コミュ障ダンジョン探索者、人助けしまくってたことがバレて感謝されすぎる ~やめて! もう感謝しないで!~

マノイ

第一部

コミュ障、正体バレする

1. ダンジョンは良いぞ

「よし、今日はこのくらいかな」


 まだ体力には余裕があるけれど、キリが良いので終わりにしようっと。


「ドラゴンさん。毎回ごめんね」


 レッドドラゴン。

 その名前の通り、全身が赤い鱗で覆われた火属性の西洋竜。


 ちょっと・・・・硬いけれど、今回も無事に討伐出来た。

 全長五メートル以上ありそうな巨体が光の粒になって消えて行く様子はいつ見ても綺麗だな。


「バイバイ、またね」


 ダンジョンは良いぞ。

 魔物達は言葉が通じないから会話しなくて良いんだもん。

 それに問答無用でボク達『探索者』を殺しに来るから気兼ねなく触れ合える。


「今回のボストレジャーは何かなぁ~」


 ダンジョンは良いぞ。

 特にボス部屋なんて最高だ。

 だって周りにはボクとボスしか居ないから人の目を気にしなくて良いし独り言を言い放題!


「やった完全回復薬エリクサーだ。丁度喉が渇いてたんだよね」


 ダンジョンは良いぞ。

 美味しい物をタダで食べ放題、飲み放題。

 フィールド型ダンジョンなら一人BBQだって出来ちゃうんだ。


「ぷはぁ、やっぱりエリクサーは甘くておいしいや」


 疲れた体に染みわたって最高!

 これを知ったらもうエナジードリンクなんて飲めないよ。


「今日も誰も来なかったな……」


 ボク、槍杉やりすぎ すくいが今いるダンジョンは日本国内にある十個の最難関ダンジョンの一つ、奥多摩ダンジョン。

 最難関とは言われているけれど、上層ならば探索出来る人がそれなりにいるみたいで、少し前までは探索者の姿を見かけたものだった。

 でもここしばらくは誰も入ってくる様子が無い。


「ダンジョンから魔物が溢れたらどうするつもりなんだろう」


 ダンジョンに誰も入らずに放置していると、魔物が外に出て行って大惨事を引き起こしてしまう。

 特にここみたいな最難関ダンジョンは強力な魔物ばかりが生息しているから外に出たら被害が甚大だ。

 それなのに探索者が誰も来ないなんて、意味が分からない。


「ボクだっていつまでも掃除・・を続けられるってわけじゃ無いのに」


 ダンジョンに引きこもるようになって何年経っただろうか。

 深層で一人寝泊まりする日々を続けているうちに、他人との接し方が分からなくなってしまった。

 でもダンジョンがいつまでもあるとは限らない。

 百年前に突然出現した時と同様に、突然無くなる可能性だってあるんだ。


 そうなったらボクは外の世界で生きていけるだろうか。

 いや、無理だ。


 コミュ障を治したい。

 でもいきなり外の世界で誰かに話しかけるのはハードルが高すぎる。


 それなら同業者ならどうだろうか。

 共通の話題があればお話し出来るかもしれない。

 しかもここならやってくる人が少ないから誰にも邪魔されずに一対一でお話しできるかも。


 そう、思っていたのに。


「何で誰も来ないの~!」


 しくしく。

 気分は雨模様。


 そんな時はアレをやるしかないね。


「最後にもう一度ダンジョン内を見て周ろうっと」


 今日の探索は終わりにするつもりだったけれど、延長戦をしよう。


「いっくよー」


 ボス部屋から外に出ると、上層に向かってひたすら走る。

 猛ダッシュで魔物を轢き殺すのが超爽快!


「ざぁ~こ、ざぁ~こ、あはははは」


 頭を空っぽにして本能が赴くままに暴れるのがポイントだ。

 誰も居ないダンジョンだからこそ出来る、ボクにしか出来ない最高のストレス発散方法。


 このダンジョンの中層以下はフィールド型だから壁とか気にせずに目一杯走れる。

 上層は典型的な石造りの迷路になっていて、走るには不向きだから上層まで着いたところで轢殺れきさつマラソンを終わりにする。


「はぁ~スッキリした」


 ビバ、現実逃避。

 ダンジョン内の掃除も進められて一石二鳥。


 これで今日も気持ち良く寝れそうだ。


「きゃああああああああ!」

「ぷぎゃぁ!」


 びっくりしたぁ。


 これってまさか悲鳴かな。

 もしかして探索者がいるの!?


 助けに行かなくちゃ!


「こ、来ないで!」


 うわ、凄い美人さんだ。

 年齢はボクと同じ十代っぽい。

 細身の体には似合わない程の大剣を構えている姿がとても様になっていて格好良い。


 でも顔が恐怖に歪んで全身が震えてパニックになりかけている。


「グルルルル!」


 あ~グリーンドラゴンか。

 あの子は耐性が足りてないんだね。


 彼女が襲われているのはグリーンドラゴン(小)。

 見た目はレッドドラゴンと同じく西洋竜だけど、色はその名の通り緑色。

 魔法は使わずブレスも吐かず体表もドラゴン種族の中では柔らかい方。

 噛みつき、爪、尻尾などの物理攻撃の威力はとても高いけれど、行動スピードが遅いので避けるのも逃げるのも簡単。


 なんだけど。


 『威圧』スキルを持っているのが厄介なんだよね。

 グリーンドラゴンの『威圧』スキルはレベルが高くてレジストするにはそれなりの恐怖耐性が必要で、足りてないとこの女性みたいに悲鳴をあげて恐怖に打ち震えてしまう。


「とりあえず様子見かな」

 

