/// 24.手土産
「ほ・・・ほんとに返してくれるんだよね・・・こればれたら・・・俺、殺されるから・・・」
「大丈夫!絶対に・・・明日には返すから信じなさい!タケルくんに恩を売りたいんでしょ?分かってのあんた!」
「わ、わかってるよ!だから、さりげなくていいから俺の事、良く言っておいてくれよ!」
「もちろんよ!」
男は真理に何かを手渡すと、足早に去っていく。
「ふん!嫌な男!タケルくんは自分から復讐なんか考えたりしないわ!」
今去っていった男は井上紘(いのうえひろ)。同じ転移者でタケルとは多少はしゃべる程度の仲ではあった。しかし周りの目もあり、いじめには加担して暴力も振るっていた。その件をネタに脅しをかけていた。
さらに言うと、盗賊というジョブを買われ、アウターの一員として活動し、前川たちの動きを監視していたのも彼であった。
その井上から受け取ったのは、前川から回収した竜石の指輪(力)と、同じくアウターの倉庫から持ち出した、金剛石の魔刀(死)であった。これで・・・奴を殺せる・・・凱旋の時に発表されていたあの女のレベルであれば、今の私なら差もそこまでないはず!決行は今夜・・・これで元に戻れる・・・いや、幸せになれるんだ・・・
盗賊ギルドの本部に戻る真理の足取りは軽い。
◆◇◆◇◆
「ふう。中々うまい事いかないものね。何かしらの弱みを見つけて勇者を影で操る・・・その予定だったんのに・・・妾になるぐらいが妥当なのかしら」
盗賊ギルドの奥の自室で深いため息をつくエルディン。そんな自室のドアにノックが響く。
「私です・・・」
「マリね。入っていいわよ・・・どうしたの?こんな時間に・・・」
ドアをあけ、入室する真理。何度かこのようなことはあった。しかしこんな真夜中にではなかった。この時間に入室を許可されたのは、それなりの信頼されているという事であろう。
「このような時間に申し訳ございません。急ぎの案件がございましため・・・これを・・・」
「なに?・・・あっ・・・さすがマリ、早いのね・・・」
紫の風呂敷に包まれた大きな何かをそっと両手にもって差し出す。その布の下方は赤黒く何かが染み出ている。
「あら、でもマイナスね。せめて血が乾くまで待ってからじゃないと・・・部屋が汚れてしまうわ・・・」
「こ、これは失礼をいたしました。早くそれをお見せしたくて・・・」
「あら、可愛い事言ってくれるじゃない。いいわ。ふふふ。あの無能がどんな死顔を見せてくれるのかしらね・・・」
そういって笑うと、エルディンは袋の結び目を解こうとする。
「あら、ちょっと固いわね。マリも変な結び方しちゃったのね。いいわ大丈夫!」
ブツブツと独り言のように呟きながらも、力強く結び目を引きちぎっていく、そしてその死顔を見て・・・
「ちょ、ちょっと!これうちのギルドのダリ、ぐっ、ごふっ、ア¨ッ・・・うう・・・マリ・・・あなた・・・」
そのまま前へと倒れ込みその美しい顔が床に打ち付けられ醜く潰れている。背中や首筋には致命傷ともなろう傷から血がどくどくと噴き出ていた。
真理は持ってきたお土産を確認しようと必死になっていた間に、背後に回り込んで力いっぱい短刀を3度、突き刺した。肩で息をするほど呼吸が荒い。目的は達成した。しかし、このお土産替わりとなった幹部の男と、今ので二人、人間を殺したという現実に何かが込み上げ吐き出しそうになる。
ギルドを後にして返り血に染まった全身を、滞在している宿で洗い流した。これで・・・幸せになれるんだ。シャワーで全身を洗い流した真理の頭には、もう幸福感しか感じていなかった。
◆◇◆◇◆
孤児院の前にいる一人の少女。
本当であれば今頃あの見慣れた玄関を開け、タケルくんの胸に飛び込んでいるはずだった。しかし今の彼女は、膝をつき目は見開かれ、そしてその胸中は穏やかではなかった。
「どういう、こと?」
