/// 37.それぞれの役目
「おい!一体どうなってんだ!偵察にいったらまったく変わらず元気いっぱいに生きてます!って顔してたぞ!」
自宅の応接室で激怒しているのは、王都の奴隷商人『ノーマン・コネイル』である。
「そんな事を言われましても・・・元々私の錬金ギルドが冒険者ギルドへの依頼は却下されてますし・・・」
困り顔をしてそう話すのは、錬金ギルド長で錬金術師のダークエルフ『エメルダ』である。
「だがその反面、冒険者ギルドには魔道具の供給をストップさせたのだろ!それでも冒険者ギルドも問題なく運営してるではないか!元々お前らのギルドは必要なかったということなのか!」
「しっかりと魔道具供給は止めましたよ!でもですね。普段なら定期的に毎日供給している消耗品の、詳細鑑定用のレンズとか解体用の鮮度保持グローブとか、どうやら別所から購入しているようなんですよ!」
「そういうものはお前たちのところで全て押さえているのじゃないのか?」
「そうなんですけど・・・なんでも鑑定ギルドなどにも所属していない商会が供給をしているとか・・・」
エメルダの言葉に顔をさらに真っ赤にして地団駄を踏むコネイル。
「無所属販売か!どこがそんなバカなことをやってるんだ!無許可なら多額の税金を払わんとならん!とても商いしていけないはずだろ!冒険者ギルドがそれを補う高額を支払えるわけでもなし!」
「それが・・・むしろ私たちの卸している通常価格より安いとか・・・」
「なんでだ!どこがそんなバカなことをやってるというんだ!」
「猛流(たける)商会だって・・・」
皆の動きが止まる・・・
「オオカワの関連じゃねーかー!」
叫びながら目の前にデスクにこぶしを打ち付けるコネイル。その拳は赤く染まっていく・・・
「いちちち・・・これもあいつのせいだ・・・もういい!じゃあ鍛冶ギルドはどうなってる!武具の供給も止めたんだろ!さすがにヒーヒー言ってる状態のはずだ!」
「最近は無所属で武具を販売している商会があんだよ・・・」
拳を抑えていたコネイルの動きがまたも止まる・・・
「猛流(たける)商会・・・」
「なんでだよ!お前ら素材の鉱石とか押さえてあるんじゃねーのかよ!鍛冶職人も抑えてあるんだろがー!」
ハーハーと息を荒らげながら喚き散らすコネイル。
それを見つめる鍛冶ギルド長で元勇者パーティの闘士、ドワーフ族の『ザックス』の目はもうどうでもいいやーといったほど惚けていた。
「俺らが採掘している素材の鉱石は押さえてある。だがアイツらは直接取りにいくんだよ」
「どこに!」
「ダンジョンの下層だよ・・・アイアンゴーレムは元よりミスリルゴーレムやアダマンゴーレムまで・・・さらに言うと竜関係の素材の供給もあるらしくな・・・素材買取はギルド経由だから、目を付けられた鍛冶ギルドにはそれらが回らなくなってこっちが泣きたくなる・・・」
「職人は!職人は押さえてあるんだろ!」
「ドワーフが3人、締め付けをやる前からすでに懇意にしてたとか・・・タケルの野郎が・・・」
「・・・アイツはいったいなんなんだ・・・」
力なくうなだれるコネイルの問いに、答えを出せるものはいなかった・・・
「一応聞いておく。薬事ギルドは・・・」
「猛流(たける)商会で・・・」
薬事ギルド長で同じく元勇者パーティの薬師、エルフの女性『スライアス』が力なく答える。
「だろうな・・・で、商業ギルドは・・・」
「猛流(たける)商会であらかた提供されるようになりました・・・輸送に関しては提携を受け入れました・・・」
「予想はしてたけどよ!えっちょっと待って?なんで提携してんの?裏切るの?」
「だって仕方ないじゃないですか!協力しないと大半の商人たちがあっちに味方するとか脅されたんですよ!規模が違います!あっちで格安で色々卸してくれるのはどれも逸品です!ダンジョン産の良質素材たっぷりで錬金調合鍛冶などなどなどー!私も色仕掛けで妾に立候補したけど鼻で笑われましたよ!あの佳苗って女に!!!」
