2. [配信回] 高千穂ダンジョン あの魔物と再会だよ

「たかちほだんじょんまっぷ~」


 ポケットから地図を取り出して掲げたら、手の部分に良い感じのエフェクトがかけられた。

 流石かのん、とっさのボケだったのにちゃんと対応してくれた。


 "ぷぎゃえもんかな?"

 "助けてぷぎゃえも~ん!"

 "救様がパロネタとか珍しいw"

 "ア〇パ〇マ〇に続いて青タヌキか"

 "子供向けのネタしか知らないんだろうなぁ……"

 "最近のアニメとか漫画も教えてあげたい"

 "友達が勧めたけれどあまり興味無さそうだったらしいぞ"

 "ダンジョン大好きっ子になっちゃったからしゃーない"


 だってダンジョン楽しいんだからしょうがないじゃないか。


「この地図に高千穂ダンジョンのマップが全網羅されてるから、後で公開するね」


 迷路系のダンジョンは外れのルートに何があるか気になって全部調べたから詳細な地図があるんだ。


「上層のワープ迷路についてだけれど、中に入ってから説明するよ」


 ダンジョンの入り口をくぐるといきなり行き止まりの小部屋に出る。

 そしてその小部屋には光の柱が三つ横に並んで存在している。


「あの光に入ると別の場所にワープさせられるんだ。ボクの地図はその行先が全部書いてあるよ」


 "それがあれば安心して進められるのか"

 "ワープ先を確認する必要が無いって相当便利"

 "途中に出てくる魔物にだけ注意すれば良くなるんだろ"

 "魔物弱めらしいし、確かに地図があれば他のダンジョンよりも安全に攻略できそう"


 確かにそうなのだけれど、そう思ってしまったらダメ。


「もしかしたらダンジョンの内容が変わっているかもしれないから地図を鵜呑みにしちゃダメだよ。ここのダンジョンが今まで変わる気配は無かったけれど、何がきっかけで変化が起きるか分からないんだから」

「探索者なら常識だな」


 ダンジョン探索の経験を積んでいると地図があっても警戒するのは当然なのだけれど、最近は急激に強化しているので経験が浅い人が多いんだ。だからこういうことは口を酸っぱくして言わないと。


「そうだ。京香さん、ここも入り口の建物を強化するんだよね」

「ああ。人が来るようになるなら色々と必要だからな」


 これまでは魔物があふれるかどうかを監視するための簡素な建物しかなかったけれど、探索者がやってくるとなれば必要な施設は沢山ある。それにこの配信を見ていけるかもと勘違いをした実力不足な探索者が入ろうとするかもしれないからそっちの意味での監視も強化しなければならない。

 上級ダンジョンまではダンジョン付近の施設が充実していたけれど、これからは最難関ダンジョン付近の施設も強化するって話になっているんだ。


「じゃあその時に、中に入る人にボクが言ったことを必ず注意するルールにしようよ。分かっててもつい油断しちゃうってことあるからさ」

「それは良いな」


 例えば何度もここのダンジョンを探索するようになって毎回地図通りだったとすると、徐々にワープに対する警戒が薄れてしまうかもしれない。事故って言うのは大抵そういう気が緩んだ時に起こるんだ。だから色々と警戒を促す仕組みを用意した方が良いと思う。


 "救様が注意喚起をするなんて"

 "ミスったらエリクサーで治せば強くなるよ!"

 "死んでも生き返れば良いよ!"

 "基本脳筋系だったのに成長したなぁ……"

 "[シルバー友1] 慎重なのは大事!"


 京香さん達からもこの考え方で良いよって保証はされていたけれど、他の皆からも褒められると嬉しいな。


「それじゃあ早速だけど、ぴなこさんワープの確認をお願いします」

「は、ははは、はいぃ!」


 ぴなこさんは周囲を警戒しながらじりじりと前に進み、ワープについてスキルを使って調べ始めた。


「いやああああああああ! これはダメええええええええ!」


 すると左のワープを調べた時に怯えながらボクらの方に逃げて来た。


 "まさかのいきなり即死トラップ!?"

 "ビビリようがヤバイ"

 "でも痴漢にあったみたいな悲鳴だな"

 "あんまり緊張感が無いよなw"

 "ガチ泣きしとる"

 "かのんちゃんソレ漫画のエフェクトだからwww"

 "垂れ線は草"


