7. [配信回] 予想外にもほどがあるよ!
【新型カメラ】ボクの動きについてこれるかな?【試運転】
「こんにちは、槍杉救です」
"ちわー"
"本当にはじまた"
"普通に挨拶してらぁ"
"マジで配信やるのかw"
"三日前まで耐久配信やってたのにw"
"ちゃんと反省しましたか?"
"コメント会議まだですよ"
「ぷぎゃっ!? その話はしないでよ……」
会議の人数が増えて来て本当に辛いんだから。
ボクだって皆を悲しませたいだなんて思ってないんだよ。
ただボクの常識が通用しないことが多いだけで……
「それに今日の配信内容は家族に許可とってあるもん」
最初は止められたけれど、絶対に無茶しないってことと、どうしてもやりたいことだからって粘り強く説明したら認めてくれたんだ。
"あるもん"
"はいかわいい"
"これで十八歳なのずるいだろ"
"あざとくないのが良いよな"
"家族さん大丈夫ですか?"
"何だかんだ言って信じて送り出してくれるの良いよな"
"わかる。これだけやらかすと家に閉じ込めておきたくなるもんな"
"というか救くんちゃんにおねだりされたら断れなくね?"
"無理"
"無理"
"無理"
"ほんと泣かすなよ?"
"救様に何かあったら俺らもガチ泣きするからな"
"やっぱりもっと分からせなきゃダメかも"
"¥50000 うむ、そうだな"
「ぷぎゃああああああああ! どうしてそうなっちゃうの!?」
ここしばらく配信の最初はいつもこんな感じになっちゃう。
普通に始めたいのにどうして。
"だって今日の配信内容も無茶っぽいし"
"ナチュラルに深層ボスと戦おうとするのやべぇよ"
"救様が余裕で倒せるの知ってるけれど心配だよ"
「心配してくれてありがとう。でも今日は普通に、ううん、バフ沢山かけて安全にして戦うから大丈夫だよ」
今日の配信はクラフトスキルで強化したカメラをお供に深層ボスと戦ってみるっていうコンセプト。ボクやボスの動きにカメラがついてこれるかを確認したいんだ。
今のボクなら限界突破のおかげでバフかけると凄いステータスになるから、深層ボスの攻撃が万が一にでも当たってしまっても平気。
本当は隠しボス戦が綺麗に撮れると良いのだけれど、そんな危険なお試しなんてするつもりは全く無いからね。
あくまでも安全に。
それがボクがダンジョン探索をする上で家族から言い渡されたルールだから。
「それで今日は配信カメラの調子を確認する配信なんだけれど、その前にクラフトスキルがカンストしたら何が出来るようになったのかを説明するね」
といっても説明欄に書いてある以上のことは無いけどね。
「ダンジョン外の物に対してクラフトスキルを使って改造することが可能になったんだ。でも改造した効果はダンジョンの中でしか発動しない」
ダンジョンで入手した物は基本的にダンジョンの中でしか使えない。
回復アイテムのような例外はあるけれど、武器は外では攻撃力が皆無になるし、防具は紙装甲になるし、素材はどんな方法を使っても加工出来ない。外で使えるのは魔物が外に出てきた時だけ。
今回クラフトスキルで外の物を加工出来るようになったけれど、例えばスピード上昇効果をつけてもダンジョンの外ではその効果が発揮されなかったからルールは変わって無いのだと思う。
「狙い通りの効果だったけれど、カンストさせたにしては地味だよね。あはは」
"地味じゃねーから!"
"探索者革命起きるから!"
"やっぱりどれだけヤバいか分かって無かったか……"
"どういうこと?"
"おせーて探索者様"
"これまでダンジョンに地上の武器を持ち込んでも効果無かったのは知ってるか?"
"例えば銃で攻撃しても全くダメージ与えられない"
"でもクラフトスキルでダンジョン素材使って改造すれば……"
"ダンジョン内で銃が使えるかもしれないのか"
"確かにそれなら便利なのかも"
"それだけじゃないぞ。戦車だって入れるかもしれん"
"!?!?"
"戦車!?"
"マジで!?"
"池袋事変の時に戦車が使えるかもしれないと思えばどれだけ戦力アップになるのか分かるか?"
"ふぁーーーー! マジで革命じゃん!"
