6. [配信回] 富士山ダンジョン 最奥まで

「上層ボス戦はじめまーす」

「…………」

「京香さん機嫌直してぇ……」

「ふんだ」


 滝下りがあまりにも刺激的だったからなのか、それともウナギくんについて説明するのを忘れていたからなのか、京香さんがずっと不機嫌だ。

 配信中に喧嘩する姿なんて見せたくないからどうしようって焦ったけれど、リスナーの皆は気にしないって言ってたし『w』が沢山あったから何故か平気なんだと思う。ちなみに『w』の意味だけど、面白いとか楽しいとかそう言う時に使うんだってなんとなくだけど理解済だよ。


「上層ボスは溶岩の巨人で~す」


 冷えて固まった溶岩の巨人で、溶岩ゴーレムと言っても良いのかもしれない。

 ただかなりの大きさで高さが五メートル近くあるから巨人って表現する方がしっくりくるや。


 "でっけぇ"

 "赤黒くてゴツゴツしてるから迫力あるな"

 "でもさっきのウナギと比べちゃうとなぁ"

 "弱そうに感じちゃう"

 "最難関ダンジョンのボスなのになぁw"

 "俺らも大分感覚マヒしてきたなw"


 実際にウナギくんよりも遥かに弱いから仕方ないね。でも油断は出来ない相手なんだよ。


「攻撃方法はウナギくんと同じでマグマ岩石を飛ばしてくるよ。でも二番煎じだからそれはカットだね」


 圧縮魔力弾マジックバレットでマグマが出現したと同時に破壊した。


 "やっぱり壊せるんじゃないか!"

 "知ってた"

 "ウナギの攻撃避ける必要無かったw"

 "ウナギの場合は破片が降り注ぐんじゃね?"

 "巨人の攻撃は破壊すると消滅するのか"

 "せっかくの見どころカットされてかわいそう(´;ω;`)"


 残念ながらウナギくんの場合は本体だけじゃなくてあのマグマ岩石も破壊不能なんだよ。


「巨人さんの体は溶岩で出来ているだけだから割と柔らかいよ。でも下手に攻撃すると自爆攻撃してくるから注意してね。例えば左腕を切り落とすと、切り落とされた左腕が自爆してくるんだ。もちろんとんでもない威力だよ。そして自爆した箇所はすぐに生えて来るんだ」


 "は?"

 "自爆?"

 "それじゃあどうやって攻撃するんだ"

 "定番は核を見つけるんだけど"

 "普通は核を探すのに何回か攻撃するよな"

 "そしてボロボロ零れた岩石が自爆する"

 "マグマ岩石と自爆に耐えながら核を探すのか"

 "しかも体が柔らかめだから自爆起こりやすい"

 "流石最難関ダンジョン、やっぱえぐいわ"


 そうそう、だから安定して倒すには発想を変える必要があるんだよ。


「お勧めの倒し方は範囲攻撃で一気に殲滅することだね」


 それならば核を探す必要とかも無いから。


 "あの巨人さんって五メートル以上もあるんですけど……"

 "高威力で広範囲の攻撃と言えば?"

 "爆裂魔法"

 "なるほどそれがあったか"

 "フレアでも良いんじゃね?"

 "でもフレアもマグマだから無効なんじゃね?"


 おっとそうだ。その説明をしてなかったね。


「フレアのマグマはここのマグマとは別扱いだから無効化出来ないんだよ。あの時は焦……なんでもない」


 自分が酷い目に遭ったことをバラすと家族会議になるって学習したから、耐性あるから余裕だと思ってフレアを受けたら体の大半が溶けて死にかけたなんて話は言わないよ!


 "[シルバー姉] …………"

 "[シルバー母] …………"

 "[シルバー父] …………"

 "[シルバー友1] …………"

 "[シルバー友2] …………"

 "[シルバー友3] …………"

 "[シルバー友4] …………"

 "wwwwwwww"

 "wwwwwwww"

 "大草原不可避"

 "隠しきれてないんだよなぁ"

 "たっぷり叱られて来なさい"

 "というかボス戦中でしょ!"

 "だからシルバー一家と愉快な仲間達は何も言わないのかw"


 ぷぎゃああああああああ!


 どうして!?

 ボク何も言ってないのに!


