第3話 ラブリオン

「女王が述べられましたように、今我らの国は北に位置する『緑の国』と東に位置する『白の国』に狙われています。両国ともこの青の国を遥かに凌ぐ力を持っておりますが、二国の力が均衡しているため、一方が下手に我が国に手を出せば、そのスキをつかれてもう一方の国に攻め込まれることになり、両国とも今のところは目立った動きをすることができないでいます。ですが、このような微妙なバランスがいつまでも続くとも思えません」


「確かに。どちらかが少しでも相手を上回る力を手に入れればこの安定は破れ、この国も簡単に落ちるということか」


 一度の説明で自分の言うことを簡単に理解した丈の聡明さに感心しながら、ルフィーニは軽くうなずく。


「はい。ですから、我々としては国力の低い、西にある『茶の国』を併合し、一刻も早く『緑の国』や『白の国』と肩を並べられるだけの力を持たなくてはならないのです」


「この国が置かれている状況はだいたいわかった。しかし、それとオレ達とがどうかかわってくるんだ?」


「我々の世界における戦争では、ラブリオンという兵器が用いられています。そのラブリオンは人の持つ愛の力──ラブパワーを動力源としており、そのラブパワーの大きさによりラブリオンの能力は大きく左右されます。しかしながら、我々はラブパワーの元となる『愛』というものを持っておりません。そこで、愛に溢れた世界と言われる伝説の世界──つまりジョー様達の世界から最も強いラブパワーを持つ方を召還させていただくことになったのです」


「最も強いラブパワーを持つ者って、それってもしかして……」


「はい。あなた方のことです」


 椎名と丈は複雑な表情をして互いに顔を見合わせる。面と向かって真面目に愛の力が一番大きいと言われても、普通嬉しさはあまりこみ上げてこないだろう。むしろ、恥ずかしいだけである。


「……ところで、先程の説明の中にあったラブリオンというのは一体どういったものなんだ?」


「丁度格納庫に着きましたし、実際に見ていただくのが一番だと思います」


 重い鉄の扉の前にたどり着いた三人はそこで足を止めた。ルフィーニは扉の脇についているドアのインターホンのような機械に歩み寄り、カバーを開けて中のキーを操作する。すると、音もなく扉が左右に分かれ、自動ドアのように開いた。


 中の様子は椎名と丈を仰天させるに十分だった。


 そこはドーム球場程の広さがあり、その中には全長十メートルにも達する巨人が何人も佇んでいた。

 しかし、よくよく見ればそれらが巨人などでないことはすぐに知れる。それらは人の形をしたロボットだった。

 ロボットとはいえ、角張った感じではなく曲線中心のデザインであるため、それが生物的な印象を生んでいる。材質的にも金属のような硬質なものではなく、むしろプラスチックのような軽やかで柔軟性のあるものが用いられているように見える。

 また、色に関しては、各機ごとに微妙な違いはあるものの、すべてが青を基調としたカラーリングをされていた。


「な、なんなんだこれは?」


「これがラブリオンです」


 打ち合わせをしていたかのようなピッタリのタイミングで、椎名と丈は声の主、ルフィーニに首を向けた。


「こんなものを開発する科学力があるというのか……。異世界から人間を呼びよせるというのも納得がいく」


「ちょっと! まさか、俺達をこんなのに乗せる気じゃないよな!?」


 丈はその技術に感心し、椎名は血相変えてルフィーニに問いかけた。


「はい。そのまさかです」


 二人の動揺を感じないのか、ルフィーニはしれっとした顔で言い放つ。


「特別に用意したラブリオンがあちらにあります。ついて来て下さい」


 返事も待たずに歩き出したルフィーニは、しばらく歩いた後、一機のラブリオンの前で立ち止まった。


「これがあなた方のためにカスタムメイドされたラブリオン。名前をブラオヴィントと言います」


 ブラオヴィントと呼ばれたそのラブリオンは、他のマシンよりも一際澄んだスカイブルーをしており、腕と足に白いラインが入っていた。その姿はどのマシンよりも凛々しく力強い感じがする。


「これに俺達が乗るっていうのか……。でも、これ一機だけ? 俺達は二人いるけど」


「予定では、召喚するのは最も強いラブパワーを持つ方一人だけでした。しかし、どういうわけか実際にはあなた方二人が召喚されて来たのです」


「じゃあ俺達のうち、一人は余計ってことか?」


「それなら、こんなものに乗るのもどちらか一人でいいんだな」


「それに関しては安心してください。元々、召還する戦士のためのマシンは、候補として二つ用意されていました。その後審議の末、このブラオヴィントが正式採用されましたが、その時のもう一方が残っております」


「選ばれなかったってことは、ブラオヴィントよりも劣っているということか?」


「いえ、そんなことはありません。能力的にはブラオヴィントにも全く引けはとらないはずです。どちらが選ばれるかは、言ってみれば好みの問題ですから」


「そういうものなのか?」


 丈は納得できずに首を捻る。口元だけに笑みを浮かべているルフィーニの様子からは、冗談なのか本気なのかはうかがい知ることはできない。


「で、そのもう一機はどこに?」


 一方の椎名は首を左右に振ってそれらしき機体を探そうとする。


「フフ。いくら探してもここにはありませんよ。それは、まだラブリオンとしての形をなしてはいないのですから」


「どういうことだ?」


「……これから儀式が始まります。見に行きましょう」


「儀式?」


 椎名と丈は、互いに不思議そうな顔を見合わせる。


「ついて来てください」


 二人は再びルフィーニの後を追った。

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