第3話

 クラスメイトたちの列を囲むように、棒を右手に持った人たち――さっき見た落ち武者より身軽な服装で武装している――が、どこかに誘導するように歩いている。歩くといっても彼らには足がないようで、浮かんでいるような。


「先生……みんな、危ないかもしれない」

 とたんに空が暗くなる。

 さっきまで見えていたはずの遊園地の観覧車が消えた。

 外の景色が違う世界のように感じる。

 どこかの会社の駐車場だったはずの景色じゃなく、浜辺に変わっていた。沖に見えている船、浜辺で倒れている人、すべてが古い時代のもの。

「先生は、どう見えてますか?」

 あいかわらず、足は動かない。喋れるだけまだいいのかもしれない。腕や首は動かせる。

「どうって……駐車場じゃないの?」

 私だけ、違うものがみえている?

「先生は、バスから降りないでください」

「降りないわよ。家まで送らなきゃいけないんだから。それで、何が視えてるの?」

「先生って、古文ですよね。歴史……戦国時代とか、そのあたり、わかりますか?」

「古文を好きになったきっかけは、万葉集の和歌だったんだけど……平家物語を読んで、歴史も調べるようになったから」

「外の景色なんですが、この辺りは浜辺になっていて、沖には船がたくさん……あれは水軍なのかも」

 冷静に見たまんまを伝える。恐怖心がそれで和らぐとは思ってもなかった。

「さっき、お城のあとがありました。水軍がきてるってことは、割と大掛かりないくさがあったんでしょうか」

 父親が毎週日曜日に大河ドラマを観ているので、多少は影響されている。

「あの城址じょうしは水軍を擁する武将が城主だったらしいわね」

 

 そのとき、たくさんの人の掛け声と何かの衝撃音のようなものが、辺りに響き渡った。と同時に、切羽詰まる人の想いと恨みがましい言葉や憤りが、頭の中になだれ込んできた。

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