「救、心配だからコメント見ないで終わらせてくれ」

「…………うん」


 そうだった、今は配信中なんだ。

 落ち込んでないで解説を終わらせないと。


「それじゃあ終わらせるね。絶対零度」


 途端に巨人の全身が氷で覆われた。

 絶対零度は一見して凍らせる魔法に見えるけれど、実際は凍らせながらダメージを与える魔法なんだ。だからこうして全身にダメージを与えることで核にもダメージを与えて簡単に倒すことが出来る。


「はい、撃破っと。ちなみにまだ説明してない攻撃として岩が入ってないマグマを飛ばしてくることもあるから注意してね」


 マグマ耐性あるから無視してたらそれが偶然ボクの顔に当たっちゃって、その時に口の中に入って美味しいってことを知ったんだ。


 "そうそう、こういう分かりやすい派手な倒し方を待ってたんだ!"

 "救くんちゃん強い!"

 "上層ボスを一撃で仕留めるなんて!"

 "きんもちいいいい!"

 "って今までも普通に驚きたかった"

 "派手な魔法で一気にドーンってのが無かったからなぁ"

 "有名な魔法を使ってくれたのも分かりやすくて良かったよな"

 "これなら頑張れば出来るかもって気がする"

 "あの魔法の範囲は異常だけどな……"

 "これまでの異常と比べるとこれでも地味なのが草"


 あれ、今回は妙に好意的なコメントが多いな。

 ボクとしてはかなり雑に倒したつもりだったんだけど……


「救お疲れ様」

「ありがとう」


 京香さんが普通に話しかけてくれた。

 機嫌は治ったのかな。


「疲れては……いないようだから早速次の層へ行くのか?」

「うん」

「確か中層が無くて次が下層か深層なんだよな」

「そうだよ」


 富士山ダンジョンは二種類の層しか無いから、上層と下層か浅層と深層って表現するのが適切なのかもしれない。

 多分だけど、ダンジョンがかなり広いから他の層が無いんだと思う。


「それじゃあ京香さん、準備してね」

「救が戦っている間に準備したから大丈夫だ」


 確かによく見ると装備が少し変わっている。

 だとすると今はかなり暑いはずだから、早く移動しないと。


 "装備変更って何のことだろう"

 "もっと暑くなるとか"

 "にしては狂化様ってさっきより暑そうにしてない?"

 "暑さ対策の装備を外したってことか?"

 "どういうことだろう"


 その答えはすぐに分かるよ。

 ボス部屋の奥にある次の階層への扉を開くとそこは……


「うわぁマジか」


 "うっそでしょwww"

 "真っ白"

 "マグマの次は雪ですか"

 "わぁ、白銀の世界だ"

 "真逆なのはえぐいな、暑さと寒さのどっちの対策も必要なのか"


 だから京香さんには寒さ対策の装備をつけてもらってるんだ。

 そしてついでにボクからもバフをかけてあげて。


「さぁ、京香さん行こう」

「あ、ああ」


 二人して柔らかな雪の上に足を踏み入れたその直後。


 バタン!


「きゃっ!」


 背後の扉が突然閉まった。

 そしてそれと同時に天候が大きく変わり出す。


 ビュオオオオ!


 突然の吹雪になり、視界が悪くなるのに加えて気温も一気に下がって来た。


「マジで救の言ったとおりになったな。脱出アイテムは……つかえねぇ」

「一時間はこのままだよ。だから準備してなかったら魔物関係なく寒さでアウト。酷いトラップだよね~」


 ボス部屋からでも逃げられる緊急脱出アイテムすら制限するとか鬼畜だと思う。


 "ファーーーー!"

 "完全な初見殺しひどすぎwww"

 "暑さ対策しかしてないパーティーが試しに足を踏み入れた途端に極寒+脱出不能で殺しに来るとか"

 "えぐすぎんだろ!"

 "扉を開けた瞬間に引き返すのが正解なのか……"

 "でも試しに一歩くらいは入って見たくなるよね"

 "その一歩で凍死するとか洒落にならんわ"

 "これ救様が気付いてこうして教えてくれなかったら、かなりの被害者が出たんじゃね?"

 "しかも最難関ダンジョンの上層を突破出来る程の実力者達が死ぬかもしれないという大事件"

 "また救ってしまったか……"


 そんなの大袈裟だよ!?


「またまたぁ、ボク以外だって上級ダンジョンとかの情報を持ち帰って皆の助けになることしてくれている人達がいるでしょ。ボクだけが特別じゃないよ」


 だから妙に持ち上げないで欲しいな。


 "そうだったらどれだけ良かったか"

 "世の中が皆救くんちゃんや京香様みたいに優しい人だったらなぁ"

 "利益を独占したいと思う人が多すぎんよ"


 どういうことだろう?


