2. [配信回] シルバーマスク参上 

【シルバーマスク】我が呼び声に集えリスナー達よ【雑談配信】


「我が名はシルバーマスク。これより配信を開始する」


 "はいはい、またフェイクですか"

 "偽物多すぎんよ"

 "今回のは背景凝ってるな"

 "確かに奥多摩最奥っぽい"

 "捨て垢っぽいし、どうせCGだろ"


 おばあちゃんの言ったとおりだ。

 今までと違ってリスナーさんがほとんど居ないし、偽物だと思われているみたい。


「どうやら我を偽物だと疑っている者が多いようだな。ならば我こそが真のシルバーマスクであることを証明して見せよう」


 まずはフラウス・シュレインをアイテムボックスから取り出した。


 "え、アレってまさか"

 "聖剣そっくり、凝りすぎだろ"

 "偽物の癖に無駄に頑張りすぎw"

 "でもあれ本物っぽくね?"

 "他の人も偽物作ってたけど、これマジもんのオーラがあるぜ"

 "いやいや、本物のわけねーだろ……ねーよな?"


 凄いや、これだけで風向きが変わってきたっぽい。隠しボスの撃破報酬だけあって、特別感があるもんね。


「今日は雑談配信の予定だが、人が集まるまで小一時間程度掃除をする。その間に我が本物であるかどうか存分に議論するが良い」


 奥多摩ダンジョンの最下層をゆっくりと掃除していればすぐに本物だって理解して貰えるよっておばあちゃんに言われたんだ。


 早速魔物が現れた。

 巨大な木の魔物、トレントだ。


 ツインヘッドフェニックスを斬り刻んだ時と同じようにフラウス・シュレインでさいの目にしてみた。


 "ファアアアア!"

 "え、これ加工じゃないの?"

 "本物!?"

 "どう考えても加工のレベル越えてるだろwww"

 "とんでも威力の魔力弾まで使ってるwww"

 "絶対これ本物だ!"

 "きたああああ!"

 "救様ああああ!"

 "救くんちゃああああん!"

 "今すぐ皆を呼べ!"

 "シルバー様の呼び声に応えろ!"

 "まってその新技は皆が来てからやってwww"

 "黄色い炎って何それwww"

 "敵が画面外まですっとんでったwww"

 "スマ〇ラかな?"

 "あかん、すでに切り抜き箇所が大量発生してるwww"


 あまり急いで狩りすぎると魔物が居なくなっちゃうから気をつけないと。

 復活には最短でも一時間はかかるからね。


「ふん、雑魚が」

「出直して来い」

「この程度か」


 淡々と狩るのもつまらないので、シルバーマスクっぽい台詞を言いながら狩って見てるけど反応はどうかなぁ。


 "シルバー様素敵"

 "言われてみたい"

 "罵倒たすかる"

 "ASMR希望"

 "もっとください!"

 "変なのが湧いてる……"


 ぷぎゃっ!?

 どういうこと!?


 こんなこと言われて喜ぶ人なんているはずが……あ、冗談か、そうだよね。


「こんなところか」


 大体一時間くらい狩りをして戻ってきたらコメント欄は大分賑わっていた。


「さて皆の者、我が本物であると理解して貰えたかな?」


 "はい!"

 "はい!"

 "もちろんです!"

 "貴方が本物です!"

 "シルバー様に会いたかった!"

 "垢BANされたのに大丈夫?"

 "あんなの見せられたら信じるしかないんだよなぁ"

 "疑ってごめんなさい!"

 "やっぱり本物はオーラが違うよね"

 "さっきまでの戦いについて説明して欲しいけど趣旨違いだよね……"

 "まだまだ拡散するぜー!"

 "まさか本物が混じってるとはなぁ"

 "救くんちゃんだー!"

 "でもこれすぐに垢BANされないか?"

 "救様が何をしたって言うんだ!"


 信じてくれたようだけれど、やっぱり名前で呼ばれちゃってるなぁ。


「一つ勘違いを正そう。我はシルバーマスクだ」


 "は?"

 "へ?"

 "は?"

 "勘違い?"

 "そりゃそうだよな"

 "シルバー様はシルバー様っす"

 "どういうこと?"