ハーハーと肩で息をしてまくしたてた商業ギルド長、同じく元勇者パーティの商人だった人族の女性『ミンティア』の悲痛な叫びは、この部屋にいる面々の総意でもあった。
できることなら向こうに乗っかりたい・・・
しかし、エメルダは別にして残る3名は元勇者パーティ。簡単に仲直りとはいかないようで、何かの拍子にあの時の怒りが再燃しないかビクビクしながら、なんとかゴマをすりながら協力していく道がないかな?と探るしかもう道は残されていなかった。
◆◇◆◇◆
「いやー最近凄いよね!勢いで猛流(たける)商会なんて作ってみたけどさ、みんな協力的で・・・」
「そりゃそうよ!前から思ってたけど王都で販売してる商品すべてがどこかのギルド経由で納品されてるからボッタクリもいいとこ!」
「そうそう、各ギルドが搾取してるから販売価格も高いのよね」
「大半の素材を採ってこれる私たちからしたら、その価格の半値にしたとしてもボッタくってる気分になるしね。まあギルドを通さない分、本当は税金高いはずなんだけど・・・そこはベリエットが交渉してゼロにしてくれたしね」
「まあパパ様に言ったら二つ返事でお墨付きもらえたのじゃ。感謝して今晩あたり抱くがいい!」
「ま、まあ助かったのは助かったけど。まだベリエットとはいたしませんよ」
「のじゃ・・・」
孤児院の寝室でくつろぎながら話をするタケルと女性陣。
レベルがどんどん上がり、スキルが熟成していく子供たちに、モノづくりの楽しさを教えているうちに思い付きで始めた商売。そんな猛流(たける)商会は、今や各ギルドに所属していた商人や職人などから参加したいとひっきりなしに連絡がくる。
窓口の担当はギルド職員が賄ってくれていた。
参加者の納品する商品のランクごとに、一定の手数料を取って仲介するだけの簡単なお仕事。ではあるが、そちらの方の管理も、商人の他にも品質確認のため錬金術師、薬師や鍛冶師などが発現した多数の子供たちが、試行錯誤して色々考えながら運営している。
中には数学者や軍師、策士、アイテムマスター、鑑定人といったレアジョブにあたる子供たちも何人かいたが、そういった子供たちすら別分野の商品管理等を手伝っている。色々な経験を積もうと、挑戦する姿をみるのはとても心が温かくなってくる。
「それにしても冒険者たちが率先して手伝ってくれるのはいいけど、ドワーフで独占していた鍛冶師の人達が、早い段階で協力してくれたのはでかいわね!」
情報通の真理の言葉にうなずくタケル。
「鍛冶職はドワーフ以外では中々務まらない特殊なジョブで、独占企業に近かったからね。あの三人にはホント感謝だよね」
「でもガイエスの大将なんてすごい喜んでたよ!『あの刀一本打ったことのねーザックスなんてガキがギルド長なんて冗談じゃねー!』って言ってたし」
康代が言っているガイエスとは、実は鍛冶ギルドの前ギルド長であった。しかし勇者や国の意向でザックスがギルド長に取って代わられ、不貞腐れて隠居していたという。他の二人も同様で茶飲み友達として余生を過ごすつもりだったとか。
その実力はトップクラスの三人である。偶然入って飲み屋で意気投合したサフィさんが、だったら子供たちにその技教えてくれよ!と口説き落としていた。
その種族性からドワーフの孤児は少なかったが、それでも少なからず人族にも鍛冶師のジョブが発現する子供もいたのだ。さらに言うと付与師というレアジョブに、佳苗含め錬金術師もいる。
今までにない環境に大興奮して、子供たちとなにやら魔剣のようなものも作っていた。危ない事だけはしないでほしいが、それは悠衣子が恍惚の表情を浮かべ愛用しているらしい。
実はあの竜石の指輪(生命)についても、子供たちの作品だというから将来が怖いくらいだ。
でもこれで孤児院としての生活は万全。子供たちの将来に曇りなしという状態だ。タケルはやっとこの幸せを謳歌できると確信していたのだ。
しかしその幸せは翌日の早朝にぶち壊されることとなる。
さすが異世界である。
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