奈落の底にて

kaname24

奈落の底にて

空気の薄い、この神殿で我は目覚めた。我は水のヴェールを纏い、遠見の術を行使する事であの地に住む人々を観測する。人々は活気よく日々を謳歌しているようで、前に観測した時よりも人の文明は発達し、王国は繁栄の道を辿っている様だ。


逆に衰退の道を進むモノたちもいる様で、崩壊の足音がすぐそこまで聞こえて来る。あの国はもうすぐ内乱が悪化し、善良なる市民たちが起こす革命によって確変がもたらされるだろう。その時は是非我も見届けたいものだな。


そして冒険者達の歩みは完全に止まっており、迷宮は未だに踏破されていない。はぁ...冒険者とは未知の領域を踏み入れ、踏破するもの達の総称では無かったのか。今の冒険者は安定を求め、ただ迷宮が産み出す財宝を求めるばかり。これでは宙を駆け、我らをも狩ろうとしているグライダーの方がマシだ。


嗚呼、我と死闘を繰り広げ、我から命からがらに逃げ延びた祝福を施せしあの者は何時になったら我のもとまで落ちて来る事か。我自ら会いに行ってもいいのだが、上がった所で領域外に逃げられるのがオチだ。故に我の眷属をけしかけて、彼らの闘いを眺める事しかできないがもどかしい。


いつかあの塔から祝福されし愛し子が、この奈落まで落ちて来るその時まであの者の物語人生を見届けよう。そして我と共にこの空でもう一度死闘を演じようか。


我は終末をもたらす厄災、流麗の主ラズリュー。いつか流転の日が来るまで、この神殿にて人々を観測せし者。

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