 まったくかのんったら。

 コミカルなのは楽しいけれど緊張感が無くなっちゃうから程々にね。


「今のぴなこさんの反応が実はとても大事なんだ」

「どういうことだ?」

「あれだけはっきりと『危ない』って判断出来るくらいスキルが鍛えられないと正確に読み取れないんだ。試しに京香さんも調べてみて」

「おう」


 京香さんは基本的にボクと同じでトラップを壊して進むタイプ。

 だからここみたいに壊せない即死トラップがあるダンジョンは致命的に向いていないんだ。


 でも一応少しは罠感知が出来るらしいから試しにやってみてもらっている。


「あれ、私の感覚だと何となく真ん中が危ない気がするんだが」

「そうなるよね。でも正解は真ん中なんだ。スキルレベルが足りないと違う答えが出る仕組みになってるんだよ」

「そりゃあヤベェな」

「かなり高レベルじゃないと正確に判断できないから、そこそこ自信ある人が勘違いして今の京香さんみたいに間違った判断したら大惨事になっちゃう。本当に分かった時はぴなこさんみたいに強烈に危ない感覚があるから、それを感じられない人は絶対に入っちゃダメだよ」


 逆に考えると、ここのトラップを判断できるようになったならば、他の最難関ダンジョンでも大半のトラップを見抜けるようになっているってことでもある。ダンジョン入口に最初のワープポイントがあるから、斥候タイプの人が実力を試すにはうってつけの場所なんだ。


 "あっぶな。俺試してみようかなって思ってたわ"

 "トラップなら自信あるんだけど"

 "失敗したら『いしのなか』だぞ"

 "怖すぎて地図+斥候でもワープしたくない……"

 "確かに勇気はいるよな"


 そんな皆さんに朗報です。


「念には念を入れて、もっと安全を確認してから進む方法があるんだ」


 ちなみにこれは京香さん達に言われたからじゃなくてボクが最初からやっていた方法だよ。いくらボクでも即死トラップをわざと受けるようなことはしたくないもん。


「使える人はやってみてね。分身!」


 "あ……"

 "なるほど確かに"

 "そういや分身を似たような使い方している人を時々見かけるな"

 "身代わり人形みたいなものだもんな"

 "ワープの場合、ワープ先が確認出来るのがすげぇ便利そう"

 "正しいルートでもワープ直後に魔物が待ってるかもしれないしな"

 "先が見えているようなものだもん。斥候と分身持ちはパーティーに必須だこりゃ"


 皆が言っているように分身の方をワープして先を確認しながら進めば更に安全なんだ。


「こりゃあ便利だ。初期レベルでよさそうだし、私も覚えるかな」

「本当!?」

「救が無理してないか離れてても監視出来るしな」

「ぷぎゃっ!?」


 そういう冗談はやめてよ。

 どうせかのんを通じて確認してるくせに。


 ボクが気付いていないと思っているのかな。


「全くもう。とにかく、まずは正しいルートでワープしてみるよ」

「おうよ」

「は、はいぃ……」


 分身で確認してから真ん中の光の柱に入りワープすると、その先はまた似たような小部屋で光の柱が三つ。同じような見た目で自分が今どこにいるのか分かりにくくする狙いもあるんだと思う。


「こういうのは苦手なんだがな」

「あはは、だよね」


 京香さんなら床や壁を壊して進めると思うよ。その場合のルートを後でこっそりと教えておこう。


「んで、最初のワープは左に進むとどうなるんだ?」

「そっちは罠だらけのワープ迷路になっていて、なんとか正解を引き当てても入り口に戻されるんだ」

「うげ。じゃあ右は?」

「右はいつか正解ルートに合流するよ。ただ、この道よりも少しだけ難易度が高いけれどね」

「ふ~ん、なるほどねぇ」


 それからぴなこさんのチェックと分身チェックで確認しながら正解のルートを進んだ。


「ここだ」


 そしてある分岐の場所で一旦歩みを止める。


「京香さん、ここが例の場所だよ」

「……本当に行くのか?」

「うん、だって京香さんの格好良い姿みたいもん」

「ぬっ……そ、そうか。そう言われたら断れないな」


 "なんというだらしない顔"

 "尻尾があったらブンブン振ってそうw"

 "おばあちゃん大好きって孫に言われたお祖母ちゃんみたいな顔しとるw"

 "格好良い姿みたいもんみたいもんみたいもん"

 "リフレインは草"

 "狂化様が狂化様じゃなくなってるw"

 "京香様モードだったら抱き着いてるだろうなー"

 "そっちで救様がぷぎゃる姿も見たかったw"


「うるせえな。私のことよりこれからのことを心配してろ!」

「ほ、ほほ、本当に行くですかぁ?」

「辛いなら止めるよ?」

「行きます!」


 ぴなこさんが無理してるんだかしてないんだか良く分からないや。


 ひとまずさっきまでと同じように分身を入れて先を確認っと。

 うんうん、地図通りで変わってないね。


 "え、なんでハズレルートを確認してるんだ?"

 "ま さ か"

 "いやいやいや、それはダメだろ"

 "でも流石にいしのなかってわけじゃないだろうし"

 "狂化様も許可出してるから良い……のか?"

 "でもアレって『みたいもん』に騙されている可能性も"

 "|д゜)会議?"