 "救くんちゃんだよね?"

 "そうか、今日は救様じゃなくてシルバー様なんだ"

 "どういうこと?"

 "だからシルバー様なんだって"

 "まさかシルバー様だから垢BANされないのかwww"

 "そんなのってある?www"

 "誰だよシルバー様に悪知恵吹き込んだのwww"


 悪知恵だなんて失礼だな。

 おばあちゃんは悪いことなんてしてないよ。


「我の協力者によると、シルバーマスクの配信は止められていないとダンチューブに確認済とのことらしい。故に我は正々堂々と配信をしているのである」


 槍杉救のアカウントだとダメだけど、シルバーマスクなら大丈夫らしいんだよね。

 そもそも槍杉救のアカウントがダメになったのはボクが何か悪さしたからなのかと思ったから配信を辞めようかと思ってたんだけど、おばあちゃんが言うにはボクは何も悪くないしリスナーさんも待ってるから配信した方が良いんだって。


 "ダンチューブに確認済は強い"

 "その協力者って絶対あの人だよね"

 "前に配信に出てたもんなぁ"

 "ダンチューブと話が出来るのも納得"

 "でもなんでシルバーマスクだけOKなんだよwww"

 "意味分からんw"


 ボクも色々と気になるけれど、京香さんとおばあちゃんが調べてくれているから今はまだ何も言えないんだ。


「すまぬが諸々の事情は調査中であるが故、本日は皆が気にしているその件以外について語ろうと思う」


 "は~い"

 "は~い"

 "は~い"

 "気になるけどしゃ~ない"

 "まだ調査中なんでしょ"

 "ダンチューブがシルバーマスクOKって言ってるなら良いんでね?"


 皆が優しい人達で良かった。

 事情が分かったら後でちゃんと説明するからね。


 ということで、人が集まってきたことだし、ここからが本番だ。

 …………本番?


「何を話そうか」


 "ちょっwww"

 "草"

 "考えてなかったのかいwww"

 "トークデッキ無しで雑談配信に挑むとか無謀すぎる"

 "シルバー様はふわふわなアレやってなかったっけ?"

 "やってたけどあっちも垢消えてるから"

 "それじゃあマジでどうすんの"

 "シルバー様だとコミュ強な可能性が微レ存?"

 "もっと可能性高くしてやれよ……"


 皆酷いなぁ。

 ボクだって雑談くらいやろうと思えば出来るよ。


「……星空が綺麗だな」


 "アカン"

 "あうとー"

 "天気デッキは基本中の基本だけどさぁ"

 "一番盛り上がらないやつw"

 "【悲報】シルバー様、雑談が出来ない"

 "【シルバー友2】とっても綺麗だね!"

 "草"

 "友2www"

 "優しすぎるwww"

 "君の方が綺麗だよ"

 "そんなこと言うシルバー様嫌だw"

 "京香様は最初そう言われたと勘違いしたんだよなぁ"


 ありがとう友2さん。

 今はまだ誰か分からないけれど、後で確認して絶対にお礼言うからね!


「では皆に問おう。何か我に聞きたいことは無いか」


 ボクの雑談レベルがマイナスだってことが分かったからリスナーさんに任せることにした。


 "シルバー様の強さの秘訣は?"

 "空の飛び方を教えて下さい!"

 "シルバー様の好きなタイプの女性は?"

 "今日の下着の色は?"

 "シルバー様は男性ですか?女性ですか?"

 "ブートキャンプ以外で一気に強くなる方法はありませんか?"

 "世界が滅ぶって本当ですか?"

 "外国に行った探索者達のことをどう思ってますか?"

 "探索者協会とか日本政府のことを恨んでませんか?"

 "ギルドに入るのとか興味ありませんか?"

 "魔力弾がすぐに霧散しちゃうんですけどどうしたら良いですか?"

 "シルバー様の仮面って何か特別な効果があるのですか?"

 "これまでに戦った隠しボスについてもっと詳しく!"

 "聖剣を使ってみたいです!"

 "【シルバー姉】家族が無茶しないようにするにはどうすれば良いと思いますか?"

 "エリクサー飲みたい!"

