コミュ障(治りかけ)、勇者たちと会う

1. 封印ダンジョンはどこに

「槍杉さん、こんにちは」

「こんにちはおばあちゃん。久しぶりだね」


 世界を駆け巡ってダンジョン攻略配信をしている最中、おばあちゃんこと温水さんに呼ばれたので時間を作って日本に戻って来た。

 おばあちゃんとは電話で何度も話をしているけれど、こうして会ってお話しするのは久しぶりだ。


 でもお話しする場所はもう少しどうにかならなかったのかな。


「ファミレスとかで良かったんだよ?」

「槍杉さんとファミレスでご飯を食べたら大騒ぎになっちゃうわよ」

「スキルを使うから大丈夫!」

「将来外で普通に生活したいなら、スキルを使わない生活に慣れないとダメよ」

「うう……確かに」


 なんでもかんでもスキルで解決しちゃダメってことだよね。

 それは納得なんだけれど、やっぱりここでご飯を食べるのは納得できない。


 探索者協会のおばあちゃんの部屋でお弁当を食べるとかでも良かったのに。


「でもこんなに高そうなレストランじゃなくても良いと思うんだ」


 見るからに高そうな調度品が並ぶ銀座の超高級店。

 その一番奥の個室に案内されたのだけれど、入店した直後に店員さん達が一列に整列して出迎えてくれたのがちょっと怖かった。


 ボクみたいな小市民にそんなにかしこまらなくて良いんだよ?

 むしろボクにはこの店はふさわしくないなんて追い出すのが普通じゃないのかな。


「槍杉さんにはここでも格式が低すぎて申し訳ないくらいよ」

「ぷぎゃあ! そんなことないよ!」


 というかここよりも格式が高いお店なんて日本に存在するの?

 お金持ちの世界って怖い……


「緊張せずに好きな物を頼んでね」

「そう言われても何が何だか……」


 メニューを見ると長ったらしい名前のイメージできそうで絶妙にイメージしにくい謎の文章が羅列されている。名前をつけるのが苦手なボクが言うのもなんだけれど、もっとシンプルな名前にした方が良いと思うんだ。ダンジョンボアの丸焼きとかさ。


「槍杉さんはダンジョン料理で舌が肥えているから、ここの料理はいまいちかもしれないわね。そうだったらごめんなさい」

「肥えてないよ! ボクは基本的に何でも美味しく食べちゃう人だからむしろこんな高い料理を正しく味わえなくて勿体ないっていうか……」


 だから他のお店に行かないかな~なんて。


「気にする必要は無いわよ。この店に来る客で味が分かる人なんて果たして何人いるか。味が分かるとかそんなことは気にせずに、美味しいなら美味しい、美味しくないなら美味しくないで良いの。それが料理に対する正しい向き合い方よ」

「そうなのかなぁ……」


 高級料理なのに美味しくなく感じたらボクの方が間違ってるって反射的に思っちゃうよ。


「槍杉さんがメニューを選べないなら私の方で頼むけれどいかがかしら」

「それでお願いします……」


 あれ、おばあちゃんがメニューを店員さんに返しちゃった。

 まだおばあちゃんはこの部屋に入ってメニューを読んでいないよ。


 もしかしておばあちゃんは何度もこのお店に来ていてメニューを覚えているのかな。

 それかお勧めのメニューがあるからそれを頼んでくれるとか。


「一番高い方から順にテーブルを埋め尽くすくらい持って来て頂戴」

「かしこまりました」

「ぷぎゃああああああああ! おばあちゃん!」

「冗談よ」


 まったくおばあちゃんったら心臓に悪いよ。

 でも冗談で良かった。


「あ、あれ。店員さんが部屋を出ちゃったよ。注文は?」


 まさか本当に高い方から順番にテーブルを埋め尽くされるんじゃないよね。

 そんなことになったらボク卒倒しちゃうよ!