「救、その話は気にするな」

「う、うん」


 京香さんがそう言うなら今は忘れよう。


「それじゃあ解説を続けるね」


 ボク達は雪原フィールドや出現する魔物の特徴を解説しながら進み、最奥のボス部屋まで辿り着いた。今回は滝下りのような特殊な場所が無かったから普通に移動するだけで見どころはあまり無かったかな。コメントはそれなりに盛り上がっていたみたいだから良かったけれど。


「ここが富士山ダンジョンの最奥ボス部屋でーす」


 このボスを倒せばダンジョンクリアだ。

 ちなみにこのボスは時期的に復活しているはずなのでこれから戦うつもりだ。


「待った」

「え?」


 でも京香さんがストップをかけてきた。

 どうしたんだろう。


「やっぱり止めないか?」

「どうして?」

「…………この前みたいなことがあったら」


 そうか、隠しボスが出てくることを心配してくれたんだ。


「ここは大丈夫だよ」

「どうしてそう言いきれるんだ」

「だってもうここの隠しボスは倒したから」

「…………」


 複数の隠しボスがいないかと言われたら分からないけれど、流石にそれは無いと思うよ。

 あったとしたらどこのダンジョンで戦っても同じだからここだけスルーする必要は無いし。


「だから行くけど、念のため一人で行くね」

「…………分かった。くれぐれも気をつけろよな」

「うん、心配してくれてありがとう」


 一人でボス部屋に入るなら今までと条件が同じだから新たに隠しボスが出る可能性は更に低いと思う。ボス部屋の前に一人残っている場合出現、なんていう嫌らしい条件が無ければだけど。

 ちなみにボス部屋の前は魔物が出てこないから残された京香さんは安全だ。


「それじゃあ行ってきます」


 見慣れた扉を開けて富士山ダンジョン深奥ボス戦へと向かった。


「こんにちは」

『『ギャオオオオオオオオン!』』


 迎えてくれたのはいつものボスだ。


 二つの首を持つ巨大な鳥。

 片方の首は紅くもう片方の首は銀色で、首から下は銀色の肌に真っ赤な羽が生えている。

 そして何よりも目立つのが全身が常に燃え続けているところだ。


 "炎の鳥?"

 "銀色の方は氷のブレスとか吐いて来そう"

 "二属性の鳥かな"

 "それだけなら良いけど"

 "全身燃えてるんだよなぁ"

 "嫌な予感がするんだが"

 "フェニックスだよね!?"


 そうそう。

 富士山ダンジョンのラスボスは炎と氷の二属性を司るツインヘッドフェニックスなんだ。

 あるいは複数属性デュアルフェニックスかな。名前は後で皆に決めてもらおう。


「流石にこいつは詳細に解説しながら戦うと危ないから普通にやるね」


 "普段からそうして"

 "普段からそうして"

 "普段からそうして"

 "普段からそうして"

 "普段からそうして"

 "普段からそうして"


 ぷぎゃっ!?


 "コメントも見ないで!"

 "コメント見るな!"

 "敵を見なさい"

 "集中して!"

 "[シルバー友1] 真面目にやって!"


 ぷぎゃぁ、怒られちゃった。


「ご、ごめんなさい……それじゃあ行きます!」

『『ギャオオオオオオオオン!』』


 すでに敵は動き出している。

 二つの頭から炎と氷のブレスを吐いて来た。


「あのブレスはそれぞれ耐性カンストさせれば耐えられるけど、頼りにしない方が良いよ」


 その理由はすぐに分かる。

 ほら、ブレスが混ざり合ったでしょ。


「二種類のブレスが合わさると複合属性っていう特殊な属性になるみたいで、炎と氷の耐性があってもダメージ受けちゃうんだ」


 "解説もいらないから戦いに集中しろおおおお!"

 "解説なんて後でしてくれれば良いから!"

