第6話 勉強会 ①
朝倉さんの連絡先をゲットするという太一からのミッションをなんとか乗り切った週の日曜日、太一の思惑通り三人での勉強会が開催されるという運びとなった。朝倉さんに勉強会の提案をしたところあっさりとOKが貰えた為である。まぁあの小テストの点数では当然だろう。
唯一の誤算といえば、当初は俺と朝倉さんで太一の勉強を見るはずだったのだが、俺が朝倉さんと太一の勉強を見る流れになりそうというか確実にそうなることだ。
まぁ太一の方に関しては、ある秘策があるので正直そこまで大変ではない。なので少し苦戦しそうなのは朝倉さんの方かもしれない。
肝心の勉強する場所として、最初はどっちかの地域の図書館でやろうかと考えていたが、朝倉さんの地域の方には、ミッションの日に遭遇した例のなんともヤバそうな上級生がいるので、朝倉さんには申し訳ないがわざわざこちら側に来てもらうことにした。そして、こちら側の図書館で勉強会しようかと思ったが、期末テストまで三週間を切っているこの時期に、図書館で勉強する学生は割と多いだろう。そうなれば、俺と太一が朝倉さんと一緒に勉強している姿をクラスメイトに目撃されようものなら、もうお察しである。よって、結論は俺の家でやることに決定した。
「今から莉奈ちゃんに会えるぜ。生莉奈ちゃんだぞ、生莉奈ちゃん。見てみろくっすー、俺の大腿四頭筋の気分も舞い上がってるぜ」
あれ? デジャブかな?
「朝倉さんに手を振ってもらっただけで倒れた奴が何を言ってるんだよ」
「あれは油断しただけだ。初対面の俺に手を振ってくれるなんて……それが来ると分かっていれば倒れなかったさ」
「うん、分かったらエスパーだけどな」
現在、俺と太一は俺の家から一番近い駅に朝倉さんをお迎えに行っている最中である。
「家の場所は伝えたから一人で来れるだろう」と俺は太一に言ったのだが、「くっすーの馬鹿野郎! 来る途中にナンパでもされたらどうするんだ。くっすがーそんな薄情な奴だったとは……俺の大胸筋も泣いてるぜ」と叱責された為、お迎えに行くことになった。
朝倉さんにもその件を伝え、ついでに家に着くまでの道中、朝倉さんだとバレないような格好をしてほしいということも伝えてある。これももちろんクラスメイト対策である。
「それにしても、やっぱり解せないなぁ……普通こんな上手くいくか?」
「まだ言ってんの? 上手く事が運ぶに越したことはないだろ」
「いやそりゃあそうなんだが、突然男が高校に押しかけて連絡先を教えてくれって言われて教えるか? しかも会って二回目だろ? もしかして俺でも聞き出せたんじゃないか?」
「そ、それはどうだろうなぁ~」
太一の言う通り、いくら一度面識があるからって普通に考えて、急に学校に来た男に連絡先を教えてくれと言われ簡単に教える女なんていないだろう。そんな男は冷静に考えて怖い。だから、太一が未だに納得がいっていないのは凄く分かる。俺も太一と同じで何も事情を知らない立場だったら、同じように疑問を抱く。
「もしかして、くっすーお前実は……」
太一が何かに気付いたようにこちらを向いた。
また何かしらの勘が働いたのかもしれない。太一の勘は意外にも鋭い時がある。この前だって半分正解で半分不正解だったが、なかなかに良い勘をしていた。
俺はどんな言葉が出てくるのかと、内心ドキドキしながら息を呑んだ。
「意外と女たらしだったのか」
「ぶっ飛ばすぞ」
どうやら今回の太一の勘は不発だったようだ。緊張して損した。
そうこうしながらも俺と太一は駅に到着した。 薄っすらと汗が滲んだ額を腕で拭う。
「俺飲み物買ってくるわ。あと適当に何かつまめる物も」
「ありがとう太一」
俺と太一が駅に着いてから十分程した駅に電車が到着した。改札口から朝倉さんが出てきた。
「おはよ楠川君、あれ? 一人?」
「太一は今、飲み物と簡単につまめる物買いに行ってる」
「あ、そうなんだ」
朝倉さんの私服は上着は白の長袖のブラウスに、下は太もも辺りまでの長さのベルトが付いた黒いワイドレッグパンツという服装をしていた。そして頭には帽子を被り、縁の丸い眼鏡をかけ極力顔バレしないようカモフラージュしてくれていた。
それにしても、本当に女子高生かと思いたくなるような大人っぽい雰囲気である。太一が自分には勿体ない高嶺の花だと言っていた気持ちが分からなくもない。
「なんか、ごめんね。わざわざお迎えにきてもらっちゃって」
「俺は家は教えてあるって言ったんだが、太一に朝倉さんがナンパされたらどうするんだって怒られたからな」
「あはは、古賀君は優しいね。誰かさんとは大違い」
「悪かったな、気が利かなくて。俺のスタンスはもう知ってるだろ」
「女は嫌い、でしょ? でも何だかんだ言いつつも聞いてくれるんだよね」
「俺の中で朝倉さんは女としてカウントされてないのかもな」
「えーひどーい」
ぷくっと頬を膨らませジト目を向けてくる朝倉さん。しかしすぐに、あははと笑顔になった。
「くっすーお待たせ、買ってきたぜ。おっ、莉奈ちゃん着いてたのか、おはよう」
「古賀君おはよ。ねぇ聞いてよ楠川君が私の事男だって言うんだよ?」
「いや、そこまでは言ってないだろ」
「おいくっすー、お前莉奈ちゃんにそんな酷い事言ったのか? 貴様のコーラだけめちゃくちゃ振っといてやるからな」
「やっちゃえ、やっちゃえ」