「安心して。特別頼まない場合はお勧めの料理を持ってくるように事前にお願いしてあるの」

「なあんだ。そうだったんだ」


 びっくりしたなぁ、もう。


「それじゃあ料理が来る前に少しお話ししましょう」

「うん」


 今日のお話のテーマは、イギリスの最難関ダンジョンで隠しボスを倒した後の話について。

 そこでの出来事をボクの意見を交えながら直接聞いてみたかったんだってさ。


 ということであの時の話を少し思い返してみることにするよ。


――――――――


 ソーディアスを倒したボクらは、彼女が消える前に報酬を貰えることになった。

 ボクがかなりボコボコにしちゃったけれど、どうやら隠しボスは報酬を与えないと消えない仕組みになっているらしく、痛々しい見た目になりながらもその場に残っていた。


「『私に勝利した証として、これを授けよう』」


 剣技が得意な隠しボスなだけあって、報酬は剣だった。


『救様、どうぞお受け取り下さい』


 キョーシャさんが受け取ったのにボクに渡そうとして来るから困ったよ。


「ボクはもう凄い剣を二本持っているから要らないよ。他の欲しい人が受け取って」


 剣をメインで使っているのはキョーシャさんと京香さんだからどっちかかな。

 カマセさんも昔は剣を使っていたけれど、今は魔法寄りだから護身用の剣くらいしか持っていない。でも魔力を増大させるようなタイプの剣だったらカマセさんもありだね。


「あ~その剣の効果は?」


 剣が大好きな京香さんなら食いついて貰いたがると思ったのに案外冷静だった。ボクのフラウス・シュレインを借りた時はあんなにハイテンションだったのに。


「『それは特攻剣ブリング。効果はあらゆる属性攻撃に対し強制特攻付与及び特攻威力の増大だ』」

「なにそれやべぇ」


 属性相性が良ければスキルダメージや効果がかなり増大するのにそれが更に増大するんだ。

 しかも相手がどんな属性でも必ず相性が良い扱いになるってことだよね。


 確かに京香さんがヤバイって言うのも分かるくらいの性能だ。


「でも私は魔法剣の属性攻撃はあまり使わないから、これはあんたのものだ」

『良いのだろうか……』

『良いに決まってるでしょ』

「トドメを刺したのはあんただろ。胸を誇って受け取りな」

「そうそう。ボクの最後のはおまけみたいなものだもん」


 それに聖なる光を剣に纏って戦うキョーシャさんにとって、威力増大と相手が聖属性でも特攻になるのはかなり役立つはず。


『皆……ありがとう。皆が譲ってくれたこの剣に相応しい人間になると誓うよ』


 相変らず真面目で格好良い台詞が似合うなぁ。

 ボクがそんなこと言ってもきっと似合ってないって苦笑いされちゃうだけだもん。


「キョーシャさん、ソーディアスが消える前に質問しないと」

『おっとそうだった』


 報酬を受け取ったら隠しボスの役目が終わっちゃうからすぐに消えてしまうだろう。

 その前に戦う前には答えて貰えなかった質問をしないと。 


『今度は質問に答えてくれるのかい?』

「『良いだろう。ただし一つだけだ』」


 たった一つか。

 これも想定内で、もしそうなら何を質問するかを事前に打ち合わせてある。


『封印ダンジョンとラストダンジョンがどこにも見つからないのだが、どこにあるのだろうか』、


 封印ダンジョンが他のダンジョンと同じなら放置していると中から魔物が溢れてくるかもしれない。だからすぐに場所を突き止めたかったのだけれど、未だに世界中のどこにも見つかっていないんだ。ボクの転移の指輪を使ってもリストに表示されないから、そもそもダンジョンが存在しているのかどうかすら分からない。


「『挑める者が足りない間は出現しない』」


 なるほど、そういうことだったんだ。

 封印ダンジョンとラストダンジョンに挑む条件が整って解放されたけれど、強い探索者がもっと増えて攻略の可能性が見えてくるまで出現を待ってくれているんだね。


 ということは今は封印ダンジョンのことを気にせずに強くなることだけを考えれば良いのかな。


「『そうだ。ラストダンジョンについてゲームマスターから一つ言伝がある』」


 え、ゲームマスターから?

 それは予想外だ。


「『封印ダンジョン出現時にラストダンジョンも出現する。その時にラストダンジョンの出現位置をお前達が選べ』」


 ボクたちが選ぶ?

