5. [配信回] 南極ダンジョン(雑談回) 今明かされる衝撃の真実!?

『南極ダンジョンのボス部屋が見つかったらしいぞ』


 キングさんからその報告を受けたのは、ダンジョン探索から二か月半が経過した時だった。


 どうしてこれほどまで長い間見つからなかったのかと言うと、どうやら巨獣と戦っているとボス部屋への道のりが封鎖されてしまうらしいから。巨獣を避けて探索すると普通の魔物も出て来て、巨獣と強引に戦わせようと画策してくるらしいんだ。それをどうにか防ぎながら探索するとボス部屋へ向かうヒントが出現するんだってさ。そしてもしも巨獣と戦闘になってしまったら最初からやり直し。


 そりゃあ巨獣とばかり戦ってたら見つからない訳だよ。


 どれだけ探索してもボス部屋が見つからないことを訝しんだ探索者が、もしかしたら殴っちゃダメな巨獣がいるのかもと推測して休憩日を設けたらあっさりと見つかった。


 ということで、明日はボス部屋へ挑戦してその後にまた巨獣狩りを再開するって流れになっている。

 今日はまだ探索が中止ということもあって、ボクはやることが無くて暇をしていた。


 そうしたら京香さんや友達がやってきて雑談配信をやろうって誘われたんだ。

 それがまさかあんなことになるなんて……




 【あの秘密が】今更聞けない救様雑学【明らかに?】


「こんにちは、槍杉救だよ。タイトルが不穏だけれど何を聞かれるんだろう……」


 "こんちゃー"

 "こんち"

 "こんぷぎゃー"

 "こんぷぎゃー"

 "おや、今更挨拶が決まりそうだぞw"

 "そういう定番はやらない流れだと思ってた"

 "こんぷぎゃー"

 "そういうのも聞けるんじゃないのかな"

 "挨拶とか俺らの呼び名とか"

 "どうして決まってないの?(新参)"

 "当時は例の事件のせいでそういうの触れにくい空気感あったから(古参)"

 "ダンジョン配信者のアイドル化がNG的なやつな"

 "救様がそっち系を目指してないのもあって誰も言い出さなかった"

 "そこのところどうなのよ"


 うわ、いきなり質問されちゃった。

 配信者の定番ネタをやらないのか、かあ。


 キャラを作るみたいな感じがして大変そうだからやる気は無いなぁ。


「救ちゃんがやりたくなければやらなくて良いんだよ」

「ありがとう。それなら演じたりするの苦手だからこのままでいくね」


 "それでええと思う"

 "全員やらなきゃダメってわけじゃないしな"

 "むしろ救様は自然な姿だから良いんだって"

 "でも演じたら演じたで絶対ボロが出るから面白そうw"


 うん、ボクもボロが出て弄られるのは分かってるからやらないんだよーだ。


 "演じる演じないは別として挨拶は決めても良いんじゃないかな"

 "あ~確かにそれがあると最初のコメントしやすくなる"

 "こんぷぎゃー"

 "こんぷぎゃー"

 "こんぷぎゃー"

 "決めるも何も勝手に決まりそうw"


 挨拶か……こんにちはじゃダメなのかな。


「救様! こんぷぎゃー!」

「……却下で」

「え~これにしましょうよ~」


 友2さんがノリノリだけれど、その挨拶は恥ずかしいから嫌だ。


 ってそうだ忘れてた。


 いきなり質問に入っちゃったから考え始めちゃったけれど、まだ皆を紹介してないや。


「先に今日のメンバーを紹介するね。京香さんと友達四人が一緒にいるよ」


 友1さんも一度日本に戻ってからまた南極に来たんだ。

 普段は裏方の友3さんも居て、コメントとか他の調整はかのんに任せているらしい。


 おっとそうだ、かのんも紹介しないとね。


「かのん、挨拶して」

「かのんなの」


 すっかりボクそっくりのホログラム映像が定着してしまったかのんが、ボクの後ろから首に手を回して抱き着いてる。実体じゃないから不思議な感覚だ。


 "かわいいどころが勢ぞろい!"