「絶対やめろよ」
太一も合流し、騒がしくも俺の家へと向かった。
無事、クラスメイトと遭遇することなく家に到着した。玄関を開けようとしたら鍵が掛かっており、自分の財布から家の鍵を取り出し開ける。どうやら父さんと母さんは出かけてしまったようだ。
「どうぞ」
「「お邪魔します」」
家の中へと入り、二階の自分の部屋へと案内する。
俺の部屋は特に派手というわけでもなく、ごくごく普通の部屋である。勉強机の横にベッド、そして漫画本が入った本棚があり、フローリングの床にはカーペットを敷いてテーブルが置いてある。そのテーブルの対角線上、丁度部屋の隅の方にテレビを設置している。
「くっすーの部屋に入るのも久しぶりだなぁ」
「そうだっけ?」
「楠川君の部屋、へぇ~こんな感じなんだ」
あれ? そういえば部屋に女を上げるの初めてな気がする。逆に女の部屋に入ったこともないけど。
彼女が居た時もお家デートみたいなことはしなかった。家にどう誘えばいいのかわからなかったし、家に呼んだところでできることなんて限られている。だから、外でのデートしかしたことがないのだ。
「さて、じゃあ勉強始めるか」
「え~もう? 今歩いてきたばっかりなんだぜ。ちょっと休憩してからでよくね? それまでゲームしようぜゲーム」
「太一はここに何しにきたんだ。朝倉さんを見てみろ、早速教科書を準備してるぞ」
「え、あ、ごめん。私ったら急ぎ過ぎちゃったかな。ゲームするのよね?」
「いやしないから。まずは勉強が優先だから」
「ちぇーわかったよ」
渋々ながら太一も教科書を準備する。
もし今休憩という名のゲーム大会が始まったら、間違いなく勉強会が始まる前に終了のお知らせとなる。過去の自分から学んでいることだ。
二人が教科書を取り出し終わる。
「あれ? 莉奈ちゃん、なんでそんな遠くに……ここ、俺の横が空いてるぜ」
「あ、これは、その……」
太一が朝倉さんのポジショニングに反応した。
今、それぞれの配置は四角いテーブルにまず、俺が座っており、右隣に太一、左隣に朝倉さんという形で座っている。太一の中では、太一を真ん中として両隣に俺と朝倉さんが座るという予定だったのだろう。
「太一、残念だが朝倉さんは勉強を教える側じゃなく、教わる側だ」
「えっ?」
「お、お恥ずかしながら……私勉強苦手だから……」
「そん……な……じゃあ莉奈ちゃんが俺の横で懇切丁寧に教えてくれるというシチュエーションは……」
「ない!」
「ごめんね古賀君」
「ちくしょー!!! ならこんな勉強会意味ないじゃないか!!!」
「太一、勉強会とは勉強をする会だ」
「で、でも大丈夫だよ、古賀君。私が勉強できるようになったら教えてあげるから」
「あ、そっか! その手があったか! いや待てよ! ということはその逆も然りで、俺が勉強できるようになったら莉奈ちゃんに教えてあげられるのか」
「まぁ、そういうことだな」
「おいくっすー、早く莉奈ちゃんに全身全霊で勉強を教えろ! 俺にも全身全霊で勉強を教えろ!」
「無茶を言うな」
朝倉さんの一言で元気が出た太一。なんて単純なんだ。
「というか太一、実は太一にはとっておきの物があるんだ」
そう言って俺は太一の前に数枚のプリントを差し出した。
「なんだよこれ」
「俺が作ったそのプリントをやれば、太一でも五十点ぐらいは点数が取れるという魔法のプリントだ」
「マジで!」
そう。これが太一にだけ用意した俺の秘策である。
このプリントは各科目をテスト形式にして作ったのだが、決して適当に問題を作ったわけではない。過去七回のループで得た情報のテスト問題である。俺は高校三年間を七回経験しており、その間に出された問題は全く同じであった。だが、いくら俺でも三年間分の中間、期末試験の問題を全教科完璧に覚えているかと言われればそれはない。
なので、そのプリントを完璧に全問解くことができるようになったとしても太一が百点を取ることはない。だが、出題範囲が限られていれば、どんな問題が出ていたか完璧に覚えていなくてもなんとなく分かる。実際、この問題は出てたなと思い出しながら作成できたので、問題数の内半分は確実にテストに出る問題となっているのだ。
「俺から太一への教えは、このプリントを只ひたすらに、毎日何度も繰り返しやって、問題文と答えを覚えれば大丈夫だということだ。以上!」
「嬉しいけど、何か扱いが雑だな! くっすーお前、莉奈ちゃんとの時間を独占する為にこんなものを用意したんじゃないだろうな? いや有難いけども」
「そんなわけないだろ。時間効率の為だ。さすがの俺でももう三週間もない間に、二人の勉強を丁寧に教えてあげる余裕はないからな。自分の勉強だってあるんだし。ただそのプリントの質は保障する。俺を信じてくれ」
「わかったよ。やればいいんだろやれば、やってやるよ。このプリントの問題を完全に暗記してくっすーより良い点取ってやるからな」
意気込みは立派だが、残念ながらそのプリントを完全に暗記しても、取れる点数は最大五十点ぐらいだ。よって太一が俺より点を取ることは不可能である。
「さて、じゃあ次は朝倉さんの番だな」
「あ、うん。よろしくお願いします」
こうして期末テストに向けた勉強会が幕を開けた。
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