う~ん、コメント欄は大騒ぎだけれど、そんなに驚くところかな。
普通に戦った方が強いし、戦車なんて使ってもスキルレベル上がらないかもしれないし……
後で京香さんやおばあちゃんに聞いてみよう。
「どっちにしろカンスト大変だから今はまだ気にしなくて良いと思うよ。本題に戻るけれど、クラフトスキルでこの配信カメラの耐久、スピード、賢さを向上させたんだ。前よりも見やすい映像になってると思うけど、どうかな」
激しい動きをしないと違いが分からないかな。
"どうりで今日は救様がいつもよりかわいく見えるはずだ"
"絶妙な角度なんだよな"
"言われてみたら、常に一番映える角度で撮られてるなw"
"これならほとんど加工する必要なく素直に切り抜くだけで良いわ"
"敢えてカメラ横移動して流し目誘ってるのとか草"
"最初にぷぎゃったときにアップだったのも良かったよなw"
「ぷぎゃあ、恥ずかしいよ……」
このカメラそんなことまでしてたの。
リスナーさんたちの揶揄いが酷くなっちゃうじゃん。
「そ、それじゃあ早速だけどテストするからね!」
深くは考えないようにして、粟島ダンジョンの深層セーフティーゾーンへとワープした。
そしてそのまま
"え?"
"何してんの!?"
"地面殴っただけで大穴空いたんですけど……"
"階層ショトカはいつかやると思ってました"
"でも急いでいるわけでも無いのにどうして"
「粟島ダンジョンはと~っても性格が悪いダンジョンで、ここからボス部屋に行くまでのギミック対応が面倒なんだ。いつか絶対に見せるからね。皆と一緒に文句言いたいもん」
思い出すだけでも腹が立つギミックの数々について、きっとリスナーさん達も怒ってくれるに違いない。今日は配信のテーマが違うからそれは見せずに最短距離でボス部屋に行くことにしたけどね。
ちなみにセーフティーゾーンだからって油断してるとランダムで床に落とし穴が空いてボス部屋に落とされるから注意。セーフティーとは一体。
「ということで皆さんおなじみ、いかさまドラゴンです」
"ひえっ"
"またこいつか"
"知ってた"
"全身こんな感じなんだ"
"あの時のカメラは画質も角度も悪かったもんな"
"すげぇ、ちゃんとズームして首一本一本紹介してる"
"こんなのが地上に出て来たなんて、改めて考えてもやべぇな"
"今回は待ち時間に防御しないで逃げるんでしょ"
"その動きをちゃんと追えるのかって確認するのか"
そうそう、いかさまドラゴンの無敵時間の間にボクは全力で逃げるけれど、それがどんな感じで撮られるのかを確認したいんだ。
もっと動きが早いボスもいるけれど、今回は早さの確認ではなくて賢さの確認の方がしたくて、大きなボスと小さなボクがセットで良い感じに映ると良いなって期待してる。
「それじゃあ真面目に戦います」
戦っている途中にコメントは見ない。
何かあった時のために配信機器の通信機能はオンにしておく。
真面目に戦ってちゃんと倒す。
よし、これだけやれば怒られないでしょ。
戦闘開始だ!
"何だこの躍動感は!?"
"アニメ見てるみたいwww"
"今カメラワープした!?"
"救様の格好良いお姿が余すことなく映ってる!"
"すげぇ……"
"それ避けるのか"
"逃げ場が封鎖された! って思った直後に完全回避してるのマジ震えるんだが"
"八本の首から集中攻撃されてるのに全く当たる気配が無いのすごすぎ"
"スパっと胴体ぶった斬ってるのも格好良いわぁ"
"カメラワークが神過ぎて普通に移動してるだけでも格好良く見えるんだが"
"いかさまドラゴンの攻撃と救様の位置関係が良すぎんよ"
"大量のレーザーみたいなブレスを軽やかに避けるのスパイ映画みたい"
"このカメラ配信者ならみんな欲しがるだろうなぁ"
「はいこれで終わり」
倒し方が分かっている以上、いかさまドラゴンに苦戦することはもう無いもん。
さて、配信の方はどうだったか……え?
「なんで!? いつも通りに倒しただけなのに!」
そんな馬鹿な。
こんなの予定外だよ。
"救様が焦ってる"
"何でだろう。倒したよね"
"カメラさん空気読み過ぎでドアップ最高です"
"いや待て、救様が焦るってことはアレしかないだろ"
"また隠しボスか!?"
「待って、本当に待って。今回ばかりは本当にダメなんだって。お願い出てこないで!」
怒られた直後に危険な目に遭ったら、これまで以上に怒られちゃう。
隠しボスの出現条件を満たさないように、いつもと同じやり方で倒したのにどうして!
でも残念ながらボクの願いは届かなかった。
異様な雰囲気と共にボクの前に隠しボスが姿を現してしまったんだ。
「え?」
"え?"
"は?"
"あれ?"
"何で?"
"え?"
"ええ?"
"マジで?"
お姉ちゃんに泣き叫びながら抱き締められる未来を想像して絶望するボクの前に現れたのは、なんと知っている魔物だった。
「ハーピアさん?」
池袋に登場して日本を壊滅させようとした魔物が、またしても登場したのだ。
「え?あれ?」
「…………」
ハーピアさんは無言でボクを見ている。
一度倒した隠しボスがまた出て来るなんてことってあるのかなって聞いてみたいけれど、答えてくれるかな。答えてくれないよね……
「何故だ」
「え?」
「何故救済者がここにいる」
「それはボクの方が聞きたいくらいだけれど……」
どうやら困惑している様子だけれど、もしかしてこれって何か異常事態なのかな。
だったらボク悪くないよね!