「ちゃんと他の皆にも確認してるもん!」


 危ない危ない。

 皆って悪ノリが好きだから、ノリで会議が開かれないようにちゃんと言っておかないと。


 この先は外れだけれど重要だから紹介するの。


「それじゃあ行きまーす」


 そのワープゾーンを潜ると、少しだけ広い部屋に出た。

 部屋の床の中心には奇妙な魔法陣が書かれていて、ボクらが入ると同時に光り出す。


 "魔物召喚部屋!?"

 "やべぇよやべ……救様がいるから大丈夫か"

 "一瞬マジビビリしたけれど救様がいるしな"

 "魔物召喚部屋ってモンスターハウスみたいなやつ?"

 "いや、ボス級の魔物が出て来て倒すまで出られない部屋"

 "それってかなりヤバいんじゃ……ヤバくなかった"

 "探索者目線だと絶望なのに救様目線だと余裕なの感覚がバグりそうw"

 "でもどうしてわざわざここに来たのかな"

 "こういうトラップもあるから気をつけろ的な?"


 トラップの紹介でもあるにはあるんだけれど、見せたいのは召喚される魔物の方なんだ。

 どんな魔物が召喚されるかは決まっていて、ここではあの魔物が召喚される。


 それを京香さんに倒してもらう機会をプレゼントしたかったんだ。




 だって前は邪魔しちゃったからね。




 "うっっっっっっっっっそだろ!"

 "スライムぅ!?"

 "まさかあのスライム!?"

 "やべぇよやべ……救様がいるから大丈夫か"

 "大丈夫だけど大丈夫じゃないけど大丈夫!"

 "助けてぷぎゃえも~ん!"

 "待て待て、強化様のあの剣"

 "次元斬!"


 京香さんの剣がプルプルと震え出し、周囲の空間を削り取ろうとしている。


 目の前には最近戦ったあのスライムにとても良く似た見た目のスライム。でも何も吸収していないからか背丈はボクらと同じくらいしか無くて、色も透明だ。


 以前このスライムとここで出会って、何でも吸収する面白い性質があったから色々と倒し方を試してたんだ。だからあの時、すぐに倒し方を思いついた。


「さぁ京香さん!」

「おうよ!」


 前回はトドメを刺すところをボクが止めちゃったから、京香さんが消化不良じゃないかなって思って連れて来たかったんだよ。


「せっかく救にもらったこの機会。全力でやらせてもらうぜ!」


 京香さんはスライムに真正面から飛び掛かり、手にした大剣を一閃。

 スライムはその攻撃に触れる事すら出来ずに体を真っ二つに分断された。


「オラオラオラオラオラア!」


 それからは一方的な蹂躙劇だ。

 京香さんがスライムの体を縦横無尽に斬り刻み、あっさりとコアを破壊して撃破した。


「わ~ぱちぱち」


 無事に倒したね、おめでとう。


 "強すぎて草"

 "スライムが斬られるたびに蒸発してなかったか?"

 "狂化様の強さが留まるところを知らない"

 "わ~ぱちぱち"

 "救様の可愛さが留まるところを知らない"

 "ヤバすぎる敵の筈なのに全く緊張感が無いのは何故だ"

 "単に二人とも強すぎるからだろ"

 "ぴなこの反応が普通だって"

 "反応って言ってもどこにも映って無いぞ"

 "ビビって全力で隠れたw"


 ぴなこさんなら隅の方で身を守ってるよ。ボクでもはっきりとは居場所が分からないから隠蔽系スキルを相当鍛えてるんだろうな。生き残ることに特化したスキル構成にしてるって言ってたけれど、もしかしたら世界で一番しぶとい探索者なのかも。


「いやぁスッキリした。サンキュな、救」

「どういたしまして」


 やっぱりあの時に倒せなかったことを少しは気持ち悪く思っていたのかな。スッキリ出来たようで本当に良かった。


「でもよ、救。あの時どうやって次元斬を受け止めたんだ?」

「手で挟んで止めたんだよ」

「いや、それは分かってるけれど……」

「その剣が震えてるから挟んで震えないようにしたんだって」

「お、おう……?」


 空間ごと斬る効果はその剣の震えの影響っぽいから、だったら震えないように挟んで動きを止めれば良いだけの事だよ。簡単な話だよね。


 "狂化様大困惑"

 "そうはならんやろ"

 "空間削れてるのにどうやって剣に触れるんですかね"

 "絶対に真似しないでください"

 "意味が分からないよ"

 "でも無効化出来るって分かって良かったよな。隠しボスなら出来そうだし"

 "出来るのかなぁ"


 あ~その辺りの説明もしなくちゃダメなのか……長くなるから後でね!


「さぁ戻ってダンジョンを進もう」

「……………………」

「後でもっと説明するから」

「絶対だぞ」

「うん」


 今日はこのダンジョンを紹介することがメインだから他の事は後回しだよ。


 ワープ迷路について説明しておきたかったことはこれで全部だから、さっさと次の層に行かなきゃ。

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