 "もうコメント見てないから俺らの声が届かないw"

 "狂化様も外だから伝えてもらえないしw"

 "どうして炎と氷の耐性だけでダメって分かったんですかねぇ"

 "絶対喰らったことあるよね"

 "かぞくかいぎかくていな"

 "今回は救様もらしてないのにw"

 "ボス戦なのにそれほど焦ってないコメント欄"

 "救くんちゃんが余裕そうな顔してるからかな"


 ブレスを避けるのは簡単なんだけど問題はこの後だ。


「ずっとボスから遠距離をキープしていると全身の羽を飛ばしてくるので注意が必要です」


 ほら来たよ。

 宙で羽ばたきながら大量の燃える羽を頭上に浮き上がらせて羽先がこっちを向いている。


「あの羽で傷つけられると、傷を負ったところがしばらく消えない炎で燃やされ続けちゃうよ」


 だからダメージが大きいんだけど、面で降って来るから避け切るのは難しいんだよね。相変わらずブレスも吹いて来るからそっちも気にしないといけないし。


「とりあえず今回は避けてみるね」


 炎の羽の雨もボス部屋全体を網羅している訳では無いから、落下地点を予想してそこに猛ダッシュで移動して躱した。


「無事に躱せたわけだけど、ああなります」


 新しい羽がまた生えて再度攻撃が来るというえげつない攻撃のループになってるんだ。


 "むりげーすぎんだろ……"

 "数百枚はありそうな羽に一発でも掠ったらアウトとか"

 "そもそもブレスを避けるだけでも大変なのに"

 "でも最難関ダンジョンに挑む探索者ならあのくらいは出来そうな気がする"

 "確かに狂化様でも避けるだけなら出来るのかな?"


「問題はどうやって倒すかなんだよね」


 ひとまずフラウス・シュレインを取り出して攻撃してみる。

 ツインヘッドフェニックスに向かって駆けて賽の目状に切り刻む・・・・・・・・・・


 "!?"

 "!?"

 "はぁ!?"

 "は!?"

 "何だ今のは!?"

 "一瞬でフェニックスが細切れに!?"

 "何かのスキルか!?"

 "聖剣の効果とか!?"

 "あの巨体をあっさりと……"

 "救様の体がブレたと思ったらスパスパスパって"

 "剣閃って目に見えるもんなんだなぁ"

 "格好良すぎんだろ"


 ボロボロになったツインヘッドフェニックスは床に崩れ落ちたけど、不死鳥の名前の通りにすぐに復活する。


「どうやらツインヘッドフェニックスの体は魔力で作られているらしくて、その魔力を使い切らせる必要があるんだ。こうやって倒すと復活する時に沢山魔力を使ってくれるんだけど、十回倒すくらいじゃ枯渇しないから面倒なんだよね……」


 復活よりもブレスや羽攻撃の方が魔力を使うっぽいから、『耐久』がテーマのボスなんだと思う。


 でも今日はこの後に京香さんが何か予定しているみたいだから、一番速く倒せる方法をやるよ。


「ということで説明は終わりなのでトドメさしまーす」


 魔力切れを狙うにはいくつか方法があるんだけど、一番効率が良いのが『魔力発散』スキルなんだ。その名前の通り相手の魔力を発散させるスキルで、フェニックスのような魔力体を倒すには定番のスキルだとボクは思っている。

 似たようなスキルで魔力吸収もあるんだけど、そっちは魔力消費が少ないから選んじゃダメだよ。


「ていっ」


 ボクはジャンプしてツインヘッドフェニックスの上に乗り、消えない炎の中に手を突っ込んで肌に触れる。だって相手に触れ続けないと魔力発散は使い続けられないから。一瞬だけなら何かの魔法にセットして当てるだけで良いんだけどね。


「きえろ~きえろ~」


 体中が炎に包まれるけれど耐性があるから大丈夫。

 至近距離で羽が飛んでくるけれど空いている方の手を素早く動かして掴み取る。


 失敗して時々串刺しになる・・・・・・・・けどエリクサーや遅延蘇生で保険かけているから安心安全。


 ということできえろ~きえろ~はいきえた。


「討伐完了!」


 今回も楽勝だったね!


 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"


 あれ、コメントの様子がおかしいな。壊れちゃったのかも。京香さんに聞いてみよっと。ボスを倒したからもう入って来れるはずだし、と思ったら入って来た。


「京香さん、配信機器が……」

「正座」

「ぷぎゃっ!?」


 あれ、おかしいな、京香さんが珍しく怒ってる?

 そんな馬鹿な。無事にボスを倒したのにどうして!


 "家族会議"

 "家族会議"

 "家族会議"

 "家族会議"

 "家族会議"

 "[シルバー姉] 家族会議"

 "[シルバー母] 家族会議"

 "[シルバー父] 家族会議"

 "[シルバー友1] 友達会議"

 "[シルバー友2] 友達会議"

 "[シルバー友3] 友達会議"

 "[シルバー友4] 友達会議"


「ぷぎゃああああああああ!」


 どうして!?

 ボクが何をしたって言うの!?

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