2. やっぱり無理いいいいいいいい!
「死ねぇええええ!」
ぷぎゃぁ!
何で襲ってくるの!?
話がしたいって言っただけなのに!
「おりゃあ! どりゃあ! ごるぁ!」
まるでショートソードを装備しているのではと思えるくらいのスピードで大剣を振るってくる。
『ステップ』と『縮地』を組みあわせた四方八方からの流れるような連撃がとても美しい。
『ステップ』は他の攻撃スキルと組み合わせることが可能だけれど遅い。
『縮地』は短距離移動しか出来ないけれど速い。
それぞれを適度に混ぜることで攻撃タイミングをボクに掴ませないように工夫している。
叫び声は力押しっぽいのに、確かな技が感じられる。
やっぱり彼女はボクが想像した通りに場数を踏んだ実力者だ。
「チッ、掠りもしないとは。やっぱりてめぇただもんじゃねーな」
そこでニヤリと笑っちゃうのか。
素のボクが話をする時はビビっちゃいそうだから、聖女モードでお願いします。
「
う~ん、全部避けるだけじゃ諦めてくれないか。
普通にお話したいだけなんだけどな。
落ち着いてよぅ。
「黙ってねーで反撃してこいよ!」
ええ……
だって痛いよ?
大丈夫?
人と戦う事なんてめったにないから、上手く手加減出来るか分からないんだよ。
「いくぞおるぁ!」
馬鹿丁寧に攻撃タイミング教えてくれなくても。
あ、フェイント入れた。
そこは考えてるのね。
しょうがないなぁ。
「な!?」
よし、上手く行った!
「う、動かねぇ。なんて力だ!」
上段振り下ろし攻撃を片手で受け止めるのに成功だ。
最初からこうすれば良かったんだけどさ、力加減に失敗して大剣壊しちゃったら悪いじゃん。
でも彼女が諦めないから結局やっちゃった。
「ぬおおおおおおおお!」
大剣をどうにか動かそうと頑張っているけれど無理だよ。
基礎ステータスとスキルレベルに差がありすぎるから。
後は反撃して諦めて貰おう。
でも反撃って言っても何処を攻撃すれば良いのだろう。
顔、は論外。
女性の顔を殴るなんてとんでもない。
胸、は論外。
女性の胸に触るなんてとんでもない。
お腹、は論外。
だってそこは、その、女の子の大事な器官があるから……とんでもない!
だから狙うのは腕や足や……そうだ、肩にしよう。
『指弾』
「ぐあああああああああ!」
あ、ごめん!
吹き飛ばされて壁に激突しちゃった。
痛そう。
手加減が足りなかったのかなぁ。
空気を圧縮して飛ばしただけだから平気かなと思ったんだけど。
ちなみに『指弾』スキルは、ダンジョン内で見つかる超硬い謎金属を使うと、レッドドラゴンすら貫通する。
もちろんスキルレベルカンストが必須だけどね。
「なんつー威力だ……この化け物め」
ぷぎゃぁ!
化け物扱いされちゃった!
普通の人間としてお話してもらいたいだけなのに。
ぐすん。
「だが、これで勝ったと……思うなよ!」
ええ、まだやるの。
力の差は歴然だって分かってると思うのに。
「ライトニングボルト!」
なるほど、魔法か。
彼女は戦士タイプに見えたから魔法を使うのは予想外だった。
しかもライトニングボルトっていうのが面白い。
雷撃を水平に飛ばす魔法なんだけれど、
「ライトニングボルト!ライトニングボルト!ライトニングボルト!何で効かねーんだよ!」
え、どういうこと?
ライトニングボルトは牽制で他の魔法が本命ってのがセオリーだよね。
ああ、分かった。
牽制とは言え、ボクが無反応で完全に無効化しちゃってるからか。
それだと牽制にならないもんね。
「マジかよ。分かってたはいたが差がありすぎんだろ」
おお、そろそろ折れてくれそうな気配だ。
こんな物騒なことは止めてお話しよ。
「は、はは、仕方ない」
え?
「これだけは使いたくなかったが、ここで負けるくらいならやってやる!」
あのーもしもし。
まだ何かやるんですか。
もう止めません?
「死ぬなよな!」
彼女は両手を頭上に掲げて何かを唱え始めた。
嘘でしょ。
まさかその魔法を使うなんて。
「いくらお前でも、これをまともに喰らったらタダでは済まないだろ」
そもそもまともに喰らう方が難しいんですけど。
その魔法は発動までに十秒詠唱が必要だから無防備なんだって。
今殴り放題なんだけど分かってる?
指弾の準備をしてみる。
「…………」
あ、焦ってる。
何も飛ばさないで親指弾いてみる。
「ひっ!」
びくんとした。
ちょっと面白い。
えいっ
「ひっ!」
えいっ
「ひっ!」
あはは、おもしろ~い。
「てめぇ!」
怒らせちゃったかな。
でも一対一の勝負で致命的な隙を晒す方が悪いでしょ。
そうこう遊んでいるうちに、詠唱が終わったみたい。
「攻撃しなかったことを後悔しやがれ! フレア!」
直径一メートルほどのマグマの球体が彼女の頭上に浮いている。
それを投げつけて攻撃するのが『フレア』の魔法だ。
長い詠唱が必要というデメリットがある分、威力は申し分ない。
スピード遅いから避けられちゃうけどね。
だからフレアを使うには、詠唱の間に仲間に守ってもらう必要があり、しかも確実に当てられるように相手の動きを封じる必要もあるのだ。
「てめぇは逃げねぇよな!」
あ~なるほど。
どうりで戦い慣れしてそうな彼女がこんな無意味なことをするはずだ。
実力に差がありすぎているから、ボクが敢えて受けて立つと分かっていたんだね。
それじゃあお言葉に甘えて。
「
「え?」
フレアのもう一つの大きな弱点。
それは反射系スキルで簡単に跳ね返されるところだ。
なお、何故か魔物が使うフレアは反射出来ないことが多い。
ずるい!