 命の危機というのは探索者としての成長のチャンスでもある。だからここで安易に助けに入ることが必ずしも良いとは限らない。

 ということを昔、人助けをした時に怒られたことがあるんだ。

 だから死にそうになるまでは手を出さないつもりだけど、どうなるかな。


「うぅ…………はぁっ!」


 おお、気合を入れて恐怖を乗り越えた。


 きりっとした戦士の顔に戻っていた。

 改めて、かなりの美人さんだと思う。

 キリっとした表情が格好良くて、それでいて何処となく可愛らしさもある。


 あの見た目なら相当人気あるだろうな。


「つまんねぇ真似しやがって。覚悟は出来てんだろうな」


 わぁお、勇ましい。


 彼女はスキル『ステップ』を使い高速でドラゴンに接近し、ドラゴンに大剣を叩きつけた。

 そしてドラゴンが反撃するより先に再び『ステップ』を使って後ろに飛んで攻撃を回避する。


 このヒットアンドアウェイ戦法が、近接攻撃が得意な探索者によるグリーンドラゴン(小)のテンプレ攻略法。


「が~んばれ、が~んばれ」


 声が出ちゃったけれど、消音スキルで消しているから彼女には気付かれていないはず。

 もちろん隠密系スキルで存在も消してるよ。


「何だ、ただの木偶じゃねーか」


 正解です。

 『威圧』さえ耐えられれば、上層の中では一番弱い敵だもん。


 まぁ、その『威圧』が厄介なんだけどね。


「これで止めだ!死ね!」


 彼女は大剣を一際力強くグリーンドラゴンに叩きつけ、無事に撃破した。


「わ~ぱちぱち。おめでと~」


 さて、ここからが問題だね。


 ようやくやってきた探索者。

 ボクのコミュ障克服の助けになってくれると良いな。


 そのためには、ここで彼女の前に姿を現さないと。

 だからといって自然に話しかけられるようならばコミュ障なんてやっていない。


 ならどうするかって?

 ふふふ、ご安心ください。


 ボクには秘密兵器があるんです。


 て~れってれ~


 銀色の仮面~


 のっぺりとした表情の無いシンプルな銀色の仮面。

 これには精神を安定させる系統のスキルをこれでもかと言うくらいに付与している。


 まずはこれをつけて話をして協力をとりつけ、仮面無しで話をする練習相手になってもらう。

 完璧な作戦だ。


 彼女がここを移動する前に作戦を開始する。


 パチパチパチ。


「誰だ!」


 各種スキルを解除し、グリーンドラゴン討伐おめでとうの拍手をしながら彼女の前に姿を見せる。


「まずはおめでとうと言っておこうか、女。だがあの程度の『威圧』に耐えられないようでは、ここではやっていけないぞ」


 口調がおかしいって?

 これじゃないとまともにお話出来ないんだもん……


「シルバーマスク!?」


 あれ、彼女はボクの事を知ってるんだ。

 正確にはこの銀色の仮面を被ったボクのこと。


 長い探索者生活、これまでずっと誰とも会わずに過ごしていたわけではない。


 例えば今回みたいに悲鳴を聞いて誰かを助けに行くことが結構あった。

 その時に毎回この仮面をつけていたからか、いつの間にか『シルバーマスク』って呼ばれるようになってたんだ。


 正直、恥ずかしい。

 めっちゃ恥ずかしい。

 せめてもう少し格好良い名前にしてくれなかったのかと思うけれど、定着しちゃったから文句も言えない。


「何のよう……いえ、何か御用ですか?」

「ぬ?」


 獰猛な雰囲気がいきなり消えた。


「どうしましたか?」


 おっとりとして聖女のような笑みを浮かべている。

 全くの別人じゃないか。


 ま、まぁボクも仮面を被っている時は尊大な奴になっちゃってるし、触れないでおこう。


「なぁに、大した話では無い。グリーンドラゴンを屠れる程の実力の持ち主である君に、少しばかりお願いがあってね」

「先程は実力不足だと言われたような気がするのですが」

「不快にさせたのなら謝罪しよう。だがあれはスキルレベルが足りていないことを指摘しただけのこと。どうにでもなる。それよりも正気を取り戻してからの戦いぶりが実に鮮やかで見事だった」


 これまでに修羅場をくぐって戦い慣れた人の動きだった。

 彼女は間違いなく探索者の中で強い方だろう。


「まさかシルバーマスクさんにそんなに褒めて頂けるとは思わなかったです。ありがとうございます」

「事実を言ったまでに過ぎない。それでお願いは聞いてもらえるのか?」

「内容次第です」

「当然だな」


 うわぁ、緊張して来た。

 話し相手になってもらえるかな。


「簡単なことだ。少しばかり話相手になってもらいたい」

「へぇ……話し相手に……ねぇ」


 あれ?

 目の色が怪しくなって来たぞ。

 変わらず笑っているのに、張り詰めた空気が漂っている。


「念のため確認しますけれど、私とお話をしたい、というのがお願いですか?」

「そうだ」

「そうですか……」


 あの、なんで大剣を手にしたんですか。

 あの、なんでボクに向かって構えているんですか。

 あの、なんでこっちに突撃して来るのぉ!?

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