「私がここに居るのは深層最奥の魔物が一定数倒されたからだ。以前とは出現ルールが違う。あの時は審判者としての役割だったが、今は単なる魔物でしかない」
「あ、そうなんだ。教えてくれてありがとう」
あのハーピアさんがボクの心情を察して答えてくれるなんて信じられない。
そう驚きたかったけれど、ボクが深層ボスを倒し過ぎでハーピアさんが出てきたということは間違いなく怒られる案件だからそっちが気になって話に集中出来ない。
ぷぎゃああああああああ! 怒られるの嫌ああああああああ!
「それより何故救済者がここにいる」
「何故って深層ボスを倒したから?」
「そんなことは分かっている!」
「ぷぎゃ!?」
家族より先にハーピアさんに怒られちゃった。
でもなんでさ。
「ゲームの進行は戻り、急ぐ必要は無くなっただろう。それなのに何故まだ命を張っていると聞いているのだ」
「え? 別に命を張っているつもりなんて無いよ?」
「…………」
それにどうしてハーピアさんがそんなことを気にするのさ。
「しばし待て」
「え?」
「待て!」
「ぷぎゃっ! はい」
"何がどうなってるの?"
"救様がやらかしたことだけは分かる"
"絶望した瞬間にその表情抜かれたのマジで草"
"まさかのハーピア再来でトラウマ蘇りかけてる"
"日本中がざわついてるよな"
"でも一度倒したし大丈夫だよな……?"
"そうおもいたいk!!??!?"
"ぎゃああああああああ!"
"やべぇやべぇやべぇやべぇ"
"せかいおわた"
ハーピアさんがしばらく目を閉じて何かを考えていたかと思ったら、突然新たに四体の魔物が現れた。
「どうして!?」
天使風のイケメン、ペリエル。
堕天使風のチャラ男、ガフェ。
魔法使い風のおじいちゃん、ウルゴール。
獣王風の獅子男、ガムイ。
いずれもボクがこれまで倒した隠しボスだ。
こんなの無理に決まっているじゃないか!
隠しボスが五体だなんて、倒せるわけがないよ。
酷い、酷すぎる。
でもそれでも諦めるわけにはいかない。
怒られるとかもうそんなことはどうでも良い。
気持ちを切り替えてどうやってこの状況を切り抜けるか考えないと。
『あ~そんな目で睨むな。俺達はただの幻影だ。お前と殺り合うつもりはねーよ』
「え?」
確かに良く見ると体が透けて見える。
映像だけがここに来たって感じなのかな。
でもだとするとどうして?
「これまでの救済者の様子を確認した」
「はぁ……」
ハーピアさんが池袋の時よりもきつめのイントネーションでまた話しかけて来た。
「幼い頃からダンジョンに住み、深層最奥の魔物をたった一人で倒し続けた。それも私が出現する程の回数」
もしかしてボクのこれまでの探索状況がハーピアさん達に把握されてるの!?
魔物にとって危険な探索者だって思われちゃったかも。
ハーピアさん以外は幻影みたいだけれど、実体化して排除しようなんて流れになったらどうしよう。
「この馬鹿が!」
「ぷぎゃああああああああ!」
だからどうして隠しボスがボクを怒るのさ!
「正座」
「え?」
「正座」
「あの」
「正座」
「…………はい」
ハーピアさんの怒気に負けて正座しちゃったけれど、この状況なぁに?
『俺としてはお前みたいな戦闘バカ大好きなんだがな、流石にやりすぎだろ』
『俺も狂った奴は好きだが、狂いすぎだ。死んだら元も子もねーだろうが』
『命を大事にしなさいと伝えたはず』
『ほっほっほっ、躾がいがありそうよのう』
「救済者としての自覚を持て!」
「ぷぎゃああああああああ! どうして隠しボスに怒られてるの!?」
これじゃあ家族会議と同じじゃないか!
"隠しボス会議www"
"隠しボス会議なんて展開予想出来ねーよ!"
"隠しボスも救様信者だった?"
"めっちゃ心配されてるやんwww"
"ハーピアマジギレの理由が救様の無茶とか"
"トラウマ消えたwww隠しボス会議腹痛いwww"
"カメラさん、救様の泣きそうな顔ドアップはマジ有能"
"救様のご家族もにっこり"
"追い会議は確定だけどなw"
"すげぇ歴史的なシーンなのに笑いが止まらないんだがw"
"もっと言ってやってください!"
ぷぎゃああああああああ! どうしてこうなるのさ!
あ、ちなみにハーピアさんはお説教の後に普通に倒しました。
池袋の時は強化されてたみたいで、それほど苦労しなかったよ、やったね。
…………
もう会議は嫌ああああああああ!
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