佇む

香坂 壱霧

第1話

 楽しみにしていた遠足――

 だったのに、なぜ、私はあのとき……


  🏯  🏯  🏯


 中学一年の二学期の遠足は、遊園地だった。地元にある小さな遊園地は、アトラクションは少ない。

 それでも遠足というだけで、気分はあがっていた。

 いつもの遠足は歩いていくものだけど、その遊園地が選ばれた場合、バスでの移動になるというのも、あがる要因だと思う。歩く距離が少ないのは、インドアな私にとってありがたくもあった。


「あと五分で到着しまーす。トランプやおやつを片付けて、忘れ物がないように荷物をまとめましょう!」

 担任の野本先生が、大きな声で呼びかける。

 騒然とした車内で、私はぼんやり外の景色を見ていた。

 遊園地の看板が見える。

 その隣に小さな別の看板みたいなものがある。はっきり見えなかったけど、【城】という文字は見えた。

「城……城址じょうしかな。この小高い丘みたいな、山みたいな……ここに、お城があったんだ……」

 私はしみじみとつぶやいた。


 信号で、バスが一時停車した。

 ふたたび窓の外を眺めると、田んぼの畦道の手前に人が立っていて――それも鎧を着た……

 舞台が戦国時代の大河ドラマにでてくるような、黒い武者姿。でも、あちこちぼろぼろで、その人の顔は青白くて……

「ねっ、あそこに男の人っ」

 と、隣に座るクラスメートに声をかける。クラスメートは首を傾げながら「誰もいないよ」と言った。

 長い時間、バスは停まっていた。

「この先で、事故があったようです! 到着が遅れますが、ちゃんと遊園地には行きます。もうしばらく、バスの中にいましょう!」

 担任が、大きな声で言う。

 事故?

 窓の外の男の人は、この道の先の何かを見ているようだった。彼が見えているのは私だけらしい。そして私は、彼から目を離せない。

 彼は何を見ているんだろう……?

 引き込まれるように見ていると、彼が私を、見た。

 私に気づいたらしい。

 

 

 

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