4. [配信回] ペロッ……これはマグマ!(富士山ダンジョン)

【日本一の山】富士山ダンジョン解説とアレ


「こんにちは、槍杉救です」


 "救様降臨!"

 "待ってたよ!"

 "きたああああああああ!"

 "今日も楽しみ"

 "背景マグマだ!"

 "マジで富士山ダンジョンか"

 "/^o^\"

 "/^o^\"

 "/^o^\"

 "救くんちゃん成分補給"

 "はすはす"

 "救くんちゃんの配信が生きがい"

 "朝一だけど頑張って起きた!"


 朝早くからみんな元気だなぁ。


 今日は京香さんたっての希望で朝から配信をしている。何故朝からなのか理由を教えてくれなかったし、タイトルについている『アレ』ってのが危険感知スキルに引っ掛かっているのが不安でならない。

 でもそんなそぶりを見せたら皆を心配させるだけだから気にせずに頑張るよ。


 ちなみに今日は富士山ダンジョン。

 次はどこのダンジョンを紹介しようかなって思ってたら京香さんがリスナーさんにアンケート取ってくれて、そこで人気だったから選んだんだ。

 上層はマグマが流れる灼熱の洞窟になっていて、ここに入ったことがある人はいるけれどあまりの暑さに長居できなくて攻略があまり進んでいないらしい。そもそも入り口が富士山の頂上にあるから辿り着くだけでも大変ってのがあるんだけどね。ボクは空飛んで来たけれど、ここまで飛べる人ってもしかしてあまり居ないのかなぁ。


「今日もまた京香さんと一緒でーす」

「よろしく………」


 "目が死んでるwww"

 "京香様なのか狂化様なのか分からないな"

 "奥多摩中層狩りだけではストレス発散しきれなかったか"

 "あの実質モンスターハウス層で発狂して狩りまくってたのにな……"

 "え? 何? どういうこと?"

 "京香様に何かあったの?"

 "知らない人もいるのか"

 "救くんちゃんの配信だけ追ってる人もそれなりにいるからしゃーない"

 "京香様、救くんちゃんのブートキャンプに参加して奥多摩中層ソロで狩れるようになった"

 "え、救様のブートキャンプって……"

 "エリクサー山ほどあるよ"

 "死んでも十秒以内なら生き返れるから"

 "やっちゃったんだ……"

 "でもガチで強くなってたよな"

 "ブートキャンプの様子も見たいような見たくないような……"

 "ガムイ戦よりえぐい絵面になりそうだから私は見れないなぁ"


 う~ん、元気が無い状態でダンジョン探索するのはボクが案内するとしても危険だよ。


「京香さん、エリクサー飲みます?」

「ひいっ」

「何で逃げるの!?」


 エリクサー飲めば気分もスッキリするよ?


 "エリクサーを怖がる女www"

 "不死属性かな?"

 "魔京香"

 "不死鳥のしっぽで成仏しそう"

 "ターンアンデッド!"

 "ブートキャンプでトラウマになってるのかw"


「だ、大丈夫だ。たっぷり寝たから十分元気だぞ」

「そう? 辛かったらいつでも言ってね?」

「ああ、もちろん」


 少し作り笑顔な気もするけれど、見たところ体のキレは悪くなさそうだし大丈夫かな。


「アレに比べれば今日の配信なんて……それにお楽しみのアレがあるからな……ふふふふ」


 今度はぶつぶつ小声でしゃべりだしたけど、ボクは地獄耳スキルで聴覚鋭くなってるから全部聞こえているよ。まぁ内容は分からないんだけど。


「京香さん、アレって何ですか?」

「え?」


 最初の方のアレは深層攻略用の特訓のことだと思うけれど、後の方のアレは配信タイトルにもあるアレのことかなってなんとなく思った。そろそろ教えてくれても良いのに。


「ひ、秘密だ。お前らも言うんじゃねーぞ」

「リスナーさんも知ってるのかぁ……」


 "もちろんです姉御!"