 "【シルバー友1】友達と放課後遊びに行きたいので誘い方教えて下さい"

 "シルバー様が今までで一番苦戦した魔物は?"

 "高校生になったら探索者になりたいのですがシルバー様に指導してもらいたいです!"

 "【シルバー友2】シルバー様とデートしたい!"


 ぷぎゃああああああああ!


 質問が多すぎるけどどうしたらよいの!?

 全部答えなきゃ失礼……ううん、京香さんは選んでた気がする。

 でもどうやって選べば良いんだろう。


 分からないよー!


 ああもうこうなったら、目を閉じて適当にピックアップする!


 


 "シルバー様はどうしてそこまでして人助けをするようになったのですか?"




 困っている人を助けるのは当然のことだけど、この質問はそういう意味じゃないか。

 ボクが大きく傷ついてまで人助けをする理由。


「大した話では無いが、それでも良いか?」


 "聞いてみたい"

 "すごい興味ある"

 "教えて教えて!"

 "まさかシルバー様の原点が聞けるとは!"


 本当に大した話じゃないんだけどな。


「あれは我がまだ幼く未熟だった頃の話だ」


 ボクは誘拐されたことがある。


 それも仲が良かった友達と一緒に。


 誘拐犯の目的はボクじゃなくて友達だったらしく、ボクは巻き込まれて一緒に攫われてしまった。

 ボクは友達を守ろうと大人達に必死に抗ったけれど、全く敵わなかった。


 具体的なことは実は良く覚えていないのだけれど、友達を守れなかった悔しさだけは今でもはっきりと覚えている。

 だからボクは大切な人達を守れる力が欲しくて、九歳なのにダンジョンに入っちゃったんだ。


 という話をかいつまんで説明した。


「ほらな、大したこと無かっただろう」


 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"


 あれ、おかしいな。

 また故障かな?


 え、この気配は!?


 "この子どれだけ修羅場くぐってるのさ……"

 "大事件やないか"

 "申し訳ないけれどガチ話はNG(泣いちゃうから)"

 "気楽に聞いたらアカン話やったなぁ"

 "あれ、シルバー様の様子が変だ"

 "キョロキョロ辺りを見回してるな"

 "雰囲気も少し怪しくない?"

 "隠しボスと戦っている時の感じに見えるんだけど"

 "まさか……"

 "だって今日は会話しているだけだぞ"

 "おいお前ら、なんかダンジョンが変だ!"

 "そうか? あまり変わらないように見えるけど"

 "確かに何か変に見える"

 "????"

 "変なのは奥多摩だけじゃない、他の配信でも異変が起きてるぞ"

 "はぁ!?"

 "何々、何がどうなってるの!?"

 "俺、札幌ダンジョンが見える位置にいるんだけど、確かに何か違和感ある"

 "宿から別府ダンジョンが見えるけど、そこも変だ"

 "温泉裏山"

 "シルバー様!?"

 "どこ行くの!?"

 "消えちゃった……"

 "配信も放置でカメラが困って彷徨ってるな"

 "被写体がいなくなったなら直に勝手に止まるはずだけど……"

 "シルバー様が配信止めるの忘れる程の何かが起きてるってこと?"


 突然ダンジョン内に充満している魔力が異常に濃くなり、それが一気に上昇して入り口から外に出ようとしていることに気が付いたんだ。もしかしたら地上に魔物が出てくるかもしれないと思って慌てて地上の分身と入れ替わったんだけど、噴き出した魔力はある方向へと向かって飛んで行った。


 ボクは空高く飛んでその行先を確認しようとした。


「日本中のダンジョンから魔力が一か所に集まってきてる?」


 奥多摩ダンジョン以外からも魔力が流れて来ているのが目視出来たんだ。もちろんこんなことはボクが知っている限りでは似たような出来事すら一度も経験したことが無い。


「向かっている先は東京の……池袋?」


 池袋ダンジョン。

 上級ダンジョンの一つであるそこは、日本のダンジョン史にとって深い意味を持つ場所だ。


 何故ならば日本に初めて現れたダンジョンだから。


 日本最古のダンジョンにて、とてつもない異変が起ころうとしている。

 ボクは迷うことなく皆を守るために急ぎ池袋へと向かった。

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