 どうしてラストダンジョンだけそんな設定になっているのだろう。


――――――――


「不思議な話だよね」


 ラストダンジョン選択制の話までしたところで、そろそろ料理が来るかもしれないから話を止めた。


「槍杉さんは何処が良いと思う?」

「ボク?」


 そりゃあボクが選ぶのはもちろん。

 いや待って、まさか。


「ボクが選んだところで決定なんてことは無いよね」

「あら気付いちゃった?」

「じょ、冗談だよね……」

「半分ね」

「半分は本気なの!?」


 油断して気軽に答えたらとんでもないことになっていたかもしれない。

 危なすぎる……


「封印ダンジョンとラストダンジョン解放の功労者の意見なのだから優遇されるのは当然よ」

「うっ……それもまだ納得出来てないけれど、じゃあボクの意見は気にせず決めてくださいって言っておきます」

「あらまぁ、考えたわね」


 ボクの意見が重要なら、こうすればボクの意見を無視して話を進めてくれるはず。

 こういう大事なことは偉い人達の間で決めてよ。


「でもそれはそれとして、槍杉さんの意見を教えて頂戴」

「そりゃあボクは日本が良いけれど……」

「けれど?」

「良く分からないや」


 どうするのが良いのかなって結構考えたんだけれど情報が少なくて判断出来ないんだよ。


「難しいダンジョンが近くにあると溢れた時に危険だけれど、ラストダンジョンが溢れるような状況になったら世界の終わりだろうから何処にあっても同じだと思う」

「その時は強い探索者が敗れたってことだから当然そうなるわね」

「それでも危険なダンジョンが近くにあるのは嫌だって感じるのが普通だから人が居ないところの方が良いのかなぁとも思う」

「そうよね。人の心は理屈じゃないものね」


 だから理想はどこの国からも離れている無人島なのかもしれない。


「でもそれならどうして槍杉さんは最初に日本が良いって言ったのかしら」

「ダンジョンが好きだから、なんて言ったら怒られるかな」

「怒らないわ。だってずっとダンジョンで暮らしていたのだもの。私達よりもダンジョンを身近に感じるのはおかしくないことよ」


 単にダンジョン探索が大好きってだけなんだけどね。


「それと、もう一つ理由があるの」

「もう一つ?」


 ただダンジョンが好きだというだけなら、わざわざ言わずにボクの胸のうちに秘めておけば良いと思っていた。でももしかしたらダンジョンを敬遠する必要は無いのかもってなんとなく感じるんだよ。


「ラストダンジョンの設置場所をわざわざ指定させるってことは、もしかしたらメリットがあるのかもしれないなぁって。そのメリットが思いつかないんだけどね」

「メリット……ラストダンジョン攻略のために人が集まり経済が活性化する、攻略完了時に歴史に残り観光客が来てくれるかもしれないとかかしら」

「う~ん……そういうレベルじゃないもっととんでもないメリットがある予感がするの。だってあのゲームマスターがわざわざ隠しボスを通じてボク達に伝えて来たんだよ」

「私達が簡単に想像出来るようなメリットではないかもしれない、ということね」

「うん」


 もちろんボクの勘違いの可能性が高いとは思うけれど、どうしてもこれまでと違うゲーム提供側の動きが気になるんだよ。


「槍杉さんの考えは分かったわ」

「ボクが言ったから決めるとかは本当に止めてね」

「大丈夫よ。参考にはさせてもらうけれど」


 その『参考』が本当に怖いんだって。

 もう一度念押ししようかな。


 そう思ったら部屋の扉がノックされた。


「さぁ、難しい話は一旦止めてご飯を食べましょう」


 ラストダンジョンかぁ、どんなところなんだろうな。

 それよりもまずは封印ダンジョンで、そっちも気になる。誰一人失うことなく攻略出来るように、ボクが知っていることを沢山皆に伝えて強くならないと。


 日本の探索者の状況はギルドのおかげで把握出来て来たけれど、海外の探索者はどんな感じなんだろう。最近は依頼を受けて海外にも行っているけれど、強い探索者はまだキョーシャさんとカマセさんくらいしか分からない。


 もっともっと多くの人と知り合って協力して強くなる必要がある。


 あはは、コミュ障で人と目を合わせることすら出来なかったボクが人と関わらなきゃなんて思う日が来るなんて。

 でもこれで満足しちゃダメ。もっともっと成長しないと。


「槍杉さん、槍杉さん」

「え?」

「料理を食べましょう」

「あ、ごめんなさい。考え事をして……ぷぎゃああああああああああああああああ!」


 どうしてテーブルいっぱいに料理が並んでるのさ!

 しかも高そうな料理ばかりじゃん!


「なんでこんなに沢山!」

「お勧めの高級・・料理を持ってくるように事前にお願いしてあるって言ったでしょ」

「高級なんて言ってなかった! 高級なんて言ってなかった!」

「槍杉さんが来るからってお店の人が気合入れたようね。見たことのない豪華な料理が沢山だわ」

「ぷぎゃああああああああ!」


 ダメ……高級オーラが凄すぎて卒倒……なんてしたら勿体ないから出来ないよ!

 うわああああああああん!

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