてもします!奴隷でもなんでも!」

「私も!私も何でもするわ!いつでも使っていい!なんでもタケル様の欲望は全て叶えますから!お願いよー!」


勇者は体を震わせ何も言わなくなった。

他の三人の言葉を聞いて、何も言えなくなった。きっとここを乗り切ったらまた何かしようと思っていたからかもしれない。だから他の三人の言葉を聞いて心が折れたのかも・・・タケルはそんなことを考えながら口を開いた。


「ライディアンさん、カイザードさん、ザックスさん、アレンさん・・・僕は昔・・・あなた達、勇者パーティに火口に投げ込まれました・・・だから・・・だから、さすがに切れてもいいですかね?」


そしてタケルは、その四人に笑顔をむけた。この世界に来てから一番といっても良いほどの笑顔を・・・


四人は悲鳴を上げながら気絶してしまった。ザックスとアレンは失禁していた。カイザードは・・・一応女性なのでそこは配慮しよう。


「きったねーなー!俺の結界が穢れちまったぜ!タケル~あとで癒してくれよ~」

「分かったよ。ありがとうねサフィさん」

「いいってことよ!じゃあこいつら落として終わりでいいんだな!」


タケルは、少し時間をおいてから応えた。


「だめだよ・・・そんな後味の悪い・・・」

「そうなのか?さくっと殺しちゃった方が面倒がなくていいんじゃねーか?」

「さすがにね、僕も今回はさすがに少し怒っちゃたから・・・でもさ、殺しちゃうより奴隷にでもして世のために働いてもらった方が、きっといいかなって」

「なるほどね。まあ、タケルがそう言うならいいか」


そう言うと再びサフィさんに乗って王都まで戻っていった。

揺れる度に結界内の液体がぽちゃぽちゃするので、なんか可哀そうになっていたがあえて見ないことにしたタケルは、つかの間の空の散歩を楽しんでいた。



◆◇◆◇◆


王都に戻ってからもタケルたちは忙しく動いていた。


勇者たちは、元アウター組織、今の猛流組(たけるぐみ)の代表代行のクリアーティの時に使わせてもらった奴隷商に頼んで、隷属魔具ではなく犯罪者用の強力な奴隷紋を付与して鉱山送りになった。勇者たちのパワーならたくさんの鉱石を採取できるだろう。


破壊された孤児院の本館は、建築ギルドがすぐに改修工事を進めてくれた。強力な結界魔法が付与された堅牢な建物に生まれ変わっていた。できればその結界が使われないことを願う。


それから時は流れ、3年後にはベリエットが、約束通りに5年後にはメテルが嫁入りした。


佳苗は男の子、真理は女の子を出産、すでにそれぞれが第二子を妊娠している。加奈と悠衣子と康代、そしてベリエットも妊娠中。メテルが早く子供が欲しいと子供のような見た目で我儘を言っているが、その内できるだろう。


孤児院の方も順調で、子供達も立派に成長していった。入所したいというお願いがひっきりなしに来ていたので、施設もさらに拡張し、孤児たち以外にも新たに平民階級から順に、孤児院という名のこの施設に受け入れていった。

多少の問題のある子供たちもいたが、すでに成長していた子供たちがしっかりと教育していた。最終的に何かあれば後ろには佳苗たちやラスボスのサフィさんが控えているので、どの子も清く正しく美しくを合言葉に真っすぐに成長していった。


ここに来てやっと平穏な日々が流れていた。タケルの理想の世界。サフィさんと出会い、元クラスメートの女性たちとも愛し合い、この国に住んでいいる人たちとも仲良くなれた。これからは幸せな毎日がきっと続く。そんなことを確信できるようになってきた。


そんなある日の夜、孤児院の寝室からベランダに出てサフィさんと二人で話す。すでに妊娠中の女性陣は「体を冷やすといけないから」と布団に潜り込んでいた。


「サフィさん。僕がもし遠くない未来、寿命で死んでも・・・この国を、見守っててくれるかな?」

「なんだよいきなり!・・・まあ、気が向いたらな・・・また何か暴走した奴がいて悪さしたら・・・全部ぶっ壊してやるよ!」


くははと笑うサフィさんを見て、なんだか心配はいらなそうだな。と思うタケル。

別にこの国の王様になったわけではない。でもこの国で必死に生きている人もたくさん見てきた。いずれはこの孤児院から巣立った子供たちもたくさん出るだろう。

そんな国の幸せを、やっと願うことができたのは、出会った愛すべき女性たち、そしてサフィさんのおかげであろう。そうタケルは思った。


「そうだ!タケルとの子供ができれば、少なくともその血が途絶えるまでは、俺はここに住んで見守ってやるよ!だから・・・がんばろうな!」

「もお。サフィさん。・・・言われなくても、頑張っちゃうよ全力で」

「お、おぅ。お手柔らかにな・・・」


戸惑うサフィさんを真っすぐに見つめる。


「サフィさん・・・」

「ん?」



「僕と出会ってくれて、


 僕と一緒にいてくれて、ありがとう・・・


 大好きだよ・・・」


大好きなみんなと共に、僕は生きていく・・・この異世界で・・・




Fin

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