 "これだけでお金取れそう"

 "セオイスギールさんやキングさんは居ないのな"

 "二人とも救様ガチ恋勢だからいるかと思った"

 "今日は自重したってYで言ってたぞ"

 "キングはコメントするだろうけどなw"

 "[キング・シーカー] 当然よ"

 "やっぱりいたwww"

 "じゃあせっかくだからキングさん今日のテーマで一つ質問をどうぞ"

 "勝手にネタ振りしてるw


 ボクは別に良いけれど、今日はボクじゃなくて京香さんが進行する予定だったからどうなんだろう。


「どうぞどうぞ」


 全く問題無いらしい。

 今日は単なる雑談枠で流れとか決めて無いって言ってたし、暇で時間があるから平気なのかな。


 "[キング・シーカー] それじゃお言葉に甘えて"

 "[キング・シーカー] シルバーマスクの仮面は何処で手に入れたんだ?"


 良かった、変な質問じゃなかった。

 キングさんのことだからボクを巻き込んで自爆して来るかと思ったんだよ。


「そういえば救ちゃんに聞こう聞こうと思って忘れてた」

「私も気になる~!」

「ぐへへ、私も気になる。仮面の下はもっと気になる」


 京香さん、友2さん、友4さんも興味津々といった感じで食いついて来た。

 コメントの方でも気になっていた人が沢山いるね。


 この仮面の出所か。

 言っても良いんだけれど……


「先に言っておくね。皆の夢を壊したらごめんなさい」


 強い魔物を素材に作った装備とか、お金をかけた高いものとか、いわくつきのものとか、そういう何らかの意味がこめられた物じゃ無いんだ。


「実はこれって外で拾ったものなの」

「外ってダンジョンの外のこと?」

「うん、そうだよ」


 ちなみに今日は人数が多いけれど、会話の相手は基本的に京香さんがやってくれて、他の人は何かあったら入って来るスタンスだ。


「結構前の話なんだけれど、ダンジョンからダンジョンに移動する時に溢れて来た魔物に襲われている女性の人を見つけたんだ。その人を助けたかったんだけれど、人前に出るのが恥ずかしくてとっさに近くに落ちてた仮面を拾ってつけたの」

「それがその仮面?」

「うん、だからこれってゴミなんだよね……」


 たいしたものじゃなくてごめんね。


 "ゴミだとすると市販品?"

 "でもあの仮面は何処にも売ってないって結論出てたよな"

 "誰か個人が作った物が捨てられてたってこと?"

 "それか元々他の形だったのが変形したとか"

 "元々が仮面じゃない可能性もあるな"

 "例えゴミだとしても、今は最高級品"

 "作った人もびっくりだろうなw"

 "仮面のことは分かったけれど、どうして仮面をつけると演技するの?"


 あっ……その質問は……


「それ凄い気になってた!!!!!!!!!!」

「ぷぎゃっ!?」


 友2さんの食いつきっぷりが半端ない。

 びっくりまーくが十個くらいありそうなほどで、顔をとても近づけて来るから恥ずかしい。


 久しぶりだから油断してたよ。

 友2さんは突然距離を縮めてくるタイプだったね。


「はいはい、救ちゃんが困ってるから離れて離れて」

「ぶーぶー」

「あ、あはは、相変わらず仲が良いんだね」


 そして京香さんと友2さんが妙な仲の良さだってことも忘れてた。

 楽しんでケンカするのは良いけれど、どう反応して良いか分からないから程々にね。


「シルバーマスクになると演技しちゃう理由か……」

「救様、久しぶりにシルバーマスク姿見たいな」

「友1さん?」

「せっかくだからその姿で答えてよ」

「良いの?」

「うん!」


 友1さんがそう言うなら説明しよう。


「皆の者、久しぶりだな」

「シルバーマスク様!」


 仮面をつけると自然にシルバーマスクになれるけれど、最初の頃はキャラがブレブレで困ったっけ。


 あれ、キャラ?