 "絶対に書きませんよ!"

 "いやぁ楽しみだ"

 "あり……"

 "ありが……"

 "マジで止めろってw"


 リスナーさんからも教えてもらえそうに無いけれど、楽しみにしてもらえているなら良いか。


 "京香様が折角地獄を乗り越えたんだ、このくらいのご褒美はあって良いでしょ"

 "それな。何があったか分からないけど地獄な事だけは間違いないし"

 "でも京香様ってよくブートキャンプを受けようと思ったよな"

 "実はドM?"


 ブートキャンプって確か訓練のことだったよね。地獄だなんて大げさだよ。あの程度で地獄なんて言ってたら……それは今は良いか。


「ボクが京香さんにお礼したくて訓練してあげたの」


 "お礼とは"

 "滅茶苦茶強くなったんだからお礼になってるだろうが"

 "そこに至るまでを考えると貰って嬉しいと思えないんだよなぁ"

 "でも狂化様はなんだかんだ言って喜んでると思うぞ"

 "救くんちゃんに少しでも近づいて力になりたいって言ってたもんな"

 "皆を助けたいって気持ちも強いし、ただの色ボケじゃないんだよなぁ"

 "救くんちゃんの配信しか見ていない人に炎上されかけてたのマジで草"

 "シルバーマスクの次に皆の事を考えてくれる聖女様なのになw"

 "配信ではほぼバーサクモードだから分かりにくいけどねー"

 "そういえばお礼って何のお礼かな"

 "そりゃあコミュ障とか正体バレの後の対応のこととかじゃね?"


 そうだ、お礼についても説明しておこうっと。


「この前、頑張って学校に行ったんだ。最初はすぐに諦めて引き返そうと思ったけれど、京香さんが支えてくれたからなんとか頑張れて、なんと友達も出来たんだよ! だからそのお礼に強くなるお手伝いをしてあげたの」


 "学校に?"

 "救ちゃんが?"

 "目を合わせるだけでぷぎゃるのに?"

 "友達?"

 "もしかしてその「友達」とはあなたの想像上の人物ではありませんか"

 "イマジナリーフレンドかな"

 "魔物は友達じゃないよ"

 "ボールは友達理論ならギリいけるかな"

 "こんにちは(即殺)"


「みんな酷いよ! 本当に友達が出来たんだって!」


 そりゃあボクだって信じられないけどさ。


 "[シルバー友1] 本当だよ!"

 "[シルバー友2] 友達になったよね"

 "[シルバー友3] 見てるよ~"

 "[シルバー友4] 気を付けてね"

 "!?!?!?!?"

 "え、マジ?"

 "フェイクじゃなくて?"


 ぷぎゃっ!?


 家に残してある分身の方でスマホを動かして……


「本物らしいです。みんなありがとう!」


 友達がボクの配信を見てくれている。

 なんだか気恥ずかしいけれど、すっごい嬉しい!


 "この笑顔よ"

 "純粋すぎて眩しい"

 "守りたいこの笑顔"

 "抱きしめたいこの幼子"

 "幼子言うなwww"

 "十八やぞ。成人やぞ"

 "友達羨ましいわぁ"

 "救様とお知り合いになれるだけでも十分なのに友達とか昇天しそう"

 "抱きしめ禁止我慢大会になりそう"

 "救くんちゃんとリアルでお話してみたーい"


 あれ、おかしいな。

 皆何を言ってるんだろう。


「ボクにとっては皆はもう友達みたいなものだよ?」


 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"


 あ、あれ、皆どうしたんだろう。


 "どうしちゃったんだろうって顔してますよ、奥様"

 "これだから純度百パーセントの救世主様は"

 "トゥンクが止まらなくてヤバイ"

 "営業トークじゃなくて間違いなく本気で言ってるのが分かるのがまた……"

 "救くんちゃんの配信はガチ恋勢増産装置で危険だわ"

 "同時にガチ保護勢でもあるから炎上しない不思議"