すでに見慣れた建物はなく、代わりに大きな施設が建っていた。
「これはなに?みんなはどこ?私をおいて・・・どこにいったの!!!」
そんなぶつけ様のない戸惑いと怒りを嘆いていた真理は、手前の建物から出てきた見慣れた二人を発見したのだ。そして脚力を全開にしてその愛しの男性に飛び込んだ・・・
「うっうわっ!」
「お、前に出てった奴」
「タケルくん!タケルくんだ!やっぱりタケルくんだね!戻ってきたよ。一緒に暮らせるよ!てかここなに?改造したの?こんなこともできるんだね!やっぱりタケルくんはすごいんだね!もう結婚して!もう全部終わったから!もう大丈夫だから!」
なんだか既視感があるこの抱き着かれ方でちょっとだけ佳苗を思い出す。ってかあのクールビューティの真理ちゃんで間違いはないんだよね・・・でもまあ、とてもナイスなふくらみと鼻孔を刺激する良い匂いです。
「ちょ・・・ちょっと!何やってるのかなぁ?二人とも・・・」
「「あっ」」
「おーなんか修羅場きた!」
背後から感じるプレッシャーに少しビビる僕。サフィさんは楽しそうにしないでよ。
「か、佳苗?あのね。私ね。戻ってきたの。心配ごとは解決したし・・・群れに入れてほしいなって。だからその持ってる武器は降ろさない?それ即死するやつでしょ?知ってる・・・私も持ってるし・・・ほら」
「詳しい話、聞かせて・・・」
佳苗は持っていた金剛石の魔刀(死)を魔法の袋にしまうと、本館に入るように促していた。それに続いて金剛石の魔刀(死)を腰に戻した真理ちゃんが中へと入ってくる。途中で振り返るとこちらへ投げキッスをしていた・・・キャラ変わりすぎじゃね?
「サフィさん・・・悪いけど今日もダンジョンはお預けでいいかな?」
「いいぞ!なんかもっと面白いことになりそうだし!行こうぜ!見逃しちゃう!」
僕は乾いた笑いを浮かべながら遅れてではあるが本館へと重い足を進めていた。
◆◇◆◇◆
中に戻ると、今のテーブルにはすでに女性陣が座って、真理ちゃんの話を聞いていた。
なんでも、以前から盗賊ギルドが佳苗に悪さをする計画をしていて、それきっかけでギルドに潜入、僕がきたタイミングでこちらは任せられると判断して一人離脱したと・・・こっちに来てから佳苗と僕を守り切ることができなかった自分に腹が立っていたということらしい。
そして昨夜、遂にはそのトップ、元勇者パーティの盗賊女、エルディンをこの手で殺害したと犯行を自供した。
「しかも少し前にね!タケルくんも殺せって指令が出てたの!思わず持ってた短刀に力が入っちゃうよね!」
知らない内に物騒な話にもなっていたようだ。でもせめて僕には相談してくれば・・・サフィさん辺りと一緒に行けば苦労することもなかっただろうに。またレベルが少しあがってるしあの短刀とか指輪とか・・・どうやって入手したのか。
「でね、これで心置きなく群れに加わって、タケルくんに抱かれる覚悟もできたんだけど・・・どうかな?」
「えっ?なんて?」
「タケルくん。私をタケルくんの女にしてくれますか?」
「えっあ・・・はい・・・」
そして真理ちゃんは僕に飛びついてくると、全身をこすり付け僕の顔に吸い付いていた・・・
「なあ、みんなはいいのか?なんかちょっと我が強そうだし、なんなら俺が少し自重するように躾とくぞ?」
「サ、サフィさん大丈夫ですよ。多分だけど一人で頑張ってたようだからその反動の様な気がします・・・」
「そ、そうだよね・・・なんか明日になったら恥ずかしそうに正座に土下座で反省してそうだわ」
「「「んだね」」」
その夜、僕は他の5人に見守られながら真理ちゃんと一晩中愛し合うというプレーを強要されたが・・・正直最高ではあった。異世界最高!
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