 あはは、キャラになりきってるってことはボクそういう配信者っぽいこと出来るってことだったね。でもそもそもがコミュ障を治すための配信でもあるから、やっぱり素の状態でしか配信しないよ。


「我が出現する理由だったな。それは日本の勇者にして我が盟友、友1の影響なのだ」

「え、そうなの!?」


 この事実を知っているのは友1さんと友3さんだけ。

 友3さんは友1さんからこの話を既に聞いていたから知っているんだ。


 他の人はとても驚いているや。


「我と友1との関係は以前に説明した通りだが、幼き頃に我らは探索者の真似事に夢中になっていてな。その時に友1が縁日で買った仮面をつけて様々な探索者を演じていた。その時の印象が強く残っていたのだよ」


 誘拐事件の影響でゆ~ちゃんとの記憶は封印されていたけれど、探索者ごっこをして遊んでいた時のことは漠然とだけれど覚えていたんだ。


 仮面をつけて別人を演じる。


 ボクにとってはそれがとても馴染み深かったから自然と真似しちゃったんだよね。


 "幼馴染との想い出だったのか"

 "シルバー様誕生の秘話は友1の真似っこだった"

 "てぇてぇ"

 "てぇてぇ"

 "てぇてぇ"

 "もし拾ったのが縁日の仮面だったらそっち系のキャラになりきってたのかな"

 "ア〇パ〇マ〇!"

 "それだ!"

 "主題歌を歌いながら登場しそうw"

 "ぷぎゃぱーんち!"

 "それだとぷぎゃ〇ん〇んだからw"


 もしそんな仮面だったら明らかに子供っぽいから流石に恥ずかしくてやらなかったと思うよ。


「友1さん良いなぁ。救ちゃんと小さい頃の想い出を共有してるの羨ましい」

「こればかりは譲りませんよ」

「ふふ、分かってるって。もしよければ私達の知らない救ちゃんの話をもっと聞かせてよ」

「良いですよ!」

「ぷぎゃっ!? 恥ずかしい話は止めてよ!」


 自分の小さなころの体験談を他の人に語られるのってなんかとてもこそばゆい。

 ボクが忘れてしまった失敗談とかも言われそうで恥ずかしいよ。


「でも私も救様のことを全部知ってるわけじゃ無いんですよね。再会するまでの間に何が起きたとか分からないですし」

「その間、救ちゃんは隠れてダンジョンに籠ってたから仕方ないよ」

「それはそうなんですけど…………よし、せっかくの機会だからアレ聞いちゃおうかな」


 おや、友1さんがボクに何かを聞こうとしている。

 どうしてだろうか、何故か嫌な予感がするぞ。

 聞くのに逡巡と決意が必要な質問って何だろうか。




「救様、どうして驚いた時に『ぷぎゃる』の? しかもこの話題、敢えてスルーしてるよね」




 うわぁ、その質問が来ちゃったか。


「え、それ聞いちゃうの?」

「私も聞きたかったの我慢してたのに!」

「それは私もかのんも把握してない」

「ぐへへ、ぷぎゃわいい救様のぷぎゃの理由気になる」


 "あっ……"

 "マジかそれ聞いて良いのか"

 "救様が全く触れないからタブーなのかと思ってた"

 "m9(^Д^)プギャー"

 "気にしてるのかなって思ったけれど弄られても治す雰囲気無いんだよね"

 "m9(^Д^)プギャー"

 "煽りのはずが世界一可愛い言葉になるなんてなw"

 "ついに答えてくれるのかな"

 "どきどき"


 うう、皆が期待している。

 京香さんも友達も知りたがっている。


「……恥ずかしいから言いたく無いんだけど、そんなに知りた」

「「「「「知りたい!」」」」」

「ぷぎゃっ!?」


 食い気味で答えられちゃった。


 確かに恥ずかしいんだけれど、絶対に言いたくないかと言われるとそこまでではない微妙な理由なんだよね。うう~ん、どうしよっか。


「そうだ、それじゃあ友1さんが小さい頃のボクの恥ずかしい話をしないでくれたら話しても良いよ。皆も聞いちゃダメだからね」

「「「「「え~」」」」」」


 "え~"

 "どっちも知りたい~"

 "両方おせーて!"

 "お願い救様!"

 "世界一可愛い救様お願い!"

 "世界一勇敢な救様お願い!"