 "それじゃあ友達として今日の配信も応援しようかな"


 相変わらず皆の反応の意味が良く分からないけれど、いつまでもお話しているわけにはいかないし、先に進めるかな。


「それでは富士山ダンジョンの解説を始めるね。京香さんは富士山ダンジョンについてどのくらい知ってる?」

「そうだな。環境面で言うなら上層は気温が五十度くらいで蒸し暑く、マグマが川のように流れているけれど触れなければ近づいても大丈夫で、足元がゴツゴツした真っ黒な岩肌で歩きにくいってところかな。もちろん中層以下は知らん」


 ここの気温って五十度だったんだ。それはボクも知らない情報だ。

 だって耐性の影響で暑さ感じないからどれだけ暑いかって考えたこと無かったもん。


「それなら面白いこと教えてあげるよ」


 ボク達はまだ入り口付近にいるけれど、その近くにもマグマが流れている。そのマグマの場所に移動してしゃがみ、手を入れた・・・・・


「何やって!?!?」


 慌てて京香さんが飛んで来たけれど、笑顔で大丈夫だって教えてあげる。


「ボクはマグマ耐性をカンストしてあるからマグマに触れても大丈夫だって京香さんには事前に伝えてあったでしょ」


 もしかして盛り上げるために敢えて演技したのかな。


「あ、いや、そうなんだが、知ってても心臓に悪いぞ。やるならやるって先に言ってくれよ」

「そうだったんだ。ごめんなさい」


 仮に耐性無くて腕が溶けてしまってもエリクサーで治せば良いだけなのに大袈裟だなぁ。


 "俺らの寿命も縮んだわ"

 "ほんとお願いだから先に説明して"

 "[シルバー友1] 心配させないで……"


「ぷぎゃっ!?」


 友1さんは……『私達に何かやってほしいことない?』って聞いてくれた女の人だ。


「心配かけてごめんなさい……」


 リスナーさんを少し驚かせようと思っただけなんだけどやりすぎたみたい。


 "友達の言葉が一番効果ありそう"

 "いつも俺らが何言っても伝わってない感じだもんなw"

 "一番効果あるのは家族会議だから"

 "これも家族会議案件では?"

 "先に友達が指摘してくれたからギリセーフなんじゃね?"


 ぷぎゃ!?

 家族会議レベルのやらかしだったの!?


「ごめんなさい! もうしません!」


 "焦っててかわいい"

 "よっぽど家族会議が嫌なんだなw"

 "友達に感謝しなよ"

 "むしろ友達さんもっと言ってやって"

 "[シルバー友1] がんばります!"


 お手柔らかにお願いします……


「そ、それじゃあ次にやること言いますね」


 驚かせようと思ったことの本番は実はこれからだったんだけれど、ちゃんと説明しないと怒られそうだから隠さず説明することにした。




「マグマを美味しく頂きます」




 これで今回は事前に言ったから怒られないよね。


「いやいやいや、何言ってるんだ!?」


 "マグマって食べられるものだっけ(錯乱)"

 "溶『岩』だから無理だろ"

 "ぶっ飛びすぎてて逆に冷静に分析してるの草"

 "事前に説明すれば良いって訳じゃなかったんだなぁ"

 "というか、これ説明なしでやられたら間違いなく家族会議ものだったろ"

 "何人かショックで死んでたかもしれん"

 "[シルバー友1] 心配させないでって言ったでしょ!"


 ちゃんと説明したのにどうして怒られるの!?


「安全だから心配しないで。それにね、実はすごい美味しいんだよ!」


 その証拠を見せてあげる。


 ボクは両手でマグマを掬うと、それを口の中に流し込んだ。


「ん~~~~!」

「救!?」

「おっいしー!」


 やっぱり富士山ダンジョンのマグマはダンジョン産食材の中では別格で美味しいね。


 "おかしいな、美味そうに見える"

 "満面の笑みで言われたらそりゃあね"

 "みんな知ってるか? あれマグマなんだぜ"

 "大丈夫と分かってても口をつけた瞬間ひぇってなる"

 "でも内心ではどんな味なのかちょっと気になってる"


「救、どんな味なんだ」

「すっごく美味しいよ!」

「そうじゃなくて食レポをだな」

「食……レポ?」

「どんな風に美味しいのかってこと」

「すっごく美味しいよ!」

「おうふ」


 だってすっごく美味しいんだもん


 "語彙力www"

 "そっかぁすっごく美味しいのかぁ"

 "食レポンコツだったかw"

 "コミュ障の割に言葉結構知ってるからちょっと期待してたのに"

 "伝わるだろ。すっごく美味しいんだよ"

 "いやぁ、美味しそうだな"

 "狂化様お願いします!"


「辛いとかしょっぱいとか、舌触りとか香りとか、何に似ているのかとか、そういうのだよ、そういうの」

「そういうことかぁ」


 うーん……………………


「すっごく美味しいよ!」

「おいコラ」


 "溜めて溜めて諦めたw"

 "いやこれわざとだろ"

 "救くんちゃんしてやったりの顔してるもんねw"

 "ドヤ顔かわいい"

 "なでなでしたくなる"


 あれ、冗談だってバレちゃったか。


「ええとね、さわやかな香りのする濃厚ソフトクリームって感じかな」


 ソフトクリームなんて幼いころに食べたっきりだからはっきり覚えてないけれど、多分そうだと思う。


「はぁ!? 甘いのか!?」

「うん、かなりね」

「マジかよ……てっきり辛いかと思ってたわ」


 赤黒いからなのかな。

 確かに甘そうな色には見えないけれど、ダンジョン産の食材なんて見た目詐欺多いしこのくらい普通だよ。


「そう言われてみると食べてみたくなるな……」

「京香さんは無理だよ」

「救にスキルで耐性かけてもらってもダメか?」

「食べることは出来るけど、スキル切れた瞬間にお腹の中が溶けて死ぬよ」

「うげ」


 だからマグマを食べるにはマグマ耐性をカンストさせないとダメなんだ。


「じゃあその耐性ってのはどうやれば……いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」

「?」


 耐性を得る方法なんて一つしか無いよね。

 それが分かったから質問を途中で切ったのかな。


 "狂化様、その質問止めても意味無いです"

 "全員やり方分かってますから"

 "この子絶対に体中を溶かしてますから"

 "エリクサーがあるもんね(白目)"

 "[シルバー友1] 美味しいんだ……"

 "お友達さんその道はダメだよ!?"

 "食欲に負けて全身マグマまみれはアカン"

 "でも気持ちは分かるんだよなぁ"

 "救ちゃんめっちゃおいしそうに食べてるもんな"


 皆は止めてるけれど、友達が食べたいって言うならどうにかして食べる方法を考えた方が良いかな。もちろん友達を死にそうな目になんて合わせないよ。もっと楽に耐性カンストさせる方法が分かれば……


 "救ちゃんが良からぬこと考えている気がする"

 "楽に耐性つけられればなぁとかだったりして"

 "そんなことになったらまた探索が楽になっちゃうじゃん!"

 "配信するたびに革命しか起こさないんだから……"

 "今回はまだ考えただけだからセーフ"


 革命だなんてまた大袈裟な。それに思いつくかどうかも分からないのに。

 あ、そうだ、でもこれだけは言っておかないと。


「ダンジョンのマグマと外の世界のマグマは別物だから、もしボクみたいにマグマ耐性カンストしてても外の世界のマグマを食べちゃダメだからね」


 ボクの動画を見て勘違いする人がいるかもしれないから注意しておかないとね。


「食べるか!」


 "食べるか!"

 "食べるか!"

 "食べるか!"

 "食べるか!"

 "食べるか!"

 "食べるか!"

 "食べるか!"

 "食べるか!"


 ぷぎゃああああああああ!

 注意しただけなのになんで怒るの!?

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