「
「え?」
逃げ道も封鎖しておこう。
「ま、待て待て待て待て。来るなああああ!」
あれ、もしかしてフレア対策出来てない感じ?
それじゃあここの中層以降は突破できないよ。
だってあいつら、息を吐くようにフレア連発してくるんだもん。
しかもボスなんか、詠唱無し反射無しで連射してくるんだ。
卑怯極まりないよ。
おっと、このままじゃ彼女が消滅しちゃう。
「アンチフレア」
フレアを消すためだけの魔法だから、フレアを使う敵と戦わなければ覚える必要が無い。
きっと彼女はまだ出会ったことが無かったのか、それとも回避して対応してたのかな。
禍々しいマグマの塊は、あっさりと消え去った。
「…………」
しまった。
ちょっと脅かしすぎちゃったかな。
グリーンドラゴンの威圧を受けた時みたいに、怖がらせちゃった。
「『
精神状態が狂った時に使うと沈静化してくれるスキルで彼女の心を癒すと、落ち着きを取り戻してくれた。
「こ、こほん。醜態をお見せしてしまいましたね」
良かった、聖女モードに戻っている。
これでお話できるね。
「全くだ。それで、まだやるのか」
「いいえ、私の完敗です。これ以上何をしても、貴方に傷一つつけられないでしょう」
にっこりと柔らかな笑顔を浮かべている。
先程までのオラオラ系とのギャップにまだ全然慣れないや。
「何故襲い掛かって来たのかは分からんが、これで話をしてもらえることになったのか?」
「……その前におひとつお聞かせください」
「何だ」
まだ条件あるのぉ!?
「年齢はおいくつですか?」
「は?」
「あなたの年齢です」
どうしてここで年齢を聞いて来るのだろう。
別に隠してないから良いけどさ。
「十八だ」
「…………本当に?」
「本当だ。あいにくと今すぐに証拠は見せられないがな」
アレ見せろって言われたらどうしよう。
多分怒られるよね……
「分かりました。信じましょう」
良かった、何も言われなかった。
でもその代わりに、彼女の目がギラリと怪しく光ったような気がする。
まるで獲物を前に舌なめずりしているかのような……
いやいやまさか。
だって年齢聞かれて答えただけだよ。
「ふむ、では細かい話をしよう」
「え?」
「ぬ?」
何で驚いているんだろう。
「細かい話って何ですか?」
「話相手になってもらいたいと言っただろう。その具体的な理由と方法についてだ」
「え?」
「ぬ?」
また驚いている。
あるぇ、ボク、何か勘違いさせるようなこと言ったっけ?
「とりあえず聞きましょう」
「うむ。助かる」
彼女は腑に落ちないと言った感じだったけれど、聞いてくれるならまぁいっか。
「誠に恥ずかしい話ではあるのだが、我は本来このような話し方をせぬ」
「はぁ」
「この仮面を外すと上手く話をすることが出来なくてな。いわゆるコミュ障というやつだ」
「はぁ……?」
恥ずかしいことでも仮面をつけると堂々と言えるね。
「だがそれを治したいと思ってな。貴様には我が素の姿で話をする練習相手になってもらいたいのだ」
「はぁ…………ええええええええ!?」
あはは、シルバーマスクが実はコミュ障だったなんて知ってびっくりしてる。
そりゃあこんな尊大な態度をとってるような奴がコミュ障だなんて聞いたらそうもなるよね。
「ま、待って。私と話したかったんじゃないの?」
「そうだと言ってるだろう」
「ああもう、そうじゃなくて、私が目当てだったんじゃないの?」
「ぬ? どういう意味だ」
「だから、私じゃなくても良かったのって言ってるの!」
「ああ。このダンジョンに来た者に頼もうと思っていた」
「…………」
口をパクパクさせて絶句してる。
何でそうなるのかな。
やっぱりボクには意味が分からないよ。
「それで結局どうなんだ。話し相手になってもらえるのか?」
彼女は慌てて腕に巻いた何らかの機械を見ながら独り言を言い出した。
あまり歓迎されてない空気が漂っている気がする。
やっぱりいつまでもこんな仮面をつけていたら信用してもらえないか。
「ふむ、では我の言葉が真実であることを証明してみせよう。答えはそれからでも良い」
「え?」
ボクは銀色の仮面に手を伸ばすとそれをそっと外した。
「…………」
「…………」
とても美しく可愛らしい彼女の顔が、直接目に飛び込んでくる。
その途端に、ボクの心臓はバクバクと高鳴り、嫌な汗がダラダラと流れ出す。
「……え……超可愛いんだけど」
彼女が何かを言ってるけれど、全く耳に入って来ない。
視線を合わせられず、縦横無尽に彷徨う。
言葉を発しようにも舌が上手く回らない。
見られていると思うと、それだけで恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。
「ぷぎゃああああああああ! やっぱり無理いいいいいいいい!」
結局、ボクはその場を逃げ出してしまったのだった。
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