 "教えてくれないともっと感謝しちゃうぞ"


「ぷぎゃっ!? その脅しは酷いよ!」


 やっぱり言うのは止めようかな。


「まぁまぁ皆、今回は救ちゃんの条件を呑もうよ」

「京香さん?」


 なんだろう。

 京香さんが不穏なアイコンタクトをしているよ。

 一体皆は何を伝えあったのさ。


「そうだね。救様が嫌がる話は私もしたくないかな」

「無理矢理聞き出すのは趣味じゃないな」

「ぐへへ、無理矢理なのも楽しいけれど我慢する」

「ということで教えて救ちゃん」


 ボクは一体何を見落としているのか。

 このまま話を進めたら痛い目を見るような気がしてならない。


 でもどんな失敗をしているのかが思いつかない。

 聞いてもはぐらかされるだろうし、条件を呑んでいるから言うしかない。


 結局いつも通りの展開になりそうだよ、ぐすん。


「それじゃあ言うけれど笑わないでね」

「もちろんだよ」


 その言葉をボクが信じると思ったら大間違いだよ、まったく。


「皆はライオンくらいの大きさの三毛猫の魔物を知ってる? 上級ダンジョンに出現すると思うんだけど」

「ちょっと待って……見た目は間違いなく三毛猫なのか?」

「うん、そうだよ。魔物っぽくなくて、ボクらが良く見る猫と同じような雰囲気だった」

「ううん……データベースには登録されてないな」


 流石友3さん。

 ささっと調べてくれた。


「やっぱりそうなんだ。ボクも一回しか遭遇したことが無いし、すぐに逃げようとしたからレアな魔物なんだと思う」


 特別な魔物なのかと思って気配を消して追いかけたけれど、敵意が無かったし可愛かったから攻撃せずに鑑賞だけしかしなかった。倒したら貴重な何かを落としたのかな。


「それでその魔物の鳴き声が特徴的で……」

「それが『ぷぎゃあ』だったの?」

「……うん」


 その後は皆が察している通りだと思う。


「変な泣き声だなって思って真似してたら癖になっちゃって、止められなくなっちゃったんだ」


 面白がってことあるごとに口にしていたからか、染みついて自分の意思とは関係なく出ちゃうようになっちゃったんだ。


「「「「「…………」」」」」


 皆が無言になっちゃった。

 やっぱり変なことしてるって呆れてるよね。


「ぷぎゃっ!?」


 どうして全員で抱き着いて来るの!?


「救ちゃん可愛すぎでしょ!」

「猫の真似してたら口癖になっちゃっただなんて可愛さしかない!」

「救様の猫真似想像するだけでもうっ……!」

「愛でたくて体が勝手に動いてしまった」

「ぐへへ、やっぱり救様はぷぎゃわいい」


 や、やめ、撫でないで!


 "ぷっぎゃぷぎゃぷぎゃ~とか口ずさみながら歩いてたってことだろ!?"

 "ぷぎゃ~! ぷぎゃ~! とか魔物に威嚇してたりして"

 "『ぷぎゃ!』違うなぁ……『ぷぎゃあ』これだ!"

 "やばい想像するだけで可愛すぎる"

 "その魔物を救様のペットにしよう"

 "まさかぷぎゃの誕生秘話までもぷぎゃわいいとは……"

 "愛おしくて抱きしめたくなる気持ち分かるわぁ"

 "なにこのかわいいいきもの(真顔)"


「ああもう離れてって!」


 ふう、ふう、どうにか抜け出せた。


「説明したんだから、さっきの約束は守ってよね!」


 それでこの話は終わり。

 恥ずかしいからこれからもスルーするからね。


「もちろん約束は守るよ。友1さんが救ちゃんの子供の頃の恥ずかしい話をしない、だよね」

「う、うん」

「それじゃあお願いします」

「え?」


 一体京香さんは誰に何をお願いしているの。

 見ているのはコメント?


 "【シルバー母】任されました☆"


「ぷぎゃああああああああ!」


 酷い、酷すぎる!


 恥ずかしい話のネタなら友1さんよりも多く知ってるし、なんなら友1さんとボクが遊んでいたところをいつも見ていたからそっちも知っているじゃないか!


 こんなのあんまりだ!


 何回このオチを繰り返